異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

文字の大きさ
上 下
91 / 184
第六章

消えた奉納品 3

しおりを挟む
「ってことでだ! ここにいるアキのおかげで、来月の奉納の儀もつつがなく執り行なわれることになったぜ!」

 場所は変わって、女王の間。
 居並ぶ重鎮の中で、女王であるデッドさんが声高らかに宣誓した。

 ちなみに当然のごとく、説明の中にはいろいろと省かれていることがあったが、そこはご愛嬌だ。

 重鎮エルフたちから、「「「おおっ!」」」と感嘆の声が上がった。

「ついでに森の恵みも、定期的に納入されることになった!」

 間髪入れずに「「「うおおーっ!」」」と、先ほどよりも大きなどよめきが走る。

 ブレないなぁ、エルフ。いいのか、エルフ。

「例の物と森の恵みについては、店のほうに使者を送るからよろしくな! ただ、肝心な対価だが――あたいらエルフは基本物々交換だから、それなりの価値のあるもんを渡すことになる。損をさせねぇことは冒険者であるあたいが保障する。そこは信用してくれていいぜ?」

「それはもちろんです」

 すでに叔父と話し合って、了解も得ている。
 デッドさんはあんなだが、冒険者としての目利きは確かということらしい。

「対価はそれでいいとして、あと問題は――今回の報酬だよなぁ。なんか望みはあるか、アキ?」

「報酬? 対価はあとで貰えるんでしょう?」

「馬っ鹿おめー、それは今後の話だろう? 今話してんのは、”今回の”報酬だ。こっちは依頼したんだぜ? わざわざ、こんなとこまで足運んだんだ。アキは冒険者じゃないにせよ、依頼として受けた以上、報酬を受け取るのは当然の権利で、依頼した以上こっちが報酬を払うのは義務だ。そこんとこ、はっきりさせとかねーとよ」

 きっぱりと断言される。
 依頼仕事依頼仕事としてきちんと割り切っている辺り、やはりデッドさんは女王という立場以前に冒険者なのだろう。その矜持が窺える。

 俺にしてみれば叔父の知人でもあるし、個人的に仲良くなったこともある。
 別になあなあで済ましてもいいつもりだったのだが、どうやらそれも失礼に当たるらしい。

「なんでも――はさすがに約束できねーが、なんせ北エルフの危機を救うんだから、大抵のことはOKだぜ? ほれ、欲しい物ややってほしいことがあったら言ってみ?」

 突然の事態に戸惑ったが、欲しい物といわれると、ひとつだけ思いつく物があった。
 でも、貴重品だと知っているだけにいいものか、という考えはあったが――他にはなにも浮かばず、悩んだ末にダメ元で言ってみることにした。

「できるならでいいんですけど、それを……」

 デッドさんの胸元を真っ直ぐに指差す。

「な……なあ~~~!?」

 デッドさんが大仰そうに、両腕で薄い胸を隠した。

「大胆だな、アキ! あたいの身体を要求するとは――マニアックな! でも、やぶさかじゃねえぜ!?」

「きききき、きさま――!」

 顔色を変えて俺に飛びかかろうとしたディラブローゼスさんが、周囲のエルフから羽交い絞めにされていた。

「ちょ、ち、違いますって! デッドさん、わかってて、わざとやってるでしょう!?」

「にゃははー! 残念、バレたか。本命は、こいつだろ?」

 デッドさんは胸元から、例の『精霊の水鏡』を取り出した。

「エルフの秘宝ではあるけど、なんせ片割れをすでにセージにあげてっからな。あたいがこのまま持ってても、価値としちゃあ低いし……いいぜ、持ってけ!」

 デッドさんがひょいと放り投げたのを、慌てて両手でキャッチする。

 カルディナの街にデッドさんがやってきてから始まった今回の一連の騒動の中で、俺には気づいたことがある。それは、スマホについてだ。
 本来は通信の届かない場所でも、通信できたこと――その現象が起こったのは、デッドさんがそばにいるときに限定されていた。

 対となる精霊の水鏡は、おそらく叔父の家のどこかにある。
 精霊の水鏡が声と姿を映し出すというなら、それは光と音を通すということ。
 つまり、電波も通せると考えていいだろう。

 神域の森から叔父の家まで届く電波が、今度は精霊の水鏡を中継することで、遠く離れたここまで届いている。
 それはWi-Fiのアクセスポイントの役割を果たしているようなもので、スマホをセットで持ち歩いているだけで、どこでも通信できるということだ。
 これからもこの異世界で暮らしていく上で、それは非常にありがたい。

「ありがとうございます!」

 感謝のあまり、思わず声を上擦らせてしまうと、不意を突かれたのかデッドさんは、珍しく照れ笑いを浮かべていた。

 こうして、俺の風変わりなエルフの郷への訪問は、幕を閉じることとなったのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...