異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第十章

謎のたまごろー 4

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 そしてお次は、最近なにかと行く機会の増えた、双子の『朝霧の宿屋』。
 精霊相談役の妖精、レプラカーンの双子の棲まう店だ。

 ペシルとパニムは嫌な顔ひとつせず、笑顔で俺たちを出迎えてくれた。
 お客でもない者に愛想を振りまくとは、実利主義の双子にしては珍しいとは思ったが……

「あの、アキト店長。ボク、ここに泊まっているのですけれど……」

「……あ」

 そうか、なるほど確かに。すっかりと失念していた。
 どうりで、双子が一分の隙もない営業スマイルなわけだ。フェブは実際に長期宿泊のお得意さまなのだから。

 それに双子なら、ベルデンでのフェブの顔を知っていてもおかしくはない。
 普段は天使と悪魔の双子でも、さすがに領主である伯爵家の御曹司相手では、天使の笑顔全開モードといったところか。

(うん。たまには俺にもその笑顔を向けてくれると嬉しいけどね)

 なんて思っている矢先から、フェブの死角を突いて、悪戯を仕掛けられてるのだが、これ如何に。

 宿を出るとき、双子は面白そうに笑っていた。なんだろう。


◇◇◇


 ひと通りの知人の店を訪ね終えたので、後はたまに行くお店とかを中心に、ぶらぶらして回ってみることにした。

 俺と違ってフェブは単に街中を歩いているだけでも目立つようで、道行く人々が視線を投げかけている。
 自然と貴族としての風格でも滲み出ているのだろうか。

 フェブラント・アールズ。貴族にして、伯爵家の御曹司。
 注目されるのも慣れたもので、さぞかし威風堂々としているのかと思いきや――なんだか妙にそわそわしていた。
 肩越しに、しきりにチラチラと背後を盗み見ている。
 いったい、なにを見てるんだろう。

 俺も振り返ってみたが、そこには別段、特筆すべきこともない。
 地面には平凡な石畳の道が続いているだけだ。

「……アキト店長」

 フェブがなにか言いたげに、上目遣いで俺の顔色を窺っているようだった。

「どうしたの?」

「いえ、あの……その……」

 歯切れが悪い。
 そして、しきりに背後を気にしている。

(んんん? なんだろ?)

 よくよく注意して見ると、道を行き交う人々とフェブの態度は、なんだか同種のように感じられた。
 その視線は、一様に俺の背後に集中しているように思える。

(んんんん? なに? なんなの?)

 もう一度――今度は身体ごと勢いよくばっと振り向いてみるが、やはりそこにはなにもなかった。


◇◇◇


 短い散策の時間も終わり、ふたりでシラキ屋に戻ってきた。
 何故か、どことなく気まずい空気が流れているのは気のせいだろうか。

「あっ!」

 店に入るや否や、フェブが驚きの声を上げた。

「え? なに?」

 咄嗟に振り返るものの、なにもない。

 店内を見回すが、特に異常どころか目を引く物すらなかった。
 いつもと変わらぬ店内の風景があるだけだ。

 無言のフェブの視線の先を追うと、そこはカウンター横の陳列棚の上だった。
 そこには店を出発したときと同じように、座布団の上にたまごろーが鎮座している。なにも代わり映えはない。

「あの、アキトさま……」

 呼び方が元に戻っていたが、フェブの表情が妙に神妙だったので、突っ込まずに続きを待つことにした。

「気づかれていないようだったので、言ってよいものか悩んだのですけれども……」

 言い淀むように、フェブが一呼吸置く。

 口にしてよいかの確認だったようなので、頷いて促すことにした。

「たまごろーでしたよね、その卵。ボクも途中から気づいたのですが……たまごろー、ずっとボクらの後を付いてきてました」

「…………は?」

 思わず素っ頓狂な声が出る。

「付いてきたって……どうやって?」

「その、あの。普通にゴロゴロと転がって、と言いますか」

 普通にって、あなた。相手は卵ですが。

「で、さっき店に入るときも、ドアを開けた際に、一緒にゴロゴロと転がって入ってきて……なんか転がりながら、棚の上に登っていきました。ごく普通に。とても不思議なものを見た気分です……」

「ははっ。まさか、そんなこと――」

 軽く笑い飛ばしかけて、

「――マジなの?」

 と、念を押してみた。

「本気という意味でしたら、マジです。大マジですね」

(……ちょっと待て。今日1日の周りの人の反応は、つまりはそういうことなのか? もしや、たまごろー……おまえって、その殻つきの状態で完全体なの!?)

 もしかして。
 売られた先からも、一晩かけてひたすらゴロゴロ転がって帰ってきたのだろうか。

「たまごろー。きみはいったい何者で?」

 またひとつ謎が増えた1日だった。
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