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魚、獲ったことってありますか?
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目的の河沿いに着いた頃には、もう夕方近くなっていた。
やはり上から見下ろしての距離と、実際の移動距離では、だいぶ感覚にズレがあるらしい。
地面が岩場だったのも手間取らされた。
岩場なんて、碌に歩いたこともなかったし。何度、岩の隙間に足を取られて、転びそうになったことか。
それでも、ここまで来た甲斐があった。
なにせ、ここには魚がいる! 魚だったら食べられる!
久しぶりの動物性蛋白質の予感に、お腹も鳴ってきた。
いざ行かん、お魚BBQへ!
と思って既に1時間。
根本的な問題に気づきました。魚ってどうやって獲るのでしょう?
僕だって、独自にいろいろ試してはみたんですよ?
竿かな、と手頃な枝を拾ってきてはみたものの、糸と針と餌がない。
そこいらの樹木の蔓は、釣り糸というには極太過ぎて、まず水に沈まない。
針と餌を探す前の段階で諦めた。
ならば銛かな、と竿を折って、尖った枝にしてみた。
一昔前は、芸人でも簡単に仕留められたくらいだから、頑張れば僕だって――
結果、芸人さんは偉大でした。水の中を素早く動く魚に、碌に河遊びなんてしたことがないゲームっ子の僕には、難易度が高すぎる。
だったらこれで、とバッグの中身を出して空にし、網代わりにしてみたけれど、これもダメ。
網目じゃないから水が抜けず、魚を追い込むどころか、水の抵抗でまともに水中で動かせない。
単なるバッグの濡らし損。
最終手段は手掴み。
この河は幅が広く、中央は深そうだけど、河縁は膝くらいと水深が浅く、水も澄んでいるので泳ぐ魚がよく見える。
これならなんとかなるかもしれない。
「よ~し、しろ! 今度こそ獲るから待っててね!」
「キュイ!」
しろは河原の岩場で、興味深そうにこちらを見ている。
ばしゃばしゃと水を撒き散らし、僕の悪戦苦闘が始まった。
見える範囲でも魚の数は多い。大きさも15cm前後となかなか手頃。
「だぁ~~~!」
でも、掴まらないのは何故か。
挙句の果てには、空振りした勢いそのままに、水の中に頭から引っくり返ってしまった。
全身ずぶ濡れになり身体も冷えた。
「ごめんよー、しろ。これはなかなかに難しいや」
僕は濡れた服を絞りながら、しろの待つ岩場に行くと――しろがなにやら口をもごもごさせていた。
嘴の端から、魚の尻尾らしきものが見えている。
おや?
「……それって、もしかして魚? どうしたの?」
「キュイ?」
しろは首を傾げてから、大空へと舞い上がった。
上空で一回転し、河面すれすれを滑空したかと思うと、一瞬だけ水切り石のように水面に顔を潜らせ、再び上空に舞い上がる。
「おお~」
僕は馬鹿みたいに大口を開けて顔ごとしろの軌跡を追っていた。
元の岩場の上空まで戻ったしろは、純白の翼を広げて音もなく着地した。
そして、しろの嘴には、見事な魚が咥えられている。
僕の苦労ってなんだったんだろ、という言葉は呑み込み、ここはもう、素直に狩人しろさまにあやかることにした。
◇◇◇◇◇
調達はしろに任せて、僕は焚き火の用意をすることにした。
河の周辺の落ち枝は湿気っているので、少し離れた場所まで薪となる枝を採りにいく。
30分ほどして岩場に戻ると、しろはよっぽど張り切ってくれたのか、岩場にちょっとした魚の山ができていた。
採ってきた薪で櫓を組み、しろのブレスで火を点けてもらう。ここでも、しろ大活躍。僕が役に立っていないだけの気もするけれど。
魚の口から細い枝を突き刺し、焚き火の周りに等間隔に並べる。
実際にやったことはないけど、マンガ知識からはこんなものかな。なんでも知っておいて損はないね。
待つこと数分で、香ばしくいい匂いが漂い始めた。じゅうじゅうと皮が焦げて弾け、内側から魚の脂が溢れる。濃厚な脂が枝を伝わって滴り落ちていた。
嗅覚と視覚のダブルパンチが胃を直撃し、恥ずかしげもなく音を響かせる。
もう我慢は無理でした。
「いっただっきまー」
語尾の「す」が被る勢いで、僕は焼き魚に齧りついた。
ほくほくして弾力のある身と、脂の甘さがたまらない。焼き魚って、こんなに美味しいものだったっけ。
貪る勢いで、一気に3匹分を食べ尽くし、ようやく一息吐いた。
欲を言うと、塩があれば、なおよかった。醤油があれば言うことない。だったら、大根おろしなんて――
いやいや、贅沢はいけない。
まずは最大、というか、ほぼ唯一の功労者、しろに感謝をしておこう。
「ありがとう、しろ。美味しかったよ」
口に出すのは大事だからね。
しろは、焼き魚に夢中で、気づいてなかったけれど。
さて、人心地着いたところで、そろそろ寝床の準備をしないとね。
しろの奮闘のおかげで、魚にはまだ余裕があるから、明日の食料も充分。
食料の心配をしなくていい分、明日は移動に集中できそう。
久しぶりの食いでのある食事で、英気も養えた。
明日は人里に出れるといいなぁ。
やはり上から見下ろしての距離と、実際の移動距離では、だいぶ感覚にズレがあるらしい。
地面が岩場だったのも手間取らされた。
岩場なんて、碌に歩いたこともなかったし。何度、岩の隙間に足を取られて、転びそうになったことか。
それでも、ここまで来た甲斐があった。
なにせ、ここには魚がいる! 魚だったら食べられる!
久しぶりの動物性蛋白質の予感に、お腹も鳴ってきた。
いざ行かん、お魚BBQへ!
と思って既に1時間。
根本的な問題に気づきました。魚ってどうやって獲るのでしょう?
僕だって、独自にいろいろ試してはみたんですよ?
竿かな、と手頃な枝を拾ってきてはみたものの、糸と針と餌がない。
そこいらの樹木の蔓は、釣り糸というには極太過ぎて、まず水に沈まない。
針と餌を探す前の段階で諦めた。
ならば銛かな、と竿を折って、尖った枝にしてみた。
一昔前は、芸人でも簡単に仕留められたくらいだから、頑張れば僕だって――
結果、芸人さんは偉大でした。水の中を素早く動く魚に、碌に河遊びなんてしたことがないゲームっ子の僕には、難易度が高すぎる。
だったらこれで、とバッグの中身を出して空にし、網代わりにしてみたけれど、これもダメ。
網目じゃないから水が抜けず、魚を追い込むどころか、水の抵抗でまともに水中で動かせない。
単なるバッグの濡らし損。
最終手段は手掴み。
この河は幅が広く、中央は深そうだけど、河縁は膝くらいと水深が浅く、水も澄んでいるので泳ぐ魚がよく見える。
これならなんとかなるかもしれない。
「よ~し、しろ! 今度こそ獲るから待っててね!」
「キュイ!」
しろは河原の岩場で、興味深そうにこちらを見ている。
ばしゃばしゃと水を撒き散らし、僕の悪戦苦闘が始まった。
見える範囲でも魚の数は多い。大きさも15cm前後となかなか手頃。
「だぁ~~~!」
でも、掴まらないのは何故か。
挙句の果てには、空振りした勢いそのままに、水の中に頭から引っくり返ってしまった。
全身ずぶ濡れになり身体も冷えた。
「ごめんよー、しろ。これはなかなかに難しいや」
僕は濡れた服を絞りながら、しろの待つ岩場に行くと――しろがなにやら口をもごもごさせていた。
嘴の端から、魚の尻尾らしきものが見えている。
おや?
「……それって、もしかして魚? どうしたの?」
「キュイ?」
しろは首を傾げてから、大空へと舞い上がった。
上空で一回転し、河面すれすれを滑空したかと思うと、一瞬だけ水切り石のように水面に顔を潜らせ、再び上空に舞い上がる。
「おお~」
僕は馬鹿みたいに大口を開けて顔ごとしろの軌跡を追っていた。
元の岩場の上空まで戻ったしろは、純白の翼を広げて音もなく着地した。
そして、しろの嘴には、見事な魚が咥えられている。
僕の苦労ってなんだったんだろ、という言葉は呑み込み、ここはもう、素直に狩人しろさまにあやかることにした。
◇◇◇◇◇
調達はしろに任せて、僕は焚き火の用意をすることにした。
河の周辺の落ち枝は湿気っているので、少し離れた場所まで薪となる枝を採りにいく。
30分ほどして岩場に戻ると、しろはよっぽど張り切ってくれたのか、岩場にちょっとした魚の山ができていた。
採ってきた薪で櫓を組み、しろのブレスで火を点けてもらう。ここでも、しろ大活躍。僕が役に立っていないだけの気もするけれど。
魚の口から細い枝を突き刺し、焚き火の周りに等間隔に並べる。
実際にやったことはないけど、マンガ知識からはこんなものかな。なんでも知っておいて損はないね。
待つこと数分で、香ばしくいい匂いが漂い始めた。じゅうじゅうと皮が焦げて弾け、内側から魚の脂が溢れる。濃厚な脂が枝を伝わって滴り落ちていた。
嗅覚と視覚のダブルパンチが胃を直撃し、恥ずかしげもなく音を響かせる。
もう我慢は無理でした。
「いっただっきまー」
語尾の「す」が被る勢いで、僕は焼き魚に齧りついた。
ほくほくして弾力のある身と、脂の甘さがたまらない。焼き魚って、こんなに美味しいものだったっけ。
貪る勢いで、一気に3匹分を食べ尽くし、ようやく一息吐いた。
欲を言うと、塩があれば、なおよかった。醤油があれば言うことない。だったら、大根おろしなんて――
いやいや、贅沢はいけない。
まずは最大、というか、ほぼ唯一の功労者、しろに感謝をしておこう。
「ありがとう、しろ。美味しかったよ」
口に出すのは大事だからね。
しろは、焼き魚に夢中で、気づいてなかったけれど。
さて、人心地着いたところで、そろそろ寝床の準備をしないとね。
しろの奮闘のおかげで、魚にはまだ余裕があるから、明日の食料も充分。
食料の心配をしなくていい分、明日は移動に集中できそう。
久しぶりの食いでのある食事で、英気も養えた。
明日は人里に出れるといいなぁ。
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