異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

文字の大きさ
上 下
4 / 184
第一章

そして異世界へ

しおりを挟む
「バター醤油味は……ないか。せめてコンソメは……」

 がさごそとコンビニ袋を物色しながら、叔父の征司はやけにご機嫌だ。

「『炙り明太チーズ味』? なんだ、こりゃ? このメーカーはどこへ向かって突き進んでるのかね? ……いや、意外にいける? むしろ――アリだ」

「いやいや、ポテチはどうでもいいでしょ」

 幸せそうにポテチを頬張る叔父と対照に、俺はげんなりと手を振った。

 15年振りの再会――正直、俺は叔父が死んだとは思っていなかった。
 失踪した原因はさておき、いつか帰ってくる、とは漠然と感じていた。

 街中でばったりと会ったのならまた違っただろう。
 長期入院中の意識不明の患者が実は……とかドラマ的なものでもまた違った。
 事件に巻き込まれて組織の管理下で保護され、ようやくほとぼりも冷めて帰ってくる……なんてのも考えたことはあった。

 それが、本人宅の押入れから平然と戻ってくるとは想定外だった。
 それだけに、驚きや喜びよりも呆れが先行している現状がある。

(いや、鎧姿ってだけで、どんなシチュエーションでも論外か……)

「で、叔父さん?」

「で、なんだ、甥っ子よ?」

 指の滓を舐めながら、叔父はにこやかに問い返してきた。
 特に率先して説明してくれる気はないらしい。

(というより、子供相手の対応ってことか)

 子供の話し相手は、大人が一方的に話しても理解が追いつかない。
 ひとつひとつの事柄を確認して話す、一問一答が基本だ。

 つまり、叔父の中では、俺は最後に会った当時の子供のままらしい。
 成人し、背丈だけなら現在の叔父とそう変わらないのだが、叔父にとって甥とはそういうものなのだろう。

 嘆息ひとつ。
 気を取り直して、叔父に向き直った。

「今までどこでなにしてたの? 15年も」

「もう、そんなになるのか~。秋人も成長するはずだな。彼女できた?」

「いや、それ今関係ないし」

 どうせ、いないけど。

「ん~? どこでなに、っていうと説明しにくいな。説明できる自信もない。ははっ」

「もう皆には連絡したの?」

「親父やお袋、兄貴たちか? 息災か?」

「親戚一同、誰も不幸はないよ。叔父さんが行方不明になってた以外は」

「手厳しい! 見ての通り、俺もつい今しがたこっちに帰ってきたばかりでね。連絡は取ってない。まあ、すぐに連絡するつもりもねーけど」

「鬼かっ! あんた鬼だ! 皆、心配してるのに!」

「まあまあ。こっちにも事情ってものがあんのよ。俺も顔見たいし、声聞きたいってのもあるんだが……」

 口を濁す。
 たしかに、この状況でなんの事情もないほうがおかしいだろう。

「……じゃあ、その鎧や剣は?」

「見てくれは鈍重そうだが、意外に軽くて動きやすいんだぞ? 特にレアメタルをふんだんに使った外層部分は、対衝撃に優れていてだなあ――」

「いやいや、材質とか性能とかの問題じゃなくって」

「ああ、そうだったな。あっちじゃあともかく、こっちではこんなもん着ないか」

「……? あっち? こっち?」

「あっちはあっち。こっちはこっち。ん~、なんと説明したらいいものやら」

 叔父は押入れを指差し、次いで足元を指差した。
 指先に釣られて視線を下げたとき、畳に放置したままだった布団が目に入る。

 そのときになって、はたと気づいた。
 先ほど、叔父が出てくる直前、押入れを明けて布団を取り出した。
 折り畳まれた布団以外は、そこにはなにもなかったはずなのだ。
 大の大人ひとりが隠れておけるスペースすらもなく。

「実際に見てもらうのが早いかな」

 叔父はポケットから、先端に鉱石の付いたペンダントを取り出すと、2~3言なにかを呟いた。

「秋人、おまえファンタジーとか好きか?」

「剣と魔法、妖精や異世界とか? ラノベは好きだけど……」

 にわかにペンダントが鈍く光り出す。
 青紫色をした光は徐々に光量を増し、目を開けていられないほどになったところで、いきなり消失した。

 いつの間にか押入れが開いており、そこから見える景色に目を疑った。

「――そう、それそれ。あっちがその異世界ってやつだ」

 押入れの向こうは、陽光差し込む森の中だった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

処理中です...