56 / 184
第五章 回想編
獣人少女 2
しおりを挟む
征司の負った怪我はやはり重傷で、完治にはかなりの日数を要した。
その間、征司はリィズのもとでお世話になっていた。
まあ、お世話とはいっても、実際に世話を焼いてもらっているわけではない。
リィズは毎日、日が昇ると同時に朝早くから出かけ、夕方までは帰ってこない。日によっては、数日間も家を空けることも珍しくなかった。
そのため、雨露をしのぐために家を間借りしている程度だったが。
リィズが自らを奴隷と称した通り、彼女は戦奴だった。
獣人族は戦闘民族で戦いに長けており、それゆえ奴隷として戦に駆り出されているという。
敵は、なんと魔王。
魔族が存在するとの話なので、ゲームよろしくもしかしているかも、くらいに征司は軽く考えていたのだが、この世界の情勢は想像以上に逼迫していた。
太古より、この世界には人間族や魔族、獣人族をはじめとする亜人族、お馴染みエルフやドワーフなどの妖精族、6大系統に属する精霊族、古代よりの生神たる幻獣族など、多種多様な種族が混在していた。
もちろん、各種族は自然の流れにより棲み分けがなされており、種族間で多少の小競り合いはあるものの、各々の棲息地の中で独自に生の営みがなされていたという。
しかし、今から10年ほど前、魔族の王たる魔王が代替わりしたのを切っ掛けに、魔族は自らの眷属による統一支配を掲げ、全種族を相手取り全面戦争に打って出た。
もともと人間族と折り合いの悪かったこともあり、魔族はまず広大な土地と多大な人口を要する人間族の領地に侵攻してきた。
魔族は他種族の追随を許さない強力な魔法を操るが、種族的な特性として絶対数が少ない。
だからこそ、過去に起こった戦争では、個々の能力で勝る魔族に対して人間族が数で対抗することで、結果的に戦争が長引いて停戦がなされる、という歴史を繰り返してきた。
が、今生の魔王は、その歴史を踏まえて用意周到だった。
野生の獣を魔法で強化洗脳した魔獣の群れと、魔法で生み出した擬似生命体である魔物を率いて、満を持して襲い掛かってきたのである。
数の優位が覆されたことで、戦況は悪化の一途を辿るばかり。
この世界は、そんな戦争の真っ只中にあった。
とはいえ、なにせ世界を二分するほどの戦いなので、人間側が苦境にあるといってもそれは大局的なもので、各地域では一進一退を繰り返しているのが現状だ。
数年で決着のつくものではない――というのが、リィズの言だった。
獣人たちは、魔族との戦に破れて、部族の故郷を追われた身。
人間国家の庇護のもと、奴隷の身分に甘んじているという。
命じられている使命は、この辺境地区の死守。
人間の勢力下に侵攻してくる外敵の索敵と偵察、場合によっては殲滅までもが含まれる。
こういった他種族の奴隷を用いた用兵が各地で行なわれており、この辺境地区にはリィズたち獣人族が宛がわれているらしい。
「なるほどね。ときどき何日も家に戻らなくて、怪我して帰ってくるのは、そういう理由あってのことか」
征司は床の上に胡座をかき、正体不明の肉を焼いた串に齧りつきながら言った。
この肉は、リィズが仕留めてきた獲物をリィズ自ら調理したものだ。
時折、リィズはこうして獲物を持ち帰ってくる。
シンプルに串に刺して炙っただけのものだが、征司の療養生活の食料事情では、不足しがちな貴重な動物性蛋白質だった。
普段、リィズがいない間の征司の主食は、自生している野菜や森で拾った木の実だけ。
思い返すも、コンビニで食料を購入し忘れたのが悔やまれた。
「そう、ただ今回のは単なる威力偵察だ。魔族の指揮しない魔物と魔獣の混成軍程度なら楽でいい」
征司と向かい合わせに座るリィズは、ぶっきらぼうに答えて、同じように豪快に肉塊に齧りついていた。
(楽、ねえ)
リィズの身体のそこかしこに真新しい生傷が目立つ。
動きやすさを重視してか、露出が高い服装だけに隠しようがない。隠す気もないということだろうが。
征司は2本めの肉串に手を出す。
リィズもまた、遅れじと新たな串を手に取った。
「そーいや、リィズは何歳なんだ? 俺よか下?」
「17だ。それがどうした?」
「なんだ、タメか」
「タメ?」
「同い年ってことだ。そんな年で戦場にねえ」
征司がさらに肉串に手を伸ばすと、今度はリィズも同時だった。
「たとえ幼子だろうと、戦える者は戦うべきだ。ましてやそれが戦奴ならな」
「そんなもんかねえ」
最後の肉串を取ろうとしたところで、リィズに本気の殺気混じりに睨まれたので、征司は大人しく譲っておいた。
その間、征司はリィズのもとでお世話になっていた。
まあ、お世話とはいっても、実際に世話を焼いてもらっているわけではない。
リィズは毎日、日が昇ると同時に朝早くから出かけ、夕方までは帰ってこない。日によっては、数日間も家を空けることも珍しくなかった。
そのため、雨露をしのぐために家を間借りしている程度だったが。
リィズが自らを奴隷と称した通り、彼女は戦奴だった。
獣人族は戦闘民族で戦いに長けており、それゆえ奴隷として戦に駆り出されているという。
敵は、なんと魔王。
魔族が存在するとの話なので、ゲームよろしくもしかしているかも、くらいに征司は軽く考えていたのだが、この世界の情勢は想像以上に逼迫していた。
太古より、この世界には人間族や魔族、獣人族をはじめとする亜人族、お馴染みエルフやドワーフなどの妖精族、6大系統に属する精霊族、古代よりの生神たる幻獣族など、多種多様な種族が混在していた。
もちろん、各種族は自然の流れにより棲み分けがなされており、種族間で多少の小競り合いはあるものの、各々の棲息地の中で独自に生の営みがなされていたという。
しかし、今から10年ほど前、魔族の王たる魔王が代替わりしたのを切っ掛けに、魔族は自らの眷属による統一支配を掲げ、全種族を相手取り全面戦争に打って出た。
もともと人間族と折り合いの悪かったこともあり、魔族はまず広大な土地と多大な人口を要する人間族の領地に侵攻してきた。
魔族は他種族の追随を許さない強力な魔法を操るが、種族的な特性として絶対数が少ない。
だからこそ、過去に起こった戦争では、個々の能力で勝る魔族に対して人間族が数で対抗することで、結果的に戦争が長引いて停戦がなされる、という歴史を繰り返してきた。
が、今生の魔王は、その歴史を踏まえて用意周到だった。
野生の獣を魔法で強化洗脳した魔獣の群れと、魔法で生み出した擬似生命体である魔物を率いて、満を持して襲い掛かってきたのである。
数の優位が覆されたことで、戦況は悪化の一途を辿るばかり。
この世界は、そんな戦争の真っ只中にあった。
とはいえ、なにせ世界を二分するほどの戦いなので、人間側が苦境にあるといってもそれは大局的なもので、各地域では一進一退を繰り返しているのが現状だ。
数年で決着のつくものではない――というのが、リィズの言だった。
獣人たちは、魔族との戦に破れて、部族の故郷を追われた身。
人間国家の庇護のもと、奴隷の身分に甘んじているという。
命じられている使命は、この辺境地区の死守。
人間の勢力下に侵攻してくる外敵の索敵と偵察、場合によっては殲滅までもが含まれる。
こういった他種族の奴隷を用いた用兵が各地で行なわれており、この辺境地区にはリィズたち獣人族が宛がわれているらしい。
「なるほどね。ときどき何日も家に戻らなくて、怪我して帰ってくるのは、そういう理由あってのことか」
征司は床の上に胡座をかき、正体不明の肉を焼いた串に齧りつきながら言った。
この肉は、リィズが仕留めてきた獲物をリィズ自ら調理したものだ。
時折、リィズはこうして獲物を持ち帰ってくる。
シンプルに串に刺して炙っただけのものだが、征司の療養生活の食料事情では、不足しがちな貴重な動物性蛋白質だった。
普段、リィズがいない間の征司の主食は、自生している野菜や森で拾った木の実だけ。
思い返すも、コンビニで食料を購入し忘れたのが悔やまれた。
「そう、ただ今回のは単なる威力偵察だ。魔族の指揮しない魔物と魔獣の混成軍程度なら楽でいい」
征司と向かい合わせに座るリィズは、ぶっきらぼうに答えて、同じように豪快に肉塊に齧りついていた。
(楽、ねえ)
リィズの身体のそこかしこに真新しい生傷が目立つ。
動きやすさを重視してか、露出が高い服装だけに隠しようがない。隠す気もないということだろうが。
征司は2本めの肉串に手を出す。
リィズもまた、遅れじと新たな串を手に取った。
「そーいや、リィズは何歳なんだ? 俺よか下?」
「17だ。それがどうした?」
「なんだ、タメか」
「タメ?」
「同い年ってことだ。そんな年で戦場にねえ」
征司がさらに肉串に手を伸ばすと、今度はリィズも同時だった。
「たとえ幼子だろうと、戦える者は戦うべきだ。ましてやそれが戦奴ならな」
「そんなもんかねえ」
最後の肉串を取ろうとしたところで、リィズに本気の殺気混じりに睨まれたので、征司は大人しく譲っておいた。
0
お気に入りに追加
538
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる