異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第一章

違いますよ?

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 賑やかな朝食を終え、屋外に出ると、すでに日はかなり高くなっていた。
 寝過ごしたのではなく、こちらはこんなものらしい。

 それを得意げに教えてくれたリオちゃんに手を引かれ、先導されるままに家の裏手に回った。

「おはよう、叔父さん……げ」

「おあよー、ぱぱ!」

「ういーす。はよー」

 リィズさんから、この時間に叔父は鍛錬していると聞いてやってきたのだが、予想斜め上の光景が広がっていた。

 鍛錬と聞いて、筋トレ的なものを想像してたのだが、それは素振りだった。
 素振りは別にいい。鍛錬としては真っ当だろう。

 問題は、素振りに使っている物だった。
 長さ3メートルほどの金属の棒――重さが何十キロほどあるのかは知らないが、俺では絶対持ち上げることもできないと断然出来るほどの塊を、叔父は涼しい顔で前後に振っていた。

 リオちゃんが特に驚いていないところを見ると、信じたくはないがこれで普段どおりなのだろう。

「どしたー? お手てつないで仲良しだなー」

「りおとにーたん、なかよしだよー」

「そっかそっか! で、秋人は?」

「俺は、昨日詳しく聞けなかったから、ちょっとこっちの世界について聞きたかったんだけど、お邪魔だよね?」

「構わないぞー。鍛錬の片手間でもよければだけどなー」

 素振りは続行らしい。

「こっちの異世界ってどんな感じなの?」

「どんな感じって、また漠然としてんなあ。ああ、そういや覚えているかわからんが、昔ゲームでなんたらクエストってのが流行ってただろ? あんな感じを想像するといいんじゃねー?」

 それって、今ではシリーズ11まで出て、まだ続いているけどね。
 とは、ややこしくなるので言わない。

「え? だったら魔法とかもあるの?」

「あるなー、人間は使えないけど。それっぽいことはできるなー」

(マジで!?)

 ラノベで異世界といえば魔法が標準装備だが、ここにも本当にあるとは。それだけでテンションが上がる。

「スキルもあったり? あ、スキルってのは技みたいなもので。ほら剣でいえば剣技とか! 技を発動したり!」

「技を発動ってのはないかなぁ? 技だったら頑張って腕を磨けばできるんじゃねー? こんな感じでー」

 にっと笑って素振りの速度が上がる。
 振り下ろしと振り上げの速度が速すぎて、ひと振りごとにつむじ風が巻き起こっている。

「魔族だったり魔王がいたり?」

「魔族はいるな。魔王も――あー、いるっちゃあいるな、うん」

 言葉を濁す理由がわからなかったが、魔王や魔族がいるということは、気分的には盛り上がるものの、命の危険もあるということだ。
 そういえば、森で出くわした巨大熊も、叔父は魔獣と呼んでいた。

 やはり、あまり安易に考えるべきものではないらしい。

 そのほか、いくつか質問してみた結果――この異世界はラノベでも『よくある』タイプの異世界らしいということがわかった。
 普通なら、こういった情報も小出しで集めていくのだろうが、15年も先駆者たる叔父がいる状況では楽なものだ。
 ビバ、生き字引!

(ってか、いつまで素振りしてんの!?)

 結構な時間を話していたはずだが、叔父は息ひとつ乱さず、延々と素振りを続けている。
 汗を掻いた様子もないのはどういうことか。
 これこそ、異世界召喚のチートスキルと信じたいが、実際に違うらしいので信じ難い。

 一緒にいたリオちゃんは暇を持て余し、繋いだままの手にぶら下がるように転寝していた。

 それからさらに小一時間ほど続けて、叔父の鍛錬は終わった。
 無造作に投げ出された金属棒が、重い音を立てて地面に落ちる。

 試しに持ち上げてみようとしたが、やはり無理だった。

「さあ、リオ、シャワー行くぞー!」

「あーい!」

 鍛錬の終了と共にきっちり目覚めたリオちゃんは、すでに叔父の肩の上だ。
 母屋に向かう途中、叔父が振り返って言った。

「そうそう、リオと仲良くしてくれてありがとうな」

「にーたんとなかよしー」

 どこまでもリオちゃんは無邪気だ。
 身内の幼子がこんなに愛らしいものかと頬が緩む。
 似つかないが、幼い頃に妹の世話をしていた情景が浮かんだ。

 微笑ましく眺めていると、

「……秋人。間違ってもロリ、なんてことねーよな……?」

 紛う事なき殺気がした。

「間違うか!」

「ろりってなーにー?」

「なんだろなー?」

 去っていく親娘を見送りながら、特殊な趣味がなくてよかったと心底思う今日この頃だった。
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