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第3話 ログイン
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「おー、すげえ! サーバー生きてたか!」
一也の意識は、A.W.Oの通称『ログインルーム』の中にあった。
感覚としては、自分の身体も見えないほどの真っ暗な部屋で、視覚と聴覚のみが覚醒しているような、現実では味わえないものだ。
なんというか、この殺風景さが妙に懐かしい。
昨今のVRMMOといえば、ユーザー獲得のためにこうした細部の作りも徹底しており、派手で煌びやかな映像やBGMが鳴り響き、擬人化された美形のシステムナビゲーターが登場するものだが、さすがは初期型VRMMOだけあって、シンプルなものだ。
一也の肉体――リアルボディは、会社のシステム管理室の専用コンソールに横たわっている。
コンソールといってもカプセル型のベッドに近く、簡易的な生命維持装置が備わり、常時体調がモニターされていた。
仮想意識と肉体感覚が完全に剥離されるフルダイブでは、こうした安全措置が義務付けられている。
『ユーザーIDとパスワードを入力してください』
味も素っ気もない合成音声のシステムナビゲーターに促される。
10年もの間、いっさいのハード的メンテナンスもなく、放置されるがままのA.W.O用サーバーだったが、しぶとく壊れずに生き延びていてくれたらしい。
なにせ年代ものの機器だけに、接続もできずに終わるかと半ば諦めていたのだが、ここまではなんら問題ない。
逆に言うと、システムシーケンスがここまで走ったとなれば、プレイにも問題はないということだ。
各パーツが数年単位で使い捨てられる前提の機器運用にして、10年以上も手も入れらずにノントラブルでいたことは、まさに僥倖と言う他ない。
(あとはアカも生きてるといいんだけどな)
新規アカウントで初期作成してもいいが、登録手続きがなにかと面倒な上、どうせなら懐かしのアバターを10年越しに使ってみたいという気持ちもある。
中学時代に勉強などそっちのけでやり込んで、小遣いと寝る時間以外の余暇すべてを捧げて鍛えまくった我がアバター。
中二丸出しの設定だったと記憶しているが、今となってはいい思い出だろう。
たとえどんなに痛々しかろうと、どうせ他のプレイヤーがいるわけでもなく、余計な恥をかく心配もない。
一也はシステムナビゲーターに応えて、IDとパスワードを音声入力した。
暗闇の中、四角く光るコンソール画面が出現し、ふたつのアバター名が表示される。
<神人シノヤ>
<精人シノカ>
「やった、こっちも生きてた!」
アカウント削除を徹底拒否した当時の自分を褒めてやりたい。
A.W.O――アースガルド戦記オンラインは、アースガルドという異世界を舞台に、『神族』『魔族』『精霊族』が三つ巴で覇を競う戦争もののオンラインゲーム。
プレイヤーは特殊な力を持った超人類として、3つの陣営のいずれかに属してプレイする。
神族に属する者を神人、魔族なら魔人、精霊族なら精人と、それぞれ称されることになる。
ただし、ウォーゲームと銘打たれているものの、必ずしも戦闘に明け暮れる必要はなく、比較的プレイの自由度は高い。
事が種族間の争いなだけに、そうしょっちゅう戦争ばかりしているわけでもないからだ。
基本的に、通常は自由に行動し、戦争イベント発生時に所属陣営に参戦するといった流れになる。
せっかくなので、各陣営を簡単に説明しておくと――
『神族』は、天使や使徒と呼ばれる有翼人が率いており、配下には神獣に神精に聖霊、信徒の人族などがいる。
生産系や戦闘系のイベントのバランスがよく、プレイ方法の幅も広いことから、初心者が選びやすいオーソドックスな陣営である。
『魔族』は、悪魔が支配する陣営で、ファンタジー系ゲーム定番のゴブリンやオークなどのモンスターに加え、魔獣に邪霊や悪霊といった魔物を従えている。
ここはとにかく力こそがすべて!といわんばかりに戦闘系に偏ったイベント構成になっているので、ガチなプレイヤー向けだ。脳筋やバトルジャンキーに愛されていた。
『精霊族』は文字通り精霊が主となっており、五大精霊を筆頭に、妖精や幻獣などがここに含まれる。お馴染みエルフやドワーフといった亜人も属しているため、プレイヤーからの人気は高かった。
スローライフや、単に愛らしいものを愛でたい人向けだろう。
――と、覚えている範囲では、こんなところか。
ちなみに、アカウントの複数所持も可能で、一也はシノヤとシノカという、ふたつの複アカを持っていた。
「んー? とりあえず、どっちでもいいかなぁ。じゃあ、シノヤでいってみるか」
コンソールの<神人シノヤ>をタッチする。
シノヤは黒髪黒目の22歳の青年で、まだ胎児であった頃に身篭った母が魔人に襲われて、神人でありながらその身に呪いを宿して生を受け、周囲から忌まれて育つという不幸な生い立ちを持つ。
神人でありながら、神人には禁忌とされる、魔人の代名詞たる強力な破壊の魔術を有し、その力を以って憎き魔人に復讐を誓う、堕天の神。
――という脳内設定だ。もちろん、能力配分もそれっぽくし、外見や装備もまたそれっぽい。プレイヤー間の内輪でも、それっぽく振る舞っていた。
「呪いがこの身と精神を蝕んでゆく……俺にはもう時間がない……」
などと胸を押さえてのたまっていたことは、紛れもない黒歴史。
10年経過して成人した今となっては、赤面して軽く身悶えしたくなる。
『アバター名、シノヤ。ログインします』
