転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

幕間 父の想い3

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 ウェダの肌を拭き終わると、開けっ放しの扉をノックする音が聞こえた。
 振り向くとそこにいたのはレヴィだった。

「入ってもいいかい」
「ああ」

 レヴィは廊下から椅子を二脚運び入れる。
 そして私と入れ替わるようにウェダの様子を見始めた。
 レヴィは肌や顔色、熱などを確認したあと、ウェダの下から器用に麻布を抜いて、毛布をかけた。

「座りなよ」
「ああ」

 沈黙に包まれる。
 彼女と最後に会ったのは三年も前になる。
 それまで毎年、年に一度は来ていたのに突然来なくなったのだ。

「ジェダ。君も人の親だったんだね」

 沈黙を破ったのは、レヴィだった。

「みんなから聞いたよ。君、ウェダを探して森に入ったんだって?」
「……ああ」
「そんなにウェダが心配だったかい」

 当然だ。
 私とリーアの子どもなのだから。



 なにも、言い返せなかった。
 私は冷静でなかった。
 冷静