145 / 184
第九章
騎士団、強襲 1
しおりを挟む
カルディナの街からの帰路、何度か叔父に電話してみたが、やはり繋がらない。
帰宅予定は明日。さすがにまだ通話圏内へは至っていないようだ。
普段より2割増しくらいの速度で、疾風丸を疾走させる。
視界に怪しい影はないが、尾行の用心のためだ。当然、普段とは通るルートも変えている。
ただ今の時速は80キロ。
瞬発的な速度ならまだしも、十数キロもの道のりで、しかも悪路だけに、この速度を維持して追走できる馬もいないだろう。
あのベルデン騎士団の副団長が、なんの目的を持って勇者である叔父に接触しようとしているのかわからない。
叔父に危害――は不可能だろう。だが、家族に手を出す危険性は否めない。
そしそうなったら、考えるだけで恐ろしい。
連中は、叔父の深すぎる家族愛など露ほども知らないはず。
自衛できるリィズさんはともかく、リオちゃんに傷でも負わせようものなら――血の雨が降る。
言葉の綾ではなく、文字通り現実に。
緊張しながら帰宅したが、拍子抜けするほど呆気なく、家に着いてしまった。
叔父はまだ帰っていなかったが、出迎えてくれたリィズさんとリオちゃんの様子も至って普通で、危険のきの字もなかった。
以前に叔父から聞いた話だが、リィズさんの獣人としての危機察知能力は同族の中でも折り紙付きで、音や気配――特に悪意や敵意の類は、仮に数キロの距離を隔てていても敏感に察せるらしい。
むしろ、遭遇戦の頻発する戦時下では、そんな能力がないと生き残るのは難しかったとか。
かつての獣人隊では高い戦闘力の他にもその秀逸な能力を買われて、小隊長に抜擢されていたという。
そのリィズさんがリラックスしているということは、平穏の証でもある。
俺も昼間から張りっ放しだった気を、ようやく緩めることができた。
その夜はいつも通りにリィズさんの夕飯を食べ、遅くまでリオちゃんと遊んだ。
念のため、叔父のスマホには、返信機能つきのメールを送っている。
叔父が神域の森に近づいてスマホが電波を拾えば、そのメールを受信した確認の自動メールが返信されてくる仕組みだ。
その着信音で、いち早く叔父の帰宅を知ることができる。
電波の受信許容距離は、神域の森を中心に電話で2キロ、メールでどうにか4キロといったところだ。
送受信量の少ないテキストが遠くまで届くのは、以前に春香と試して実証済。
4キロの距離は、叔父の足で徒歩で30分ほど。たった30分でも、この状況なら早いに越したことはない。
深夜まで起きてはいたが、残念ながらその夜はスマホが鳴ることはなかった。
俺は枕元にスマホを置いて、床に着くことにした。
翌朝。いつもの目覚ましとは違う電子音で目が覚めた。
「うう~ん、メール……? …………あっ、メール!」
寝ぼけた頭に活を入れる。
急いで枕元のスマホを見ると時刻は6:40。
メール着信1件となっていた。
送信先は、叔父の持つスマホからの自動返信メールで間違いない。
7時過ぎ頃には、ようやく叔父が帰ってくる。
今から起きて、朝の用意をすれば時間的にはちょうどいいだろう。
何事もなく朝を迎えることができた。これでまずは一安心。
手早く寝巻きを脱ぎ、着替えを終えたちょうどそのとき。
とんとんっ。
ドアがノックされた。
今この家の中でノックをするのは、リィズさんしかいない。
いつもならリィズさんが起きて、朝食の支度を始めようかとする時間帯だ。
台所は俺の部屋とは反対側だけに、普段このタイミングで部屋を訪れられたことはない。
(もしかして、朝っぱらからのメールの電子音がうるさかったかな?)
