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第五章 回想編
迫る終焉
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遠くから、鐘の音が響き渡る。
3・3・5の断続的な鐘は、魔族襲撃の合図。
「またか! 今月だけでも何度目だ!?」
征司は毒づき、飲みかけだったジョッキのエールを一気に喉奥に流し込んだ。
場所はカルディナの冒険者ギルドに備えられた酒場。
居合わせた他の冒険者たちも各々の武器を取り、色めきたった。
「町からの正式な依頼きました! みなさん、出てください!」
ギルド受付からの伝令に、酔っ払っていた者も即座に酔いを吹き飛ばし、我先にと出口から飛び出していく。
ここ数年というもの、人間側の劣勢はいよいよ顕著になってきた。
こんな辺境の町でさえ、幾度もの魔族の襲撃に晒されている。
風の噂では、長年、魔王軍の進軍を阻んできた国防の要のガシルナ城塞が、ついに陥落したそうだ。
続くシルティノ砦が、今の最前線にして最重要防衛ラインとなっており、日夜激戦を繰り広げていると聞く。
この砦以降は、王都まで魔王軍の行軍を妨げられる規模の防衛施設がない。
それはすでに平民すらも知るところとなり、中央から逃げ出す者も後を絶たないという。
もともと魔族側は他種族の混乱を誘うため、大陸の至る場所に魔物や魔獣を無差別に解き放っていた。
魔族の優勢に伴い、国内全体でのそれら魔物や魔獣の被害も増し、冒険者ギルドへの依頼も最近では討伐クエストで溢れかえっている。
つい先日も、討伐中にカルディナ襲撃の報が入り、途中で取って返したほどだ。
(この国の終わりも近いのかもな)
大鉈・惨殺丸を肩に担いで疾走しながら、征司は思う。
実際、口には出さずとも、多くの人民がそう思っているのではなかろうか。
征司と複数の冒険者仲間が、大通りを併走する。
その数は10人程度だが、征司を筆頭として、いずれも危険な冒険を潜り抜けてきた兵揃いであり、個々の力量は部隊レベルに匹敵する。
「セージ! あんたは正門のバックアップに回ってくれ! 門がもう持たないらしい!」
「了解! こっちは俺ひとりでなんとかなるだろ! 他のところを頼む! 気をつけろよ!?」
「あんたもな、『辺境の勇者』様!」
「言ってろ! 後で討伐数がビリだった奴、今晩、奢りだからな!?」
笑い声と共に、全員が散開する。
次第に増してくる戦場の空気に、肌がぴりぴりした。
今度の襲撃は前回に増して大規模だと、本能が告げている。
……全員が無事に帰ることはないかもしれない。
こんなことを思い悩み、経験するのも何度目だろう。
日本にいた頃がどんなに平和だったか、こうして血を見ない日のほうが少ない日常にいると、征司には特にそう思えてくる。
もはや、その日本での記憶も、随分と朧気になってきた。
この世界に来てから何年経ったかなど、数えるのも止めて久しい。
現実逃避をしている暇もない。
征司は戦場に身を躍らせた。
3・3・5の断続的な鐘は、魔族襲撃の合図。
「またか! 今月だけでも何度目だ!?」
征司は毒づき、飲みかけだったジョッキのエールを一気に喉奥に流し込んだ。
場所はカルディナの冒険者ギルドに備えられた酒場。
居合わせた他の冒険者たちも各々の武器を取り、色めきたった。
「町からの正式な依頼きました! みなさん、出てください!」
ギルド受付からの伝令に、酔っ払っていた者も即座に酔いを吹き飛ばし、我先にと出口から飛び出していく。
ここ数年というもの、人間側の劣勢はいよいよ顕著になってきた。
こんな辺境の町でさえ、幾度もの魔族の襲撃に晒されている。
風の噂では、長年、魔王軍の進軍を阻んできた国防の要のガシルナ城塞が、ついに陥落したそうだ。
続くシルティノ砦が、今の最前線にして最重要防衛ラインとなっており、日夜激戦を繰り広げていると聞く。
この砦以降は、王都まで魔王軍の行軍を妨げられる規模の防衛施設がない。
それはすでに平民すらも知るところとなり、中央から逃げ出す者も後を絶たないという。
もともと魔族側は他種族の混乱を誘うため、大陸の至る場所に魔物や魔獣を無差別に解き放っていた。
魔族の優勢に伴い、国内全体でのそれら魔物や魔獣の被害も増し、冒険者ギルドへの依頼も最近では討伐クエストで溢れかえっている。
つい先日も、討伐中にカルディナ襲撃の報が入り、途中で取って返したほどだ。
(この国の終わりも近いのかもな)
大鉈・惨殺丸を肩に担いで疾走しながら、征司は思う。
実際、口には出さずとも、多くの人民がそう思っているのではなかろうか。
征司と複数の冒険者仲間が、大通りを併走する。
その数は10人程度だが、征司を筆頭として、いずれも危険な冒険を潜り抜けてきた兵揃いであり、個々の力量は部隊レベルに匹敵する。
「セージ! あんたは正門のバックアップに回ってくれ! 門がもう持たないらしい!」
「了解! こっちは俺ひとりでなんとかなるだろ! 他のところを頼む! 気をつけろよ!?」
「あんたもな、『辺境の勇者』様!」
「言ってろ! 後で討伐数がビリだった奴、今晩、奢りだからな!?」
笑い声と共に、全員が散開する。
次第に増してくる戦場の空気に、肌がぴりぴりした。
今度の襲撃は前回に増して大規模だと、本能が告げている。
……全員が無事に帰ることはないかもしれない。
こんなことを思い悩み、経験するのも何度目だろう。
日本にいた頃がどんなに平和だったか、こうして血を見ない日のほうが少ない日常にいると、征司には特にそう思えてくる。
もはや、その日本での記憶も、随分と朧気になってきた。
この世界に来てから何年経ったかなど、数えるのも止めて久しい。
現実逃避をしている暇もない。
征司は戦場に身を躍らせた。
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