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第六章
北風エルフの女王さま 3
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「それで、あの、デッドさん。今はどこに向かってるんですか?」
デッドさんの歩みには、ぶれがない。
目的地のエルフの郷には着いたものの、ここから先の予定は聞かされていなかった。
心構えもしておきたい。どちらにしろ付いていくしかないにしても、自分が向かう先くらいは事前に知っておきたいところだ。
「そりゃあ、聖殿に決まってんだろ? 最初に言ったじゃねえか、女王の話を聞いてもらうって」
「ええ!? エルフの女王様って、そんな簡単に会えるものなんですか? アポなしですよね?」
「だいじょぶ、だいじょーぶ!」
あまりに軽い”大丈夫”に、にわかに不安が掻き立てられる。
そんなこちらの心配をよそに、デッドさんは自信満々に突き進む。
おそらく向かう先は、前方に居座ているひときわ目立つアレだろう。
聖殿といっても建築物ではなく、住居と同じく木と一体化しており、天を突くほどの巨大な樹木がそこにある。
まだかなりの距離があるはずなのに、見上げないと天辺まで視界内に収めることができない。
樹齢何年だとか、考えるほうが馬鹿馬鹿しいほどの壮大さだ。
大口を開けて見とれていると、不意に背後から足音が聞こえた気がした。
それもひとつやふたつではなく、なにか大勢の足音がする。
ホラー映画ではないが不穏な気配を感じ取り、そお~っと顔を反らして、肩越しに視線だけで確認してみた。
(うおっ!? なにこれ!)
出そうになった声を呑み込む。
どういうわけか、後ろにすんごいエルフの行列ができていた。
なにやら皆さん一様に足取りが定まらず、どことなく恍惚とした表情を浮かべているのが印象的だった。
思わず足を止めると、さっと蜘蛛の子を散らすように即座に全員居なくなってしまう。
ただ姿を消していても、依然に注視されているらしく、視線を肌に感じた。
「……なんだったんだろ?」
不思議に思いつつも歩を再開すると、背後にまた気配が。
振り向くと、先ほどの焼き増しとなった。どうにも意図が窺えない。
(……知られざるエルフの習性とか? 達磨さんが転んだ的な?)
不可解だったが、デッドさんはどうやら理由もお見通しなようで、けたけたと面白そうに腹を抱えていた。
「げに恐ろしきは、『森の恵み』ってね」
一言だけ教えてくれたものの、どこかで聞いたような……くらいの感想しか抱けない。
デッドさんの様子からも害意はないようなので、諦めてエルフの行列を引き連れたまま、聖殿まで向かうことにした。
聖殿とはただでも巨大な樹木が、幾重にも絡まってできたものだった。
木々の隙間がきちんとした入り口となっており、階段代わりに木の根が続いている。
無粋な門番などは居らず、入り口は開け放たれていた。
そこまで来ると、背後のエルフの行列もいつの間にか居なくなっていた。
デッドさんは変わらぬ気楽な足取りで、ずんずんと奥へ進んでいる。
内部には衛兵と思しき、外の住人とは違って武装したエルフも見受けられた。
そんな中を、デッドさんは肩で風を切るように平然と突き進む。
衛兵エルフたちは、住人と違って俺を見て隠れこそしないものの、あからさまに不審な眼差しを投げかけてきていた。
同じエルフであるデッドさんがいなければ、即座に取り押さえられていたかもしれない。
「さーて、着いた! ここが女王の間さね!」
これまでと違って、ひときわ重厚な扉――それすらもデッドさんは意に介せず、どーん!といった感じで一息に開け放った。
(えー! いいのっ!?)
さすがに無礼すぎでは、と肝を冷やしたが、デッドさんは我関せずだ。自由すぎる。
室内には、複数のエルフたちが集っていた。
服装といい、見るからに偉そうだ。いや、この場にいる以上、実際に偉いのだろう。
エルフだけに見た目こそ若いが、えもいわれぬ風格がある。
きっとここにいるのは、エルフの郷の重鎮ばかりに違いない。
突然の来訪者――ましてやその片割れが人間であったのだから、エルフたちの取り乱しようもひどかった。
誰何の嵐かと身構えたが、予想に反して混乱はすぐさま沈静化した。
重鎮だけに、慮外の事態の対処にも慣れているのか、と思いきや――確かにそれもあったのだろうが、どちらかというと、デッドさんを視認してから落ち着きを取り戻すパターンが多かった。
心なしか、やれやれと嘆息している者たちまでいる。
「アキは、ここでちょいストップな」
デッドさんに制されたので、大人しく足を止める。
そこはちょうど女王の間の中央――女王への謁見の場らしい造りになっていた。
前方には自然の枝の階段が伸び、その先が一段高く、上座となっている。
眼下を見渡せるそこが、おそらく女王の席なのだろうが、そこがにいるはずのエルフの女王の姿は――ない。
デッドさんは堂々と階段を登ると、その途中の壁の枝に掛けてあった薄緑色をした半透明の羽衣を、掻っ攫うに手に取った。
そして、颯爽と羽衣を肩に羽織り、そのままどっかりとその場に座り込んで胡坐をかいた。
「ようこそ、北エルフの郷に! あたいが女王のデッドリーリートさね!」
と、得意満面に、ピースサイン!
え? は? え?
「ええええー!?」
声を上げて驚く俺を充分に堪能してから――デッドさんは「にひ」と悪戯っぽく笑うのだった。
デッドさんの歩みには、ぶれがない。
目的地のエルフの郷には着いたものの、ここから先の予定は聞かされていなかった。
心構えもしておきたい。どちらにしろ付いていくしかないにしても、自分が向かう先くらいは事前に知っておきたいところだ。
「そりゃあ、聖殿に決まってんだろ? 最初に言ったじゃねえか、女王の話を聞いてもらうって」
「ええ!? エルフの女王様って、そんな簡単に会えるものなんですか? アポなしですよね?」
「だいじょぶ、だいじょーぶ!」
あまりに軽い”大丈夫”に、にわかに不安が掻き立てられる。
そんなこちらの心配をよそに、デッドさんは自信満々に突き進む。
おそらく向かう先は、前方に居座ているひときわ目立つアレだろう。
聖殿といっても建築物ではなく、住居と同じく木と一体化しており、天を突くほどの巨大な樹木がそこにある。
まだかなりの距離があるはずなのに、見上げないと天辺まで視界内に収めることができない。
樹齢何年だとか、考えるほうが馬鹿馬鹿しいほどの壮大さだ。
大口を開けて見とれていると、不意に背後から足音が聞こえた気がした。
それもひとつやふたつではなく、なにか大勢の足音がする。
ホラー映画ではないが不穏な気配を感じ取り、そお~っと顔を反らして、肩越しに視線だけで確認してみた。
(うおっ!? なにこれ!)
出そうになった声を呑み込む。
どういうわけか、後ろにすんごいエルフの行列ができていた。
なにやら皆さん一様に足取りが定まらず、どことなく恍惚とした表情を浮かべているのが印象的だった。
思わず足を止めると、さっと蜘蛛の子を散らすように即座に全員居なくなってしまう。
ただ姿を消していても、依然に注視されているらしく、視線を肌に感じた。
「……なんだったんだろ?」
不思議に思いつつも歩を再開すると、背後にまた気配が。
振り向くと、先ほどの焼き増しとなった。どうにも意図が窺えない。
(……知られざるエルフの習性とか? 達磨さんが転んだ的な?)
不可解だったが、デッドさんはどうやら理由もお見通しなようで、けたけたと面白そうに腹を抱えていた。
「げに恐ろしきは、『森の恵み』ってね」
一言だけ教えてくれたものの、どこかで聞いたような……くらいの感想しか抱けない。
デッドさんの様子からも害意はないようなので、諦めてエルフの行列を引き連れたまま、聖殿まで向かうことにした。
聖殿とはただでも巨大な樹木が、幾重にも絡まってできたものだった。
木々の隙間がきちんとした入り口となっており、階段代わりに木の根が続いている。
無粋な門番などは居らず、入り口は開け放たれていた。
そこまで来ると、背後のエルフの行列もいつの間にか居なくなっていた。
デッドさんは変わらぬ気楽な足取りで、ずんずんと奥へ進んでいる。
内部には衛兵と思しき、外の住人とは違って武装したエルフも見受けられた。
そんな中を、デッドさんは肩で風を切るように平然と突き進む。
衛兵エルフたちは、住人と違って俺を見て隠れこそしないものの、あからさまに不審な眼差しを投げかけてきていた。
同じエルフであるデッドさんがいなければ、即座に取り押さえられていたかもしれない。
「さーて、着いた! ここが女王の間さね!」
これまでと違って、ひときわ重厚な扉――それすらもデッドさんは意に介せず、どーん!といった感じで一息に開け放った。
(えー! いいのっ!?)
さすがに無礼すぎでは、と肝を冷やしたが、デッドさんは我関せずだ。自由すぎる。
室内には、複数のエルフたちが集っていた。
服装といい、見るからに偉そうだ。いや、この場にいる以上、実際に偉いのだろう。
エルフだけに見た目こそ若いが、えもいわれぬ風格がある。
きっとここにいるのは、エルフの郷の重鎮ばかりに違いない。
突然の来訪者――ましてやその片割れが人間であったのだから、エルフたちの取り乱しようもひどかった。
誰何の嵐かと身構えたが、予想に反して混乱はすぐさま沈静化した。
重鎮だけに、慮外の事態の対処にも慣れているのか、と思いきや――確かにそれもあったのだろうが、どちらかというと、デッドさんを視認してから落ち着きを取り戻すパターンが多かった。
心なしか、やれやれと嘆息している者たちまでいる。
「アキは、ここでちょいストップな」
デッドさんに制されたので、大人しく足を止める。
そこはちょうど女王の間の中央――女王への謁見の場らしい造りになっていた。
前方には自然の枝の階段が伸び、その先が一段高く、上座となっている。
眼下を見渡せるそこが、おそらく女王の席なのだろうが、そこがにいるはずのエルフの女王の姿は――ない。
デッドさんは堂々と階段を登ると、その途中の壁の枝に掛けてあった薄緑色をした半透明の羽衣を、掻っ攫うに手に取った。
そして、颯爽と羽衣を肩に羽織り、そのままどっかりとその場に座り込んで胡坐をかいた。
「ようこそ、北エルフの郷に! あたいが女王のデッドリーリートさね!」
と、得意満面に、ピースサイン!
え? は? え?
「ええええー!?」
声を上げて驚く俺を充分に堪能してから――デッドさんは「にひ」と悪戯っぽく笑うのだった。
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