システムナビゲーターの合成音声が響き、一也の――いや、シノヤの視界は光に覆われた。
一也の意識は、A.W.Oの通称『ログインルーム』の中にあった。
感覚としては、自分の身体も見えないほどの真っ暗な部屋で、視覚と聴覚のみが覚醒しているような、現実では味わえないものだ。
なんというか、この殺風景さが妙に懐かしい。
昨今のVRMMOといえば、ユーザー獲得のためにこうした細部の作りも徹底しており、派手で煌びやかな映像やBGMが鳴り響き、擬人化された美形のシステムナビゲーターが登場するものだが、さすがは初期型VRMMOだけあって、シンプルなものだ。
一也の肉体――リアルボディは、会社のシステム管理室の専用コンソールに横たわっている。
コンソールといってもカプセル型のベッドに近く、簡易的な生命維持装置が備わり、常時体調がモニターされていた。
仮想意識と肉体感覚が完全に剥離されるフルダイブでは、こうした安全措置が義務付けられている。
『ユーザーIDとパスワードを入力してください』
味も素っ気もない合成音声のシステムナビゲーターに促される。
10年もの間、いっさいのハード的メンテナンスもなく、放置されるがままのA.W.O用サーバーだったが、しぶとく壊れずに生き延びていてくれたらしい。
なにせ年代ものの機器だけに、接続もできずに終わるかと半ば諦めていたのだが、ここまではなんら問題ない。
逆に言うと、システムシーケンスがここまで走ったとなれば、プレイにも問題はないということだ。
各パーツが数年単位で使い捨てられる前提の機器運用にして、10年以上も手も入れらずにノントラブルでいたことは、まさに僥倖と言う他ない。
(あとはアカも生きてるといいんだけどな)
新規アカウントで初期作成してもいいが、登録手続きがなにかと面倒な上、どうせなら懐かしのアバターを10年越しに使ってみたいという気持ちもある。
中学時代に勉強などそっちのけでやり込んで、小遣いと寝る時間以外の余暇すべてを捧げて鍛えまくった我がアバター。
中二丸出しの設定だったと記憶しているが、今となってはいい思い出だろう。
たとえどんなに痛々しかろうと、どうせ他のプレイヤーがいるわけでもなく、余計な恥をかく心配もない。
一也はシステムナビゲーターに応えて、IDとパスワードを音声入力した。
暗闇の中、四角く光るコンソール画面が出現し、ふたつのアバター名が表示される。
<神人シノヤ>
<精人シノカ>
「やった、こっちも生きてた!」
アカウント削除を徹底拒否した当時の自分を褒めてやりたい。
A.W.O――アースガルド戦記オンラインは、アースガルドという異世界を舞台に、『神族』『魔族』『精霊族』が三つ巴で覇を競う戦争もののオンラインゲーム。
プレイヤーは特殊な力を持った超人類として、3つの陣営のいずれかに属してプレイする。
神族に属する者を神人、魔族なら魔人、精霊族なら精人と、それぞれ称されることになる。
ただし、ウォーゲームと銘打たれているものの、必ずしも戦闘に明け暮れる必要はなく、比較的プレイの自由度は高い。
事が種族間の争いなだけに、そうしょっちゅう戦争ばかりしているわけでもないからだ。
基本的に、通常は自由に行動し、戦争イベント発生時に所属陣営に参戦するといった流れになる。
せっかくなので、各陣営を簡単に説明しておくと――
『神族』は、天使や使徒と呼ばれる有翼人が率いており、配下には神獣に神精に聖霊、信徒の人族などがいる。
生産系や戦闘系のイベントのバランスがよく、プレイ方法の幅も広いことから、初心者が選びやすいオーソドックスな陣営である。
『魔族』は、悪魔が支配する陣営で、ファンタジー系ゲーム定番のゴブリンやオークなどのモンスターに加え、魔獣に邪霊や悪霊といった魔物を従えている。
ここはとにかく力こそがすべて!といわんばかりに戦闘系に偏ったイベント構成になっているので、ガチなプレイヤー向けだ。脳筋やバトルジャンキーに愛されていた。
『精霊族』は文字通り精霊が主となっており、五大精霊を筆頭に、妖精や幻獣などがここに含まれる。お馴染みエルフやドワーフといった亜人も属しているため、プレイヤーからの人気は高かった。
スローライフや、単に愛らしいものを愛でたい人向けだろう。
――と、覚えている範囲では、こんなところか。
ちなみに、アカウントの複数所持も可能で、一也はシノヤとシノカという、ふたつの複アカを持っていた。
「んー? とりあえず、どっちでもいいかなぁ。じゃあ、シノヤでいってみるか」
コンソールの<神人シノヤ>をタッチする。
シノヤは黒髪黒目の22歳の青年で、まだ胎児であった頃に身篭った母が魔人に襲われて、神人でありながらその身に呪いを宿して生を受け、周囲から忌まれて育つという不幸な生い立ちを持つ。
神人でありながら、神人には禁忌とされる、魔人の代名詞たる強力な破壊の魔術を有し、その力を以って憎き魔人に復讐を誓う、堕天の神。
――という脳内設定だ。もちろん、能力配分もそれっぽくし、外見や装備もまたそれっぽい。プレイヤー間の内輪でも、それっぽく振る舞っていた。
「呪いがこの身と精神を蝕んでゆく……俺にはもう時間がない……」
などと胸を押さえてのたまっていたことは、紛れもない黒歴史。
10年経過して成人した今となっては、赤面して軽く身悶えしたくなる。
『アバター名、シノヤ。ログインします』
システムナビゲーターの合成音声が響き、一也の――いや、シノヤの視界は光に覆われた。
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