異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第八章

双子の妖精さん 1

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 日も傾きかけた夕刻前、店のドアベルが鳴った。

「「こんにちはー」」

 可愛らしい声がハモる。
 小さな身体で扉を重そうに開けて入ってきたのは、宿屋の双子のペシルとパニムだ。

「やっ、ご無沙汰」

「「ごぶさー」」

 ふたりに会うのは久しぶりだ。

 ふたりは家業の宿屋のマスコット的キャラであり、毎日、家業の手伝いに忙しくしている。
 宿屋からはやや距離があることもあり、ナツメを筆頭とした他のメンバーほど、頻繁にこのシラキ屋を訪れることはない。
 思い出したように来店しては、散々俺をからかってから趣味の刺繍の素材を買って帰っていく、というのがいつもの流れだった。

 ちなみに、いまだに双子の見分けはついていない。
 一時期はペシルが怪我をしていたので区別できたが、治ってからはまたわからなくなった。

 見かけるたびに服装と髪形を変えてくる割には、いつもふたり揃って同じ服装で同じ髪型なので、あえて見分けられないようにしている感が強い。
 愛らしい容姿だが、これは両親の趣味か、はたまた本人たちの趣向か。

 今日は髪型をお団子にし、ニットのノースリーブに、ミニスカートという出で立ち。
 微笑ましい可愛さで、愛らしい容姿にもよく似合っているが。

(これで、ひとりは男の子なんだよなぁ……)

 そこがどうにも驚きだ。
 またからかわれるので、もちろん口には出さないでおく。
 代わりにじっと観察してみたが、やはり徒労に終わった。

「アキトの目が怖い」
「これはあれだね」
「「犯罪者の目だね!」」

 ふたり揃って、びしりと指差される。

「ここでは冗談で済むけど、余所でいうのは止めてね。洒落にならないから」

 異世界まで来て、悲しいレッテルを貼られたくはない。

 実はこの双子、密かなファンクラブまであるという話だ。
 見た目と毒舌のギャップが堪らない、とのことらしい。ナツメ情報だけに馬鹿にはできない。

 毒はさておき、たしかに可愛いのは認めよう。庇護欲を駆り立てられるというか。
 リオちゃんが天然の元気いっぱいの可愛さなら、双子は着飾ったお人形のような可愛さだ。
 一緒に遊んであげたくなるのがリオちゃんなら、褒めて撫でてあげたくなるのが双子というか。

 ……やめとこう。
 真面目に考えると、自分でも思考が○リショ○っぽく思えてしまって、泣きたくなる。

 それは置いておいても、リオちゃんとはそう年も離れていないはずだ。
 もしかすると、引き合わせたら、よい友達になってくれるかもしれない。

「今日はなに? また刺繍用の糸とか? この間、新色を見つけたから仕入れてみたんだけど、見ていってよ」

 いろいろと思い浮かべたことはおくびにも出さに問いかけたが、双子からの返答はなかった。

 普段なら、1を話すと3くらいで返ってくるのだが、珍しいことだ。

 見れば、店のカウンターに身を乗り出して、ふたりが店の奥のに座る俺を凝視していた。
 正しくは俺本人ではなく、周辺の空間に沿って、視線でなにかを追っている。

 飛んでいる虫でも追っているふうだったので、あちこち身の回りを確認したが、周囲にそれらしき痕跡はなかった。
 ただ、なおも双子の瞳は同じ方向に同じ動作で動いている。

「……精霊だね、珍しい」
「その翅、風の精霊だよね」

 はたと思い至る。

 そういえば、たしかに俺の傍には常に精霊が付き従っているはずだ。
 普段から目には見えないので、失念していた。

「「どーしてアキトが風の精霊の加護を得ているの?」」

(あれ? 待てよ。そうだよ、精霊は普通の人には見えないんじゃなかったっけ?)

 今まで見えていた人は、加護を授けてくれた本人のデッドさんくらいで、俺ですら精霊力が強いというエルフの郷で、ぼんやりと輪郭を見れた程度。
 もちろん、叔父一家をはじめとして、誰も精霊に気づいた者はいなかった。

 幼い頃は幽霊とか目に見えないものが見えることがあるとは言うが、だったら双子に見えて、同じ子供でも特に感受性の強いリオちゃんに見えないのはどうしてだろう。
 しかも、双子は精霊の中でも風の精霊を名指しした。翅のことも。
 どうも、かなりはっきりと見えているような気がする。

「ふたりとも……精霊が見えるの?」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「「……あ」」

(あ、ってなにー?)

 双子は顔を見合わせ、

「「精霊って、なんのこと?」」

 きょとんと同時に小首を傾げて、あからさまに誤魔化そうとした。
 今さら可愛さで紛らわそうにも無理がある。あまりに下手すぎた。

「いやいや。駄目でしょ。しっかりと見えてたし、はっきり言ったでしょ」

 双子は床にしゃがみ込むと、俺の目の前で堂々と密談を始めた。

「どうしよう、アキトにしては鋭いよ?」
「おかしいよ、アキトが鋭いはずないよ」
「そうだね、アキトは鈍いはず」
「そうだそうだ、おかしいよ?」

 双子がすっくと立ち上がる。

「「てめー、アキトの偽者だな!」」

 双子にまた指差されて断言された。
 ふたりの中で、俺ってどんな低評価なの。

「本物です……」

 何故か、こちらが本物であることの弁明をする羽目になった。
 開店当日のこと、炎の魔法石で恥を掻いたこと、双子にこんなからかわれ方をしたこと……などなど。

 ああ、碌でもない思い出が多い。
 なにが悲しくて、こんなことを話さないといけないのか、泣けてくる。

「その情けなさ、アキトだよね。間違いない」
「うん。もともと精霊が本人だって言ってたしね。精霊は嘘吐かないし」

 だったら、どうして弁明する必要があったのかと叫びたくなったが、大人なので我慢した。世知辛い。

「まあ、精霊の加護持ちだったらいいんじゃない?」
「そうだね、悪い人ではないんだし」
「「せーの」」

 双子の身体に、ぽんっと靄がかかった。
 靄が晴れると、そこにいた双子は先ほどまでと見た目が少し違っていた。

 基本的な容貌こそ変わらないが、艶やかな黒髪は全体が白くなり、耳の先が少し尖って額から小さな角が生えている。

「「ボクたちはレプラカーン。実は妖精の仲間なんです。あらためて、よろしくね」」

 双子の妖精は、とびっきりの笑顔で挨拶した。
 なに、この超展開。
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