転生令嬢は失われた家族の愛を取り戻す

まはぷる

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第1章 幼年期

5歳児、刺客を撃退する

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 その日の夜、私は寝付けなくてベッドから身を起こした。
 ベッド脇の水差しから水を汲み、喉を潤す。

「今夜はずいぶんと静かですこと」

 いつも、寝室のドア脇に控えているはずのメイドの気配がない。
 私が起き上がると、ご用伺いに寄ってきてもよさそうなのに。

 正直なところ、私は異常な空気を感じていた。
 ひりひりと肌を刺す独特の感覚。
 これは『敵意』というやつね。

 カーテンの陰から、黒衣の男性が2人、姿を覗かせていた。
 いかにも裏稼業な風体は、当家の使用人ではない。

(ハロルド伯爵かローランド男爵辺りかしら?)

 どちらも、お父さまの政敵。しかも過激派。
 おおかた、令嬢である私をさらうか、それとも、警告として脅かすかのどちらかね。
 5歳児に、いきなり刺客を送ってくる辺り、正気を疑うけれど。
 お父様の追及で不正が発覚して、追い詰められているという噂は本当のようね。
 
 華やかな貴きはずの世界も、物騒なこと。

 私の使用人たちは無事かしら。
 警告が目的なら、殺傷したりはしないはずだけれど。

「このガキだな。ご令嬢とやらは」

 お客さまには礼を尽くさないと。
 それが、アルフィリエーヌ家の令嬢たる私の役目。

「寝衣で失礼いたします。今宵はようこそいらっしゃいました。当家にはどのようなご用向きで?」

 私はベッドから降り、服の裾を摘んでお辞儀をする。

「なんだ、このガキ。状況がわかってんのか?」

「なんせ頭お花畑な貴族の馬鹿ガキだ。わかってないんだろうよ。世の中には貴族と使用人しかいないとか思ってんじゃねえか?」

「違いねえ」

 男たちの、いかにも下品な哄笑。
 寝起きの音楽としては、いささか不快ね。

「さっさと終わらせちまおう。クライアントの依頼だ、殺すなよ。顔に傷をつけるだけでいい」

 まあ、野蛮。淑女の顔に傷などと。

「奇遇ですわね。私もさっさと終わらせようと思っていたところですわ。夜更かしは美容の大敵ですので」

 手近な男の懐に潜り込んで、得意の肝臓打ちリバーブローで仕留める。まずは1人。

「こいつ!?」

 あら。気配が変わったみたいね。
 混乱していたのに、すぐに切り替える辺り、さすがはプロといったところかしら。

「空手はご存知?」

 男がナイフで切りかかるのを垂直に立てた左手で捌き、溜めた右手で鳩尾に正拳突き。
 苦悶の声を漏らして、男が倒れる。それで終わり。

「やはり、私のこの身体能力は異常ですわね。……でも、使えるものはありがたく使わせていただくとしましょう」

 私は男たちをシーツを結わえた簡易ロープで縛り上げ、

「夜中にうるさくされてはたまりませんわね」

 猿轡もしっかりと噛ませてから、廊下に転がすと、再びベッドに潜り込んだ。
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