異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第四章

出会えないふたり? 1

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 明朝、俺はカルディナの街にいた。

 いつもの出勤時間よりは、数時間も早い時間帯である。
 薄ぼんやりとした朝焼けの中、整然と軒を連ねる建物群が、人通りの少ない通りの石畳に長い影を伸ばしていた。

 普段ならこの時間は住人も活動を開始する前で、時折、仕入れに出かける商売人や、配達人などがちらほらする程度の、静寂とした街並みが広がっている。
 しかし、昨日通達があった通り、本日は早朝からすでに復興作業が始まっており、資材を運ぶ荷車やツナギ姿の作業員の姿が目立っていた。

 さすがは商人で成り立つ街だけあって、作業が迅速で手際もいい。
 これからの数日は特に、技術系のギルドが大忙しとなるだろう。
 実家の店が鍛冶職人ギルドに所属するナツメも、こんなときばかりは日頃のようにサボっている余裕もないはずだ。

 シラキ屋が所属する商人ギルドからは、今のところ表立って支援依頼は来ていない。
 ただ、自分も一員となった街のことだから、俺も当然のごとく手伝いをするつもりでいた。

 ただしそれは、昨晩の叔父の言葉を聞くまでの話だ。

 カルディナに妹の春香がいるという。
 ええっ!? という驚きの後、「カルディナってなに?」と訊ねたら怒られた。
 1ヵ月近くも通っていて、街の名前すら知らなかった事実が判明した。

 誰も教えてくれなかったし、不便もなかったから気にもしなかった。
 なるほど、どうりでギルドの登録申請書にやたらその単語が出てきていたはずだ、と今さらながらに思った。

 さておき、叔父が春香を見かけたのは昨日の魔族襲撃時のことで、街で助けた少女のことが記憶に引っかかっていたらしい。
 叔父が日本で最後に見た春香は、まだ3歳くらいの幼子だったはずだ。今のリオちゃんよりも幼い。
 服装もこちらのものだったそうなので、緊急時もあって気づけと言うほうが無茶なのかもしれない。
 むしろ、記憶に残っていた分だけ、幸運だったとすべきだろう。

 なにより、昨日こそ危機一髪だったらしいが、その後の無事は確認できた。
 安否が知れるまで、どうしても悪い考えを払拭できないでいただけに一安心だ。

 残る問題はひとつだけだろう。

「街の人口って、1万人くらいいるって聞いたような……」

 眼前に広がる朝焼けの街並みを一望する。

 1万。この復興作業に混雑する中から捜す1万分の1。
 本当に見つかるのか、これ。
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