101 / 184
第七章
地下ダンジョンから脱出します 3
しおりを挟む
「え~と、せいぜい鱗が何枚か剥げたくれえ……かな? あっちゃ~……倒せないのはわかっちゃいたけど、ノーダメかよ! あたいの持つ技で一等貫通力のあるアレでもあんな程度たぁ、自信なくすわな~」
デッドさんが落胆して、すとんと元の位置に腰を下ろした。
こうしてる間にも、前方の地竜との距離は縮まっている。
射撃前のどさくさでスピードが落ちていたとはいえ、到達まであと1分を切っているだろう。
「う~ん、どうすっかな。こりゃ参った」
「……もういっそ、ぶつけちゃいましょう」
俺はぼそりと言ってみた。
「は?」
「疾風丸ですよ。この速度での激突って、強烈そうに思えません?」
デッドさんにしては珍しく、呆気に取られたような表情をしていたが――意味を理解するにつれて普段の、それ以上の悪戯っぽい顔になった。
「言うね~、アキも。真っ向勝負の正面突破ってか。そういうのは、あたいも大好物さね! んで、どうする?」
「俺だって無茶言っているのは自覚してます。もう半ばやけくそなんで。なので、どうせなら最大出力で。デッドさんも手伝ってください」
「魔法石の制御は苦手なんだよな~。ま、お互い風の加護持ちだ。精霊に仲介してもらえば、タイミングくれー、なんとかなっかな?」
「じゃあ、後方から勢いよく風が噴射するイメージで」
「それってあれか? ――ごにょごにょ――みてえな? にひ♪」
「ぶっ! よくそんな下品な発想になりますね!? 小学生か! でもまあ、それでいいです。時間もないし」
そうこうしている間に、すでに地竜は目の前だ。もはや、その無機質な両眼すら視認できる。
地竜は真っ直ぐにこちらに向かい合い、大きくあぎとを開いている。
この体勢からの攻撃はブレスしかない。圧縮された空気の塊が、今か今かと解き放たれているのを待っているかのようだ。
「「風よ――弾けろぉ!!」」
思い思いに叫んだはずが、ふたりの声がハモった。
同時に発動したふたつの風の魔法石は相乗効果を及ぼし、想像を絶するほどの推進力を生み出した。すなわち、叔父から教わったところの『連結魔法』だ。
わざわざ飛び降りるまでもなく、あまりの勢いにふたりとも車体から投げ出されてしまった。
総重量100キロ強、推定時速300キロの特大の砲弾だ。
いかに頑強な地竜といえども、無事に済むはずはない。
疾風丸は唸りをあげて疾走し、地竜の顎を斜め下からかち上げた。
発射寸前だったブレスが強制的に閉じられた口蓋の中で弾けて、地竜の上顎もろとも前頭部を吹き飛ばす。
周囲にあらゆる体液を撒き散らしながら、地竜の巨体が横倒しに没した。
「よっしゃー! 決まったぜ!」
「やったやった!」
デッドさんは指を鳴らし、俺も今度こそ会心のガッツポーズを繰り返した。
そして、お互いにハイタッチ。
気絶させるくらいはできると踏んでいたが、まさか倒すことまでできようとは。
運も味方したとはいえ、想定以上の結果だった。
「見たかよ、エルフの最後っ屁の威力! ぼふん、ってな!」
「だから、下品ですってば! またディラブローゼスさんに怒られますよ?」
「かてーこと言うなって。今のうちに抜けんぞ、アキ!」
地竜の周辺には、他の生物はおいそれと近寄ってこない。
そのため、『地竜の通り道』の通路前に陣取っていた地竜亡き後、俺たちの邪魔をできる相手はいなかった。
疾風丸は失われてしまったとはいえ、死骸を迂回して通路に入り込んでしまえば、徒歩でもこっちのものだった。
――ただ、また浮かれていたのかもしれない。
油断はできない、運命の神に嫌われているのだと、あれだけ何度も思い知っていたはずなのに。
凶悪なブレスが、つい数歩先の地面を抉ってクレーターを造り出す。
直撃こそしなかったものの、その余波だけでデッドさんと共々、背後に紙屑のように弾き飛ばされた。
今度もまた精霊が助けてくれたらしく、怪我らしい怪我はなかった。
デッドさんもまた、(こちらは自前だろうが)直前に張った魔法壁のおかげで、無傷で済んでいた。
「そ、そんな……嘘だろ……?」
ブレスを放ったのは、当然、死んだ地竜ではない。
横たわる地竜の亡骸の向こう側から、別の地竜が顔を覗かせていた。先ほどよりも大きな個体だ。
しかもそれだけではなく、『地竜の通り道』の通路から下りてくる地竜が数体、群れを成していた。
慌ててブレスの範囲外まで走って距離を取るが、状況は予想を遥かに下回っての最低最悪といえた。
ここまでの徹底的な最悪までは、いくらなんでも想定していない。
今はまだ地竜の死体が通路に蓋をしている状態のため、他の地竜は通れず、すぐさま戦闘になることはないだろう。
ただそれも時間の問題だ。なにより背後からは、別の凶悪な生物たちも迫ってきている。
大宴会場と呼ばれる場所は、にわかに名前通りの様相を呈してきた。
デッドさんが落胆して、すとんと元の位置に腰を下ろした。
こうしてる間にも、前方の地竜との距離は縮まっている。
射撃前のどさくさでスピードが落ちていたとはいえ、到達まであと1分を切っているだろう。
「う~ん、どうすっかな。こりゃ参った」
「……もういっそ、ぶつけちゃいましょう」
俺はぼそりと言ってみた。
「は?」
「疾風丸ですよ。この速度での激突って、強烈そうに思えません?」
デッドさんにしては珍しく、呆気に取られたような表情をしていたが――意味を理解するにつれて普段の、それ以上の悪戯っぽい顔になった。
「言うね~、アキも。真っ向勝負の正面突破ってか。そういうのは、あたいも大好物さね! んで、どうする?」
「俺だって無茶言っているのは自覚してます。もう半ばやけくそなんで。なので、どうせなら最大出力で。デッドさんも手伝ってください」
「魔法石の制御は苦手なんだよな~。ま、お互い風の加護持ちだ。精霊に仲介してもらえば、タイミングくれー、なんとかなっかな?」
「じゃあ、後方から勢いよく風が噴射するイメージで」
「それってあれか? ――ごにょごにょ――みてえな? にひ♪」
「ぶっ! よくそんな下品な発想になりますね!? 小学生か! でもまあ、それでいいです。時間もないし」
そうこうしている間に、すでに地竜は目の前だ。もはや、その無機質な両眼すら視認できる。
地竜は真っ直ぐにこちらに向かい合い、大きくあぎとを開いている。
この体勢からの攻撃はブレスしかない。圧縮された空気の塊が、今か今かと解き放たれているのを待っているかのようだ。
「「風よ――弾けろぉ!!」」
思い思いに叫んだはずが、ふたりの声がハモった。
同時に発動したふたつの風の魔法石は相乗効果を及ぼし、想像を絶するほどの推進力を生み出した。すなわち、叔父から教わったところの『連結魔法』だ。
わざわざ飛び降りるまでもなく、あまりの勢いにふたりとも車体から投げ出されてしまった。
総重量100キロ強、推定時速300キロの特大の砲弾だ。
いかに頑強な地竜といえども、無事に済むはずはない。
疾風丸は唸りをあげて疾走し、地竜の顎を斜め下からかち上げた。
発射寸前だったブレスが強制的に閉じられた口蓋の中で弾けて、地竜の上顎もろとも前頭部を吹き飛ばす。
周囲にあらゆる体液を撒き散らしながら、地竜の巨体が横倒しに没した。
「よっしゃー! 決まったぜ!」
「やったやった!」
デッドさんは指を鳴らし、俺も今度こそ会心のガッツポーズを繰り返した。
そして、お互いにハイタッチ。
気絶させるくらいはできると踏んでいたが、まさか倒すことまでできようとは。
運も味方したとはいえ、想定以上の結果だった。
「見たかよ、エルフの最後っ屁の威力! ぼふん、ってな!」
「だから、下品ですってば! またディラブローゼスさんに怒られますよ?」
「かてーこと言うなって。今のうちに抜けんぞ、アキ!」
地竜の周辺には、他の生物はおいそれと近寄ってこない。
そのため、『地竜の通り道』の通路前に陣取っていた地竜亡き後、俺たちの邪魔をできる相手はいなかった。
疾風丸は失われてしまったとはいえ、死骸を迂回して通路に入り込んでしまえば、徒歩でもこっちのものだった。
――ただ、また浮かれていたのかもしれない。
油断はできない、運命の神に嫌われているのだと、あれだけ何度も思い知っていたはずなのに。
凶悪なブレスが、つい数歩先の地面を抉ってクレーターを造り出す。
直撃こそしなかったものの、その余波だけでデッドさんと共々、背後に紙屑のように弾き飛ばされた。
今度もまた精霊が助けてくれたらしく、怪我らしい怪我はなかった。
デッドさんもまた、(こちらは自前だろうが)直前に張った魔法壁のおかげで、無傷で済んでいた。
「そ、そんな……嘘だろ……?」
ブレスを放ったのは、当然、死んだ地竜ではない。
横たわる地竜の亡骸の向こう側から、別の地竜が顔を覗かせていた。先ほどよりも大きな個体だ。
しかもそれだけではなく、『地竜の通り道』の通路から下りてくる地竜が数体、群れを成していた。
慌ててブレスの範囲外まで走って距離を取るが、状況は予想を遥かに下回っての最低最悪といえた。
ここまでの徹底的な最悪までは、いくらなんでも想定していない。
今はまだ地竜の死体が通路に蓋をしている状態のため、他の地竜は通れず、すぐさま戦闘になることはないだろう。
ただそれも時間の問題だ。なにより背後からは、別の凶悪な生物たちも迫ってきている。
大宴会場と呼ばれる場所は、にわかに名前通りの様相を呈してきた。
0
お気に入りに追加
538
あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる