異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第六章

森の妖精 3

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 それにしても、485歳。
 日本史でいうと戦国時代、織田信長が生まれたのがそれぐらいじゃなかったっけ。世界史ならインカ帝国が滅亡したくらい?
 いろいろと想像を絶する。

「だいたい、昔から行動が突飛すぎるんだよ、あんたは! 10年も音沙汰ないと思ったら、いきなり押しかけてきやがって!」

「いきなりとはなんだ! それ言うなら、最初に音信不通にしたのはおめーだろ! あたいが10年前の別れ際に渡しといた『精霊の水鏡』はどうした!? 何度か連絡取ろうとしたのに、なんにも映ってねーし!」

「……『精霊の水鏡』?」

「これだ、これっ!」

 デッドさんは、胸元から手鏡のようなものを取り出して、叔父に見せつけた。

 掌ほどの丸い鏡の周囲に絡まった木の枝があしらわれており、鏡面が水面のように波打って揺れ、波紋が広がる様子が見て取れる。
 ただし、鏡自体が景色を反映させていることはなく、薄暗いどこかの暗がりが映し出されていた。

「あー……確かに見た覚えがあるな、それ。どこにやったっけ?」

「ふっざけんなよ! 一応これ、エルフの秘宝なんだぞ、このやろー! あたいと思って大事にしろ、つったろー!?」

 デッドさんが盛大に地団駄を踏んでいる。

 ……叔父がデッドさんと思ったがゆえの扱いではないことを祈ろう。

「秘宝なら秘宝って言っとけよ! あのときは確か、旅先のお土産と一緒に渡したろ!? 怪しげな木彫りの人面像や、温泉まんじゅうとごっちゃになった中に、そんな大層なもんが混じってるとは思わんだろうが!」

「じゃあなにか! あたいと思って大事にしたのは、木彫りの人面像のほうか!? どういう了見だ、ちっくしょー!」

 ああ、そういえば、玄関先に置いてあったね。それらしき人面像。
 そんな由来があったのか。

 置いてけぼりの俺は、何気に思った。

 待つこと30分ほど。
 息つく間もない攻防戦は延々と続いて、お互いに10年分を言い尽くしたことでようやく終了した。

「……それでなんだよ、今回は? まさか、久しぶりに顔見に来たってだけでもないだろ?」

「ま、半分くらいはそれ目的だったけどさ。実際はおめーに頼みたいことがあったんだよね。冒険者セージへの依頼さね」

 デッドさんの顔つきがにわかに変わった。
 叔父の顔を見上げて、真っ直ぐに指を突き付けている。

「けど、その前に!」

 その指がスライドして、叔父の背後――笑顔で静観していたリィズさんに移った。

「そっちを先に紹介してもらえねえ?」

 デッドさんも笑顔だったが、なんだか口元辺りが引きつって見えなくもない。

「ああ。面識はあるはずだろ? リィズだ。今は俺の嫁さん。隣のがリオで、俺の娘だ」

 ”嫁”という単語に、デッドさんがあからさまに反応した。

「へ~。あんた、やっぱあのときの獣人かぁ~。ずいぶん雰囲気が変わったみてーだけどな。同居してても、『セージにはまったく興味ありません』みたいな態度してたのに、嫁さん? 子供まで? へ~、色気のイの字もなかった、あの無愛想でぶっきら棒だった奴がね~。たった10年で変わるもんだ」

「セージ様の言葉ではないですが、10年もあれば人が変わるのに充分ではありませんか? 心変わりするのも、身を正すのも」

「うわ、なに? その言葉遣い! 『自分、不器用ですから』みたいな喋り方だったのに、キショ!」

 挑発的なデッドさんの物言いに、リィズさんは笑顔のままだったが、尻尾の毛がわずかに逆立っていた。

「やい、このピンク!」

 デッドさんが、あらためてリィズさんを指差す。

「あーい!」

 しかし、元気よく手を挙げて返事したのは、隣のリオちゃんだった。

 デッドさんの指先がへにょりと力を失う。

「え、いや~。お嬢ちゃんもたしかにピンクだけどよ、今は違うっつーか、なあ?」

 話の腰を豪快にへし折られたところを見かねて、俺はそそくさとリオちゃんを抱え上げ、その場から離脱した。

 リオちゃんはよく理解していなかったが、抱き運ばれてご機嫌だった。
 ついでにせがまれたので、肩車までしてあげた。

「……こほんっ」

 デッドさんの咳払い。
 そして、再び指を差す。気を取り直して再開するらしい。

 緊迫感が薄れてしまった感はあるが、とりあえず肩にリオちゃんを乗せたまま、成り行きを見守ることにした。

「やい、このピンク!」

「人のことを色で呼ぶのは止めてくださいと、以前にも言ったはずですが?」

「じゃあ、泥棒猫だ。猫の獣人だけにさ! セージは、あたいの可愛い可愛い玩具――もとい、弟子だったんだぞ!?」

「……って、おい。今、聞き捨てならない単語が出なかったか? しかも、俺はあんたの弟子になった覚えはねえぞ?」

 即座に叔父が突っ込んでいた。

「ど新人の頃、冒険者のノウハウを教えてやったろ? 最初は金髪の坊やだったから、同族じみた親しみ湧いて、いろいろ指導してやったってのに――見る間に黒髪に変わりやがって! ダークエルフかってーの!」

(ああ、叔父さん、学生時代は金髪に染めてたっけ)

 遠い記憶を懐かしく思う。
 関係ないが、リオちゃんが髪を握って、最近はまっている馬まごと(馬のままごと)を始めたので、頭皮が痛かった。

「そのノウハウとやらを信じたばかりに、うら若き冒険者の卵が、何度も死ぬ目に遭ったけどな!」

 それについては、デッドさんは完全に無視した。

 思えば、トラブルギフトと巻き込まれ体質――どんな相乗効果を生むのか、余人が計り知れないところではある。

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