42 / 184
第四章
出会えないふたり? 3
しおりを挟む
「その話は、わたしも詳しく聞きたい」
ドアのベルの音とともに登場したのは、その共闘した人のひとり、デジーだった。
いつものとんがり帽にローブ姿。昨日のぼろぼろになってしまった格好ではなく、服装だけは新品に着替えられてはいたが、手に巻いた包帯や頬に残る真新しい傷跡が痛々しい。
「デジー、もう起きて大丈夫なの?」
「ん。さっきまで寝てたから、もう平気。でも、途中で気絶したから、昨日の最後のほうの記憶が曖昧。勇者が現れて、すごい魔法を使ったと聞いた。その辺りをぜひ詳しく知りたい。切に」
鼻息荒く、病み上がりを感じさせない勢いで詰め寄ってくる。
魔法というのは、きっとラスクラウドゥさんの魔法のことだろうが、あの状況下では勇者のしわざだと情報が錯綜しても無理はない。
すごい魔法と聞いて、居ても立ってもいられずに飛び起きてくるのがデジーらしい。
「こんちわ~。あら、なんか大勢?」
リコエッタまでやってきて、結局いつものメンバーが全員集合してしまった。
なんにせよ、お互いに無事でなによりだ。
「もしかして、ちょうどよかったかもしれないね。よかったら、これどーぞ」
リコエッタは抱えていた大きめのバスケットを重そうにテーブルに置いた。
中身は大量のパンで、焼いてからそれほど時間が経っていないのか、まだほんのりと温かく、いい匂いが立ち昇っていた。
「ウチの店から炊き出しで用意したんだけど、焼きすぎて余っちゃって。今、近所にお裾分けしてるとこなの」
「あ、それ、すごくありがたい!」
美味しそうな匂いがしている時点で、俺の空腹も限界に達した。
皆で貪るようにパンを手に取って齧っている。
あのデジーすらも、一心不乱にパンを頬張っていた。
彼女は特に昨日からなにも食べてないはずなので、無理ないだろう。
「たはは。いや~、なんか壮絶だったねえ。ま、そこまで喜んでもらえると、パン屋冥利に尽きるけど」
差し入れてくれたリコエッタも呆れ気味だった。
瞬く間にパンを食べ尽くしたところで、ようやく一息ついた。
まだ、やるべきことは残っている。
「俺、またそろそろ出ないと」
「慌しいけど、どうしたの? 急ぎの用?」
どこまで話していいものか、としばし考えて、
「ちょっと野暮用ってとこかな。人捜し」
とだけ答えておいた。
「あたしも手が空いたところだし、手伝おうか?」
「いや、いいよ。皆それぞれ忙しくて、疲れているだろうし。店は開けたままにしておくから、くつろいでいってよ。珈琲だったら、ナツメに言ってね。任せた、ナツメ」
「はいさ~」
ナツメは言われるまでもなく、食後の珈琲ブレイクに入っていた。
「あ、だったらアキト! もうひとり、知り合いの子を呼んでもいいかな? 珈琲に興味持ってたみたいで、別のところにパンを配りに行ってるから、もう少ししたら戻ると思うから」
「もちろん、いいよ。じゃあ、俺はもう出るから。あとよろしく!」
返事もそこそこに、店を出ることにした。
さて、腹ごなしも終わったところで妹捜しの再開だ。日が暮れる前に、できるだけのことはやっておきたい。
叔父から春香と出くわした場所を、もっと詳しく聞いていればよかった。
まずは人通りの多い、大通り付近を中心にあたってみたほうがいいかもしれない。
小走りで大通りの方向へと駆け出したとき、背にした店の入り口のほうからベルの音が聞こえた。
先ほどリコエッタの言っていた知り合いの子とやらが来たらしい。
異世界での貴重な新しい友人になれるかもしれないので、できれば出迎えたかったが――状況が状況なだけに、今回は諦めるしかない。
「あ」
10メートルほど走ってから、すぐにUターンする羽目になる。
(そうだった! 店に着替えに帰ったんだった、俺!)