特に深くは考えずに部屋のドアに近づくと、開けるのを待たずに、リィズさんの声が聞こえてきた。
「起きてますね? アキトさん。街の方角から、100近い多数の足音が近づいてきています。速度的にも馬でしょう。もう10分もすると、ここまでやって来ます。わたしは先に出ていますから、アキトさんもリオを連れて玄関外に」
緊迫した声で手短に告げられ、リィズさんの気配がドアの向こうから消えた。
額から、どっと汗が吹きでる。
現状で馬を駆る集団となると、ベルデン騎士団以外ありえない。
叔父が近くまで戻っているのが救いだが、30分-10分=20分だ。
叔父が戻るまでの20分もあれば、なにが起こってもおかしくない。
昨夜までは、『たった』30分。今では20分『も』だ。なんて皮肉なのだろう。
慌てて部屋から出ると、廊下をピンク色のパジャマ姿のままで、リオちゃんがよたよたと歩いていた。
おやすみの友のぬいぐるみを引きずりながら、寝ぼけ眼をこすり、大欠伸をしている。
「あ~……にーたん、おあよ~……」
おそらく、今の今まで寝ていたところをリィズさんに起こされた直後だろう。
毛並みは獣人の命らしく、いつも寝起きには真っ先にリィズさんが整えているのだが、今のリオちゃんの髪は寝癖だらけで獣耳もはねる髪に埋もれており、尻尾に至っては寝癖で体積が3倍増くらいになっている。
ただ今は、悠長にしている暇もなく――俺は多少強引ながらもリオちゃんを小脇に抱え、玄関向けて走り出した。
帰宅予定は明日。さすがにまだ通話圏内へは至っていないようだ。
普段より2割増しくらいの速度で、疾風丸を疾走させる。
視界に怪しい影はないが、尾行の用心のためだ。当然、普段とは通るルートも変えている。
ただ今の時速は80キロ。
瞬発的な速度ならまだしも、十数キロもの道のりで、しかも悪路だけに、この速度を維持して追走できる馬もいないだろう。
あのベルデン騎士団の副団長が、なんの目的を持って勇者である叔父に接触しようとしているのかわからない。
叔父に危害――は不可能だろう。だが、家族に手を出す危険性は否めない。
そしそうなったら、考えるだけで恐ろしい。
連中は、叔父の深すぎる家族愛など露ほども知らないはず。
自衛できるリィズさんはともかく、リオちゃんに傷でも負わせようものなら――血の雨が降る。
言葉の綾ではなく、文字通り現実に。
緊張しながら帰宅したが、拍子抜けするほど呆気なく、家に着いてしまった。
叔父はまだ帰っていなかったが、出迎えてくれたリィズさんとリオちゃんの様子も至って普通で、危険のきの字もなかった。
以前に叔父から聞いた話だが、リィズさんの獣人としての危機察知能力は同族の中でも折り紙付きで、音や気配――特に悪意や敵意の類は、仮に数キロの距離を隔てていても敏感に察せるらしい。
むしろ、遭遇戦の頻発する戦時下では、そんな能力がないと生き残るのは難しかったとか。
かつての獣人隊では高い戦闘力の他にもその秀逸な能力を買われて、小隊長に抜擢されていたという。
そのリィズさんがリラックスしているということは、平穏の証でもある。
俺も昼間から張りっ放しだった気を、ようやく緩めることができた。
その夜はいつも通りにリィズさんの夕飯を食べ、遅くまでリオちゃんと遊んだ。
念のため、叔父のスマホには、返信機能つきのメールを送っている。
叔父が神域の森に近づいてスマホが電波を拾えば、そのメールを受信した確認の自動メールが返信されてくる仕組みだ。
その着信音で、いち早く叔父の帰宅を知ることができる。
電波の受信許容距離は、神域の森を中心に電話で2キロ、メールでどうにか4キロといったところだ。
送受信量の少ないテキストが遠くまで届くのは、以前に春香と試して実証済。
4キロの距離は、叔父の足で徒歩で30分ほど。たった30分でも、この状況なら早いに越したことはない。
深夜まで起きてはいたが、残念ながらその夜はスマホが鳴ることはなかった。
俺は枕元にスマホを置いて、床に着くことにした。
翌朝。いつもの目覚ましとは違う電子音で目が覚めた。
「うう~ん、メール……? …………あっ、メール!」
寝ぼけた頭に活を入れる。
急いで枕元のスマホを見ると時刻は6:40。
メール着信1件となっていた。
送信先は、叔父の持つスマホからの自動返信メールで間違いない。
7時過ぎ頃には、ようやく叔父が帰ってくる。
今から起きて、朝の用意をすれば時間的にはちょうどいいだろう。
何事もなく朝を迎えることができた。これでまずは一安心。
手早く寝巻きを脱ぎ、着替えを終えたちょうどそのとき。
とんとんっ。
ドアがノックされた。
今この家の中でノックをするのは、リィズさんしかいない。
いつもならリィズさんが起きて、朝食の支度を始めようかとする時間帯だ。
台所は俺の部屋とは反対側だけに、普段このタイミングで部屋を訪れられたことはない。
(もしかして、朝っぱらからのメールの電子音がうるさかったかな?)
特に深くは考えずに部屋のドアに近づくと、開けるのを待たずに、リィズさんの声が聞こえてきた。
「起きてますね? アキトさん。街の方角から、100近い多数の足音が近づいてきています。速度的にも馬でしょう。もう10分もすると、ここまでやって来ます。わたしは先に出ていますから、アキトさんもリオを連れて玄関外に」
緊迫した声で手短に告げられ、リィズさんの気配がドアの向こうから消えた。
額から、どっと汗が吹きでる。
現状で馬を駆る集団となると、ベルデン騎士団以外ありえない。
叔父が近くまで戻っているのが救いだが、30分-10分=20分だ。
叔父が戻るまでの20分もあれば、なにが起こってもおかしくない。
昨夜までは、『たった』30分。今では20分『も』だ。なんて皮肉なのだろう。
慌てて部屋から出ると、廊下をピンク色のパジャマ姿のままで、リオちゃんがよたよたと歩いていた。
おやすみの友のぬいぐるみを引きずりながら、寝ぼけ眼をこすり、大欠伸をしている。
「あ~……にーたん、おあよ~……」
おそらく、今の今まで寝ていたところをリィズさんに起こされた直後だろう。
毛並みは獣人の命らしく、いつも寝起きには真っ先にリィズさんが整えているのだが、今のリオちゃんの髪は寝癖だらけで獣耳もはねる髪に埋もれており、尻尾に至っては寝癖で体積が3倍増くらいになっている。
ただ今は、悠長にしている暇もなく――俺は多少強引ながらもリオちゃんを小脇に抱え、玄関向けて走り出した。
0
お気に入りに追加
538
あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる