A.W.O~忘れ去られた幻想世界を最強と最弱で席巻します~

まはぷる

文字の大きさ
上 下
3 / 15
プロローグ

第3話 ログイン

しおりを挟む
「おー、すげえ! サーバー生きてたか!」

 一也の意識は、A.W.Oの通称『ログインルーム』の中にあった。
 感覚としては、自分の身体も見えないほどの真っ暗な部屋で、視覚と聴覚のみが覚醒しているような、現実では味わえないものだ。

 なんというか、この殺風景さが妙に懐かしい。
 昨今のVRMMOといえば、ユーザー獲得のためにこうした細部の作りも徹底しており、派手で煌びやかな映像やBGMが鳴り響き、擬人化された美形のシステムナビゲーターが登場するものだが、さすがは初期型VRMMOだけあって、シンプルなものだ。

 一也の肉体――リアルボディは、会社のシステム管理室の専用コンソールに横たわっている。
 コンソールといってもカプセル型のベッドに近く、簡易的な生命維持装置が備わり、常時体調がモニターされていた。
 仮想意識と肉体感覚が完全に剥離されるフルダイブでは、こうした安全措置が義務付けられている。

『ユーザーIDとパスワードを入力してください』

 味も素っ気もない合成音声のシステムナビゲーターに促される。

 10年もの間、いっさいのハード的メンテナンスもなく、放置されるがままのA.W.O用サーバーだったが、しぶとく壊れずに生き延びていてくれたらしい。
 なにせ年代ものの機器だけに、接続もできずに終わるかと半ば諦めていたのだが、ここまではなんら問題ない。
 逆に言うと、システムシーケンスがここまで走ったとなれば、プレイにも問題はないということだ。
 各パーツが数年単位で使い捨てられる前提の機器運用にして、10年以上も手も入れらずにノントラブルでいたことは、まさに僥倖と言う他ない。

(あとはアカも生きてるといいんだけどな)

 新規アカウントで初期作成してもいいが、登録手続きがなにかと面倒な上、どうせなら懐かしのアバターを10年越しに使ってみたいという気持ちもある。

 中学時代に勉強などそっちのけでやり込んで、小遣いと寝る時間以外の余暇すべてを捧げて鍛えまくった我がアバター。
 中二丸出しの設定だったと記憶しているが、今となってはいい思い出だろう。
 たとえどんなに痛々しかろうと、どうせ他のプレイヤーがいるわけでもなく、余計な恥をかく心配もない。

 一也はシステムナビゲーターに応えて、IDとパスワードを音声入力した。
 暗闇の中、四角く光るコンソール画面が出現し、ふたつのアバター名が表示される。

<神人シノヤ>
<精人シノカ>

「やった、こっちも生きてた!」

 アカウント削除を徹底拒否した当時の自分を褒めてやりたい。

 A.W.O――アースガルド戦記オンラインは、アースガルドという異世界を舞台に、『神族』『魔族』『精霊族』が三つ巴で覇を競う戦争もののオンラインゲーム。
 プレイヤーは特殊な力を持った超人類として、3つの陣営のいずれかに属してプレイする。
 神族に属する者を神人、魔族なら魔人、精霊族なら精人と、それぞれ称されることになる。

 ただし、ウォーゲームと銘打たれているものの、必ずしも戦闘に明け暮れる必要はなく、比較的プレイの自由度は高い。
 事が種族間の争いなだけに、そうしょっちゅう戦争ばかりしているわけでもないからだ。

 基本的に、通常は自由に行動し、戦争イベント発生時に所属陣営に参戦するといった流れになる。

 せっかくなので、各陣営を簡単に説明しておくと――

 『神族』は、天使や使徒と呼ばれる有翼人が率いており、配下には神獣に神精に聖霊、信徒の人族などがいる。
 生産系や戦闘系のイベントのバランスがよく、プレイ方法の幅も広いことから、初心者が選びやすいオーソドックスな陣営である。

 『魔族』は、悪魔が支配する陣営で、ファンタジー系ゲーム定番のゴブリンやオークなどのモンスターに加え、魔獣に邪霊や悪霊といった魔物を従えている。
 ここはとにかく力こそがすべて!といわんばかりに戦闘系に偏ったイベント構成になっているので、ガチなプレイヤー向けだ。脳筋やバトルジャンキーに愛されていた。

 『精霊族』は文字通り精霊が主となっており、五大精霊を筆頭に、妖精や幻獣などがここに含まれる。お馴染みエルフやドワーフといった亜人も属しているため、プレイヤーからの人気は高かった。
 スローライフや、単に愛らしいものを愛でたい人向けだろう。

 ――と、覚えている範囲では、こんなところか。

 ちなみに、アカウントの複数所持も可能で、一也はシノヤとシノカという、ふたつの複アカを持っていた。

「んー? とりあえず、どっちでもいいかなぁ。じゃあ、シノヤでいってみるか」

 コンソールの<神人シノヤ>をタッチする。

 シノヤは黒髪黒目の22歳の青年で、まだ胎児であった頃に身篭った母が魔人に襲われて、神人でありながらその身に呪いを宿して生を受け、周囲から忌まれて育つという不幸な生い立ちを持つ。
 神人でありながら、神人には禁忌とされる、魔人の代名詞たる強力な破壊の魔術を有し、その力を以って憎き魔人に復讐を誓う、堕天の神。
 ――という脳内設定だ。もちろん、能力配分もそれっぽくし、外見や装備もまたそれっぽい。プレイヤー間の内輪でも、それっぽく振る舞っていた。

「呪いがこの身と精神を蝕んでゆく……俺にはもう時間がない……」

 などと胸を押さえてのたまっていたことは、紛れもない黒歴史。

 10年経過して成人した今となっては、赤面して軽く身悶えしたくなる。

『アバター名、シノヤ。ログインします』

 システムナビゲーターの合成音声が響き、一也の――いや、シノヤの視界は光に覆われた。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

ギルド設立~忘却の6人目~

ARIS
SF
かつて魔王を討伐した6人の勇者。そのうちの1人、トーヤは魔王討伐後に行方をくらませる。そんな中、町のはじの方である一つのギルドが設立される。そこは誰もが近付こうとせず、とてもボロボロな建物だった。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...