7 / 25
第1章 幼年期
5歳児、刺客を撃退する
しおりを挟む
その日の夜、私は寝付けなくてベッドから身を起こした。
ベッド脇の水差しから水を汲み、喉を潤す。
「今夜はずいぶんと静かですこと」
いつも、寝室のドア脇に控えているはずのメイドの気配がない。
私が起き上がると、ご用伺いに寄ってきてもよさそうなのに。
正直なところ、私は異常な空気を感じていた。
ひりひりと肌を刺す独特の感覚。
これは『敵意』というやつね。
カーテンの陰から、黒衣の男性が2人、姿を覗かせていた。
いかにも裏稼業な風体は、当家の使用人ではない。
(ハロルド伯爵かローランド男爵辺りかしら?)
どちらも、お父さまの政敵。しかも過激派。
おおかた、令嬢である私をさらうか、それとも、警告として脅かすかのどちらかね。
5歳児に、いきなり刺客を送ってくる辺り、正気を疑うけれど。
お父様の追及で不正が発覚して、追い詰められているという噂は本当のようね。
華やかな貴きはずの世界も、物騒なこと。
私の使用人たちは無事かしら。
警告が目的なら、殺傷したりはしないはずだけれど。
「このガキだな。ご令嬢とやらは」
お客さまには礼を尽くさないと。
それが、アルフィリエーヌ家の令嬢たる私の役目。
「寝衣で失礼いたします。今宵はようこそいらっしゃいました。当家にはどのようなご用向きで?」
私はベッドから降り、服の裾を摘んでお辞儀をする。
「なんだ、このガキ。状況がわかってんのか?」
「なんせ頭お花畑な貴族の馬鹿ガキだ。わかってないんだろうよ。世の中には貴族と使用人しかいないとか思ってんじゃねえか?」
「違いねえ」
男たちの、いかにも下品な哄笑。
寝起きの音楽としては、いささか不快ね。
「さっさと終わらせちまおう。クライアントの依頼だ、殺すなよ。顔に傷をつけるだけでいい」
まあ、野蛮。淑女の顔に傷などと。
「奇遇ですわね。私もさっさと終わらせようと思っていたところですわ。夜更かしは美容の大敵ですので」
手近な男の懐に潜り込んで、得意の肝臓打ちで仕留める。まずは1人。
「こいつ!?」
あら。気配が変わったみたいね。
混乱していたのに、すぐに切り替える辺り、さすがはプロといったところかしら。
「空手はご存知?」
男がナイフで切りかかるのを垂直に立てた左手で捌き、溜めた右手で鳩尾に正拳突き。
苦悶の声を漏らして、男が倒れる。それで終わり。
「やはり、私のこの身体能力は異常ですわね。……でも、使えるものはありがたく使わせていただくとしましょう」
私は男たちをシーツを結わえた簡易ロープで縛り上げ、
「夜中にうるさくされてはたまりませんわね」
猿轡もしっかりと噛ませてから、廊下に転がすと、再びベッドに潜り込んだ。
ベッド脇の水差しから水を汲み、喉を潤す。
「今夜はずいぶんと静かですこと」
いつも、寝室のドア脇に控えているはずのメイドの気配がない。
私が起き上がると、ご用伺いに寄ってきてもよさそうなのに。
正直なところ、私は異常な空気を感じていた。
ひりひりと肌を刺す独特の感覚。
これは『敵意』というやつね。
カーテンの陰から、黒衣の男性が2人、姿を覗かせていた。
いかにも裏稼業な風体は、当家の使用人ではない。
(ハロルド伯爵かローランド男爵辺りかしら?)
どちらも、お父さまの政敵。しかも過激派。
おおかた、令嬢である私をさらうか、それとも、警告として脅かすかのどちらかね。
5歳児に、いきなり刺客を送ってくる辺り、正気を疑うけれど。
お父様の追及で不正が発覚して、追い詰められているという噂は本当のようね。
華やかな貴きはずの世界も、物騒なこと。
私の使用人たちは無事かしら。
警告が目的なら、殺傷したりはしないはずだけれど。
「このガキだな。ご令嬢とやらは」
お客さまには礼を尽くさないと。
それが、アルフィリエーヌ家の令嬢たる私の役目。
「寝衣で失礼いたします。今宵はようこそいらっしゃいました。当家にはどのようなご用向きで?」
私はベッドから降り、服の裾を摘んでお辞儀をする。
「なんだ、このガキ。状況がわかってんのか?」
「なんせ頭お花畑な貴族の馬鹿ガキだ。わかってないんだろうよ。世の中には貴族と使用人しかいないとか思ってんじゃねえか?」
「違いねえ」
男たちの、いかにも下品な哄笑。
寝起きの音楽としては、いささか不快ね。
「さっさと終わらせちまおう。クライアントの依頼だ、殺すなよ。顔に傷をつけるだけでいい」
まあ、野蛮。淑女の顔に傷などと。
「奇遇ですわね。私もさっさと終わらせようと思っていたところですわ。夜更かしは美容の大敵ですので」
手近な男の懐に潜り込んで、得意の肝臓打ちで仕留める。まずは1人。
「こいつ!?」
あら。気配が変わったみたいね。
混乱していたのに、すぐに切り替える辺り、さすがはプロといったところかしら。
「空手はご存知?」
男がナイフで切りかかるのを垂直に立てた左手で捌き、溜めた右手で鳩尾に正拳突き。
苦悶の声を漏らして、男が倒れる。それで終わり。
「やはり、私のこの身体能力は異常ですわね。……でも、使えるものはありがたく使わせていただくとしましょう」
私は男たちをシーツを結わえた簡易ロープで縛り上げ、
「夜中にうるさくされてはたまりませんわね」
猿轡もしっかりと噛ませてから、廊下に転がすと、再びベッドに潜り込んだ。
0
お気に入りに追加
724
あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

婚約破棄をされるのですね、そのお相手は誰ですの?
綴
恋愛
フリュー王国で公爵の地位を授かるノースン家の次女であるハルメノア・ノースン公爵令嬢が開いていた茶会に乗り込み突如婚約破棄を申し出たフリュー王国第二王子エザーノ・フリューに戸惑うハルメノア公爵令嬢
この婚約破棄はどうなる?
ザッ思いつき作品
恋愛要素は薄めです、ごめんなさい。
婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。
!逆転チートな婚約破棄劇場!
!王宮、そして誰も居なくなった!
!国が滅んだ?私のせい?しらんがな!
18話で完結

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる