僕(あお)と仔竜(しろ)の彷徨記 ~ちょっとステータスが視えるだけの普通の中学生です~

まはぷる

文字の大きさ
上 下
2 / 26

いきなり山奥なんですけど、ここどこです?

しおりを挟む
 気づいたときには溺死寸前でした。

「がばげへっ!」

 肺から一気に空気がなくなる代わり、大量の水が胃の中に飛び込んでくる。
 状況はわからないが、死にそうなのは理解できる。どうやら僕は水の中にいて、溺れているらしい。

 僕が慌てて手足をばたばたさせてもがくと、不意に手になにかが触れた。細いロープのようなもの。
 もうなにがなんだかわからずに――助かりたい一心にそれを掴み、決死の思いで手繰り寄せる。

 ややあって、水面から顔が出た。新鮮な酸素が、今しばしの火事場の馬鹿力を与えてくれる。
 なおもロープを手繰り寄せ、僕は手近な地面に這い上がった。

「べへー! げえー」

 胃から水が逆流する。
 出てきた水の中に、小魚までいるのはなんの冗談か。

 吐き出せるだけ吐き出し、僕は力尽きて仰向けに転がった。水で冷えた身体に、地面と草の仄かな温かみが心地いい。

 どれだけ放心していたかはわからないが、ようやく周囲の状況を確認しようという余裕が出てきた。

 帰宅路に、河や用水路はなかった。では――

 と考えるまでもなく、そこは緑いっぱいの大自然の中だった。正確には森の木々に囲まれた泉。僕は目の前のこの泉にダイブして溺れたらしい。
 ロープのようなものは水面に張り出した樹木の蔓だった。これがなければ、溺死確定だったろう。

 ま、それはさて置くとして――

「ここ、どこ?」

 誰も答えてくれる者はいない。それもそのはず、周囲は見渡す限りの木々と山に囲まれた大自然で、人っ子一人いやしない。

 ってか、どうして僕はこんなとこにいるの?

 瞬間移動、神隠し、宇宙人拉致、異世界転移、思いつく可能性を挙げてはみても、肝心の正解を教えてくれる人がいない。

 枝を見つけてきて、泉に浮かんでいたバッグを回収する。

 頼みの綱のスマホは、あえなく水没でお亡くなりになっていた。電源すら入りはしない。
 他の携帯ゲーム機やら、電子機器系はすべて水死。なにもかもが無残な屍を晒していた。
 ただ、今日の授業の体育で使ったジャージだけは無事だった。汗濡れの臭い漏れ防止に、ポリ製の袋に包んでいたのが功を奏した。

 僕は、ずぶ濡れの制服を脱ぐ。当然のごとく、パンツまでもがびっちゃびちゃ。肌に貼り付いて気持ち悪いことこの上ない。

 大自然の解放感溢れるままに、下着含めて一気に脱ぎ去りマッパとなり、そそくさとジャージに着替える。ノーパンは、なんだかすーすーして心許ないが、この際は仕方ない。着替えがあっただけでもよしとしよう。

「さて、なにが起こったのか?」

 自問する。

「わかりません」

 自答する。
 はい、しゅーりょー。

 現実逃避はさて置き、これからどうすべきか。

 移動するなら早いほうがいい。今はまだ夕方だけど、このままではいずれ日も落ちる。夜にこんな山奥の森の中なんて、冗談じゃない。

 救助を待つならじっとしておくべきだろう。幸い、ここには溺れるほどの水はある。あくまで救助がくればの限定だけど。
 連絡手段もないからには、こちらの方法は不味いかな。

 それにしても、溺れる前に偶然視たステータス――あれが妙に気になる。

「確認しとこ」

 ―――――――――――――――
 レベル13

 体力 163000
 魔力 0

 筋力 65  敏捷 58
 知性 73  器用 52
 ―――――――――――――――

 魔力は0。やっぱりあれは見間違いだったのか……それとも体力のように、一定時間休んだら回復するものなのだろうか。
 なにせ、魔力なんてものを見たのは初めて。どういうものかも想像がつかない。

 って……あれ?

 もう一度ステータスを視てみる。
 体力の数値が、いちじゅうひゃくせん……10万? 163000!?

「なにこれ!」

 たった数十分で、体力1000倍になってるんだけど。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...