異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

文字の大きさ
上 下
8 / 184
第一章

違いますよ?

しおりを挟む
 賑やかな朝食を終え、屋外に出ると、すでに日はかなり高くなっていた。
 寝過ごしたのではなく、こちらはこんなものらしい。

 それを得意げに教えてくれたリオちゃんに手を引かれ、先導されるままに家の裏手に回った。

「おはよう、叔父さん……げ」

「おあよー、ぱぱ!」

「ういーす。はよー」

 リィズさんから、この時間に叔父は鍛錬していると聞いてやってきたのだが、予想斜め上の光景が広がっていた。

 鍛錬と聞いて、筋トレ的なものを想像してたのだが、それは素振りだった。
 素振りは別にいい。鍛錬としては真っ当だろう。

 問題は、素振りに使っている物だった。
 長さ3メートルほどの金属の棒――重さが何十キロほどあるのかは知らないが、俺では絶対持ち上げることもできないと断然出来るほどの塊を、叔父は涼しい顔で前後に振っていた。

 リオちゃんが特に驚いていないところを見ると、信じたくはないがこれで普段どおりなのだろう。

「どしたー? お手てつないで仲良しだなー」

「りおとにーたん、なかよしだよー」

「そっかそっか! で、秋人は?」

「俺は、昨日詳しく聞けなかったから、ちょっとこっちの世界について聞きたかったんだけど、お邪魔だよね?」

「構わないぞー。鍛錬の片手間でもよければだけどなー」

 素振りは続行らしい。

「こっちの異世界ってどんな感じなの?」

「どんな感じって、また漠然としてんなあ。ああ、そういや覚えているかわからんが、昔ゲームでなんたらクエストってのが流行ってただろ? あんな感じを想像するといいんじゃねー?」

 それって、今ではシリーズ11まで出て、まだ続いているけどね。
 とは、ややこしくなるので言わない。

「え? だったら魔法とかもあるの?」

「あるなー、人間は使えないけど。それっぽいことはできるなー」

(マジで!?)

 ラノベで異世界といえば魔法が標準装備だが、ここにも本当にあるとは。それだけでテンションが上がる。

「スキルもあったり? あ、スキルってのは技みたいなもので。ほら剣でいえば剣技とか! 技を発動したり!」

「技を発動ってのはないかなぁ? 技だったら頑張って腕を磨けばできるんじゃねー? こんな感じでー」

 にっと笑って素振りの速度が上がる。
 振り下ろしと振り上げの速度が速すぎて、ひと振りごとにつむじ風が巻き起こっている。

「魔族だったり魔王がいたり?」

「魔族はいるな。魔王も――あー、いるっちゃあいるな、うん」

 言葉を濁す理由がわからなかったが、魔王や魔族がいるということは、気分的には盛り上がるものの、命の危険もあるということだ。
 そういえば、森で出くわした巨大熊も、叔父は魔獣と呼んでいた。

 やはり、あまり安易に考えるべきものではないらしい。

 そのほか、いくつか質問してみた結果――この異世界はラノベでも『よくある』タイプの異世界らしいということがわかった。
 普通なら、こういった情報も小出しで集めていくのだろうが、15年も先駆者たる叔父がいる状況では楽なものだ。
 ビバ、生き字引!

(ってか、いつまで素振りしてんの!?)

 結構な時間を話していたはずだが、叔父は息ひとつ乱さず、延々と素振りを続けている。
 汗を掻いた様子もないのはどういうことか。
 これこそ、異世界召喚のチートスキルと信じたいが、実際に違うらしいので信じ難い。

 一緒にいたリオちゃんは暇を持て余し、繋いだままの手にぶら下がるように転寝していた。

 それからさらに小一時間ほど続けて、叔父の鍛錬は終わった。
 無造作に投げ出された金属棒が、重い音を立てて地面に落ちる。

 試しに持ち上げてみようとしたが、やはり無理だった。

「さあ、リオ、シャワー行くぞー!」

「あーい!」

 鍛錬の終了と共にきっちり目覚めたリオちゃんは、すでに叔父の肩の上だ。
 母屋に向かう途中、叔父が振り返って言った。

「そうそう、リオと仲良くしてくれてありがとうな」

「にーたんとなかよしー」

 どこまでもリオちゃんは無邪気だ。
 身内の幼子がこんなに愛らしいものかと頬が緩む。
 似つかないが、幼い頃に妹の世話をしていた情景が浮かんだ。

 微笑ましく眺めていると、

「……秋人。間違ってもロリ、なんてことねーよな……?」

 紛う事なき殺気がした。

「間違うか!」

「ろりってなーにー?」

「なんだろなー?」

 去っていく親娘を見送りながら、特殊な趣味がなくてよかったと心底思う今日この頃だった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...