異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

文字の大きさ
上 下
48 / 184
第四章

叔父が異世界から里帰りします 3

しおりを挟む
 駅での待ち合わせ時間まで、春香に奢らされる羽目になった。
 叔父との軽い旅行気分が兄妹ふたり旅になってしまい、春香は気落ちというか、はっきり言って不機嫌だった。

 俺にも連絡忘れの負い目があったので、最初はご機嫌取り気分だった。
 アイスやクレープくらいの可愛いものから始まり、昼飯に高そうなレストラン(実際に大学生にはお高めだった)、雑貨屋と続き、最後にブランドショップに入店しようとしたときには涙目で抑止した。

 そうこうして兄妹での友愛を深めていると、いつの間にやら叔父との約束の時間となったので、待ち合わせの駅前に移動することにした。

 時間ほぼぴったりに、叔父が混み合った駅の改札から現われる。
 ただし、人ごみの中、叔父を中心に半径2メートルほどは無人地帯となっていた。

 白の上下スーツに精悍な容貌の偉丈夫。
 異世界の勇者で魔王であるだけに、無意識に放たれるオーラも尋常ではない。
 お近づきになりたくないこと必至だろう。駅舎内で同席した人々には同情する。

「よーう、待たせたな! はっはっ!」

 叔父が片腕を上げて陽気に歩み寄ってくる。

 前を歩いていた人が、反射的にびくんっと身体を震わせていた。
 うちの叔父がごめんなさい。

「俺たちも今来たところだから」

 近づいてみると、真っ白だった叔父のスーツが薄汚れていることに気づいた。
 さほど酷いものではなかったが、白だけに汚れが目立つ。埃っぽいものに、煤っぽいもの、あとは……血?

「ああこれか? 悪いな、やっぱり汚しちまった。久しぶりの日本だからよ、いろいろあるんじゃないかと予想はしていたが――やっぱり物騒だな、この国もよ」

(日本が物騒……?)

 明言は避けながらも口を濁す叔父に、首を捻らざるを得なかった。
 隣の春香も、同じような顔をしている。

 世界的にも治安のいい日本。
 夜に外を女子供が出歩ける、お金の入った自販機が屋外に放置されていると、外国人から驚かれる日本。

 まさに物騒極まりない異世界での暮らしが半生に至ろうかという叔父を以って、なにがそう言わしめるのかは不思議だった。

 特に春香は異世界でのなんらかの出来事を思い出したのか、苦虫を噛み潰したようなしかめっ面をしている。

「さっさと行こうぜ。ここからふたりの実家まではどのくらいだ?」

 気を取り直して、スマホで時刻を確認した。

「公共機関だと、バスや電車は遠回りになるから、タクシーで20分くらい――」

 春香が手を挙げてタクシーを止めようとしていた。
 最寄のタクシーが一瞬減速し――叔父の姿を認めて『回送』表示に切り替わり、加速して通り過ぎた。
 ならばと駅のタクシー乗り場を見やると、数台は客待ちで並んでいたはずのタクシーが消えていた。

 ……さすがの叔父の貫禄か。誰しも危なそうな人には関わりたくないらしい。

「というわけで、歩きで1時間ちょっとくらいかな?」

 即座に言い直す。

「久しぶりの日本だ。見物がてら、歩きもいいさ。俺は構わないが、ふたりは大丈夫か?」

 大丈夫もなにも、異世界での普段の通勤距離はこの倍もあるだけに、歩きなどもう慣れたものだった。

 春香も陸上部出身だからか、体力的には問題ないとガッツポーズで応えていた。

 まあ、たった1時間ほどの徒歩圏内。
 特に見所や面白みのある土地柄でもなく、見物もなにもあったものではないけど――なんて、そのときは叔父の言葉の意味を取り違えていたのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...