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第十章
たまごろーってなんだろー? 1
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最近、特に卵らしくない行動(?)が増えてきたたまごろーに、さすがに本格的に調べてみる気になった。
まあ、卵が勝手に動き出す時点で、まったく気にならない者がいたら、それはそれでおかしいのかもしれないが。
カルディナの街は、人口1万を数えるだけあって、街所有の公共施設なども多い。その中にひとつに、図書館もある。
日本にいた頃から、図書館などというものはついぞ利用した試しがなかったが、ネットで調べられない以上、この異世界で調べごとをしようと思ったら、それこそ活用できそうなのは図書館くらいのものだった。
教科書以外で紙ベースの本を手にするのは久しぶりで、探すのはかなりの手間かもしれないが、他に手段がないのであれば仕方ない。
リコエッタから貰った手書きの地図を手に、街の大通りから外れて小道を北東に歩くこと30分ほど。
大した苦労もなく、目的の図書館に辿り着くことができた。
「お~。意外に立派な建物だなあ」
周囲を木々に囲まれた、落ち着いた雰囲気の2階建ての木造建築物だった。
質素すぎず、豪華すぎず。随所の柱や壁にさり気ない彫刻が施され、一見地味になりがちな重厚な造りにちょっとした華やかさも持たせている。
壁や柱は全体的に濃い茶色をベースに塗装されているが、それぞれに明暗を持たせることで野暮っぽさも払拭されている辺り、設計した人のセンスの良さを窺わせた。
街の住人の利用は無償となっている。
事前に聞いていた通り、玄関脇の受付で入館手続きを済ませて、さっそく中に入ってみた。
エントランスを抜けると、すぐに読書スペースとなっていた。
長机と椅子が等間隔に据えられ、かなり広めに場所が取ってある。
2階まで吹き抜けとなっており、各階に所狭しと並ぶ本棚の列には、各カテゴリ別に整然と本が並べられ、蔵書数としてはかなりのものと推測された。
(これだったら期待ができるけど、探すのに苦労しそうだな……)
本の山脈を眺めつつ、ひとりごちる。
読書スペースにいる人の数は20人ほどで、席の総数の2割にも満たない。
お互いに距離をとって座っていることもあって、結構がらがらというイメージだ。
初見での物珍しさに、キョロキョロしながら歩いてきた俺を見て、館内はざわついていた。
あからさまに訝しげな視線を投げかける者もいる。
こういったところでは普段の利用者が決まっていて、新顔は注目されがちなのかもしれない。
そう思って無闇に見回すのを止めて、とりあえず館内の奥の司書らしき女性のいるカウンターへと行ってみた。
「ご来館ありがとうございます。初めてのご利用ですか?」
こちらが挨拶するよりも早く、司書さんのほうから先に、にこやかに声をかけてきた。
「ええ、そうなんです」
あれ、この人?
もはや最近では慣れたものだが、いつもの違和感を覚える。
(この人も、きっと妖精かな)
司書さんの視線が俺の顔から横に逸れ、肩に座っている風精霊のシルフィに向いた。
「あら、珍しい。街中で精霊なんて。あなたは人間の精霊使いさんなんですね」
司書さんが微笑む。
妖精の存在を感じ取れるようになって初めてわかったことだが、カルディナの街には結構な数の妖精たちが住んでいた。
自然なくらい人間の生活に溶け込んでおり、その挙動だけでは判断もつかないほどだ。
そんな中では、人間に姿を変えた妖精より、シルフィのような精霊のほうがよっぽど珍しいらしい。
「ええ、まあ、一応はそうなんですよ」
「じゃあ、お互いに内緒ということで」
お茶目にウィンクする妖精の司書さんに、笑顔で応えた。
「それで本日はどのような御用でしょう? わたしにお役に立てることはございますか?」
「今日は、ちょっとした調べものを……」
そう切り出し、一呼吸置いてから訊ねてみる。
「奇妙に思われるかもしれないですけど、ひとりでに動きだす卵や、成長する卵ってご存知ですか? それっぽい図鑑とか伝承とか、噂話をまとめたものでもいいんですけど、紹介してもらえると助かります」
「そうですか、卵……」
下唇に指を添えた司書さんの視線が、俺の背後へと向けられた。
「それって、先ほどから後ろに連れられてる卵のような?」
言葉を受けて、俺は即座に振り返る。
――が、なにもいない。
(ならば!)
右左、右と見せかけてフェイントを入れて左と、連続して振り返る。
――でも、いない。
諦めたふりをして油断を誘い、最後に股の下から覗き込む――が、やっぱりいなかった。
司書さんは苦笑いだ。
「……まあ、こういったわけでして」
「はい。よく理解できました。そういった卵でしたら、人間よりも妖精の伝承のほうに多いかもしれませんね」
(つまり、ここにはないってことか)
落胆しかけたが、
「それでは、こことここと……あとは、ここ。それにここのこの辺りの本を探してみてください」
館内図を示しながら、書き留めたメモを渡してくれた。
「あるんだ?」
すごいバリエーションだな、カルディナ図書館。
あなどれない。
まあ、卵が勝手に動き出す時点で、まったく気にならない者がいたら、それはそれでおかしいのかもしれないが。
カルディナの街は、人口1万を数えるだけあって、街所有の公共施設なども多い。その中にひとつに、図書館もある。
日本にいた頃から、図書館などというものはついぞ利用した試しがなかったが、ネットで調べられない以上、この異世界で調べごとをしようと思ったら、それこそ活用できそうなのは図書館くらいのものだった。
教科書以外で紙ベースの本を手にするのは久しぶりで、探すのはかなりの手間かもしれないが、他に手段がないのであれば仕方ない。
リコエッタから貰った手書きの地図を手に、街の大通りから外れて小道を北東に歩くこと30分ほど。
大した苦労もなく、目的の図書館に辿り着くことができた。
「お~。意外に立派な建物だなあ」
周囲を木々に囲まれた、落ち着いた雰囲気の2階建ての木造建築物だった。
質素すぎず、豪華すぎず。随所の柱や壁にさり気ない彫刻が施され、一見地味になりがちな重厚な造りにちょっとした華やかさも持たせている。
壁や柱は全体的に濃い茶色をベースに塗装されているが、それぞれに明暗を持たせることで野暮っぽさも払拭されている辺り、設計した人のセンスの良さを窺わせた。
街の住人の利用は無償となっている。
事前に聞いていた通り、玄関脇の受付で入館手続きを済ませて、さっそく中に入ってみた。
エントランスを抜けると、すぐに読書スペースとなっていた。
長机と椅子が等間隔に据えられ、かなり広めに場所が取ってある。
2階まで吹き抜けとなっており、各階に所狭しと並ぶ本棚の列には、各カテゴリ別に整然と本が並べられ、蔵書数としてはかなりのものと推測された。
(これだったら期待ができるけど、探すのに苦労しそうだな……)
本の山脈を眺めつつ、ひとりごちる。
読書スペースにいる人の数は20人ほどで、席の総数の2割にも満たない。
お互いに距離をとって座っていることもあって、結構がらがらというイメージだ。
初見での物珍しさに、キョロキョロしながら歩いてきた俺を見て、館内はざわついていた。
あからさまに訝しげな視線を投げかける者もいる。
こういったところでは普段の利用者が決まっていて、新顔は注目されがちなのかもしれない。
そう思って無闇に見回すのを止めて、とりあえず館内の奥の司書らしき女性のいるカウンターへと行ってみた。
「ご来館ありがとうございます。初めてのご利用ですか?」
こちらが挨拶するよりも早く、司書さんのほうから先に、にこやかに声をかけてきた。
「ええ、そうなんです」
あれ、この人?
もはや最近では慣れたものだが、いつもの違和感を覚える。
(この人も、きっと妖精かな)
司書さんの視線が俺の顔から横に逸れ、肩に座っている風精霊のシルフィに向いた。
「あら、珍しい。街中で精霊なんて。あなたは人間の精霊使いさんなんですね」
司書さんが微笑む。
妖精の存在を感じ取れるようになって初めてわかったことだが、カルディナの街には結構な数の妖精たちが住んでいた。
自然なくらい人間の生活に溶け込んでおり、その挙動だけでは判断もつかないほどだ。
そんな中では、人間に姿を変えた妖精より、シルフィのような精霊のほうがよっぽど珍しいらしい。
「ええ、まあ、一応はそうなんですよ」
「じゃあ、お互いに内緒ということで」
お茶目にウィンクする妖精の司書さんに、笑顔で応えた。
「それで本日はどのような御用でしょう? わたしにお役に立てることはございますか?」
「今日は、ちょっとした調べものを……」
そう切り出し、一呼吸置いてから訊ねてみる。
「奇妙に思われるかもしれないですけど、ひとりでに動きだす卵や、成長する卵ってご存知ですか? それっぽい図鑑とか伝承とか、噂話をまとめたものでもいいんですけど、紹介してもらえると助かります」
「そうですか、卵……」
下唇に指を添えた司書さんの視線が、俺の背後へと向けられた。
「それって、先ほどから後ろに連れられてる卵のような?」
言葉を受けて、俺は即座に振り返る。
――が、なにもいない。
(ならば!)
右左、右と見せかけてフェイントを入れて左と、連続して振り返る。
――でも、いない。
諦めたふりをして油断を誘い、最後に股の下から覗き込む――が、やっぱりいなかった。
司書さんは苦笑いだ。
「……まあ、こういったわけでして」
「はい。よく理解できました。そういった卵でしたら、人間よりも妖精の伝承のほうに多いかもしれませんね」
(つまり、ここにはないってことか)
落胆しかけたが、
「それでは、こことここと……あとは、ここ。それにここのこの辺りの本を探してみてください」
館内図を示しながら、書き留めたメモを渡してくれた。
「あるんだ?」
すごいバリエーションだな、カルディナ図書館。
あなどれない。
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