本来の店に戻った目的を思い出した。
度重なる来客と食欲が満たされたことで、きれいさっぱりと忘れてしまっていた。
出かけた途端に忘れ物をして戻るのは若干気恥ずかしくもあったが、汗だくのまま放っておくのも生理的に我慢できない。
汗臭く汚い身なりで方々を訪ね回るのも失礼だろう。
ただでも今日は長丁場になりそうだけに、余裕がある内に備えておいたほうがいい。
「いやー、忘れ物しちゃって」
店内に駆け込むと、たった今入店したばかりのリコエッタの知り合いとやらが振り向いて、至近距離で目が合った。
黒髪で黒目の小柄な少女。
きれいにカットされた髪、気の強そうな眉、その下で驚きに見開かれた大きな目。
小さな鼻、ぽかーんと開けられた口。
どこか懐かしい雰囲気、見覚えがある容貌。
――というか。
突如、少女の目尻が下がったかと思うと、整った顔立ちがくしゃくしゃになり、滝のごとく目の幅いっぱいの涙が溢れ出した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~!! に゛い゛ち゛ゃ゛ん゛た゛ぁ゛~~~! う゛え゛~~ん゛~~!!!」
なんかもう、この世の終わりとばかりの大泣きだった。
こうして、ようやく俺たち兄妹は、異世界での再会を果たしたのだった。
ドアのベルの音とともに登場したのは、その共闘した人のひとり、デジーだった。
いつものとんがり帽にローブ姿。昨日のぼろぼろになってしまった格好ではなく、服装だけは新品に着替えられてはいたが、手に巻いた包帯や頬に残る真新しい傷跡が痛々しい。
「デジー、もう起きて大丈夫なの?」
「ん。さっきまで寝てたから、もう平気。でも、途中で気絶したから、昨日の最後のほうの記憶が曖昧。勇者が現れて、すごい魔法を使ったと聞いた。その辺りをぜひ詳しく知りたい。切に」
鼻息荒く、病み上がりを感じさせない勢いで詰め寄ってくる。
魔法というのは、きっとラスクラウドゥさんの魔法のことだろうが、あの状況下では勇者のしわざだと情報が錯綜しても無理はない。
すごい魔法と聞いて、居ても立ってもいられずに飛び起きてくるのがデジーらしい。
「こんちわ~。あら、なんか大勢?」
リコエッタまでやってきて、結局いつものメンバーが全員集合してしまった。
なんにせよ、お互いに無事でなによりだ。
「もしかして、ちょうどよかったかもしれないね。よかったら、これどーぞ」
リコエッタは抱えていた大きめのバスケットを重そうにテーブルに置いた。
中身は大量のパンで、焼いてからそれほど時間が経っていないのか、まだほんのりと温かく、いい匂いが立ち昇っていた。
「ウチの店から炊き出しで用意したんだけど、焼きすぎて余っちゃって。今、近所にお裾分けしてるとこなの」
「あ、それ、すごくありがたい!」
美味しそうな匂いがしている時点で、俺の空腹も限界に達した。
皆で貪るようにパンを手に取って齧っている。
あのデジーすらも、一心不乱にパンを頬張っていた。
彼女は特に昨日からなにも食べてないはずなので、無理ないだろう。
「たはは。いや~、なんか壮絶だったねえ。ま、そこまで喜んでもらえると、パン屋冥利に尽きるけど」
差し入れてくれたリコエッタも呆れ気味だった。
瞬く間にパンを食べ尽くしたところで、ようやく一息ついた。
まだ、やるべきことは残っている。
「俺、またそろそろ出ないと」
「慌しいけど、どうしたの? 急ぎの用?」
どこまで話していいものか、としばし考えて、
「ちょっと野暮用ってとこかな。人捜し」
とだけ答えておいた。
「あたしも手が空いたところだし、手伝おうか?」
「いや、いいよ。皆それぞれ忙しくて、疲れているだろうし。店は開けたままにしておくから、くつろいでいってよ。珈琲だったら、ナツメに言ってね。任せた、ナツメ」
「はいさ~」
ナツメは言われるまでもなく、食後の珈琲ブレイクに入っていた。
「あ、だったらアキト! もうひとり、知り合いの子を呼んでもいいかな? 珈琲に興味持ってたみたいで、別のところにパンを配りに行ってるから、もう少ししたら戻ると思うから」
「もちろん、いいよ。じゃあ、俺はもう出るから。あとよろしく!」
返事もそこそこに、店を出ることにした。
さて、腹ごなしも終わったところで妹捜しの再開だ。日が暮れる前に、できるだけのことはやっておきたい。
叔父から春香と出くわした場所を、もっと詳しく聞いていればよかった。
まずは人通りの多い、大通り付近を中心にあたってみたほうがいいかもしれない。
小走りで大通りの方向へと駆け出したとき、背にした店の入り口のほうからベルの音が聞こえた。
先ほどリコエッタの言っていた知り合いの子とやらが来たらしい。
異世界での貴重な新しい友人になれるかもしれないので、できれば出迎えたかったが――状況が状況なだけに、今回は諦めるしかない。
「あ」
10メートルほど走ってから、すぐにUターンする羽目になる。
(そうだった! 店に着替えに帰ったんだった、俺!)
本来の店に戻った目的を思い出した。
度重なる来客と食欲が満たされたことで、きれいさっぱりと忘れてしまっていた。
出かけた途端に忘れ物をして戻るのは若干気恥ずかしくもあったが、汗だくのまま放っておくのも生理的に我慢できない。
汗臭く汚い身なりで方々を訪ね回るのも失礼だろう。
ただでも今日は長丁場になりそうだけに、余裕がある内に備えておいたほうがいい。
「いやー、忘れ物しちゃって」
店内に駆け込むと、たった今入店したばかりのリコエッタの知り合いとやらが振り向いて、至近距離で目が合った。
黒髪で黒目の小柄な少女。
きれいにカットされた髪、気の強そうな眉、その下で驚きに見開かれた大きな目。
小さな鼻、ぽかーんと開けられた口。
どこか懐かしい雰囲気、見覚えがある容貌。
――というか。
突如、少女の目尻が下がったかと思うと、整った顔立ちがくしゃくしゃになり、滝のごとく目の幅いっぱいの涙が溢れ出した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~!! に゛い゛ち゛ゃ゛ん゛た゛ぁ゛~~~! う゛え゛~~ん゛~~!!!」
なんかもう、この世の終わりとばかりの大泣きだった。
こうして、ようやく俺たち兄妹は、異世界での再会を果たしたのだった。
0
お気に入りに追加
538
あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる