異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第五章 回想編

獣人少女 3

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 いつもの口数少ない食事も終了した。
 あとは床に直に敷いた干し草の中で寝るだけだ。

 ちなみに、ふたりの間に艶っぽいことなど微塵もなく、本当にただ並んで眠るだけの日々だった。

「ときに、セージ様。寝る前にひとつ聞きたいことがある」

 いつもは食事を終えた途端にその場に横になり、ものの数秒で寝息を立てはじめるリィズなのだが、その日は珍しく征司に語りかけてきた。

「そこに扉ができているんだが」

 リィズは小屋の出入り口を指差した。

「おっ! 気づいてくれたか! あんまりにもノーリアクションだったから、どうしようかと思ったぜ! はっはっ!」

 言葉通り、単なる通行口だった穴に、手作り感溢れるドアがはめ込まれている。
 日中の余暇を利用し、征司が近所の森から拾ってきた木を加工して作ったお手製だった。

「やっぱ、開けっ広げってのも落ち着かないからな。あと、壁の隙間の補修とかもしてるんだぜ?」

 征司の言葉に、リィズが周囲を見回した。

「……たしかに、いつの間に。もしかして、掃除もしているのか……?」

「なんせ、こちとら居候の身だからな、これぐらいはよ。リィズはほんと身の回りっていうか、家事には疎いよな。さっきの食事だって、俺に任せるならもっと美味くしてやれるぜ?」

「もっと美味しく……?」

 上機嫌になって征司が得意げに言うと、味の部分でリィズが反応した。

 獣人だからかリィズだからか、リィズの料理はいたってシンプルで豪快だ。
 どんな肉だろうと、ただぶつ切りにして串に刺して焼くだけ。味付けはもちろんない。

 最初は、重傷の身体を労っての薄味かと征司は思っていたが、それがデフォルトだったらしく、体調が戻った今でも一向に変わる気配はなかった。
 新鮮な肉自体は美味しくとも、現代人の征司にとって塩味もないのでは、さすがに連日続くと味気ない。

「でも、肉は肉だろう? どんな獲物の肉だろうと、こうしてナイフで切って焼いたら一緒だろうに」

 リィズが寝るときも外さない、腰のナイフを示した。

「おい、ちょっと待て。今、どうしてそのナイフを見せた? 信じたくはないが、もしかして……そのナイフで肉を切りわけたりしてないだろうな……?」

 リィズのナイフは当然調理用ではない。それどころか、戦闘用だ。
 切るのものは食材ではなく、もちろん敵。実際に征司自身も斬りかかられた。

「なにか問題か?」

「問題だらけだ!」

 衛生面とかも当然だが、精神衛生的にも。
 敵の返り血を浴びた刃物での調理など、冗談ではないだろう。

 征司が必死に説明しても、リィズにはぴんと来ないようで、訝しげな表情を崩さなかった。

「うるさい奴だな。わかった、今度から肉を捌くときは、なるべく別の刃物を使うように留意しよう。それでいいだろう、セージ様?」

「『なるべく』『留意』じゃなくって、『必ず』『実行』でお願いします」

「はいはい。わかったわかった」

 口では一応了承していても、手をひらひらさせる態度はいかにもぞんざいだ。

(こいつ、絶対に気にしてやがらねえ。危険だ)

「それで、刃物を変えるとどうして肉が美味しくなるんだ?」

「そいつはいったん置いておけ。話が逸れちまったが、俺ならもっと美味しくできるって話だよ」

「肉なんて、どんな方法でも変わらないだろう?」

「馬鹿、おめー。調理法にしても、焼く以外にも蒸したり揚げたり煮込んだりと、いろいろあんだろう? 調味料だって使うと千差万別だぜ? だてに日中、リハビリ代わりに近所をうろうろしているわけじゃねーからな、使えそうなもんは見つけてある。俺は料理もわりかし得意でよ、期待していいぞ。はっはっ!」

「そうか、ならセージ様に任せる。あたしは寝る」

 さすがに誇大吹聴と取られたのか、リィズは興味をなくしたとばかりに、さっさと横になって寝入ってしまった。

(くっそ、見てろよ! 絶対にあっと言わせてやる……!)

 肩透かしとなった征司は、心中で密かに闘志を燃やした。

 後日、リィズが持ち帰った獣の肉を、約束通りに征司が調理を手がけ――尻尾と耳をぴんっと伸ばして肉料理に舌鼓を打つ、リィズの姿があったという。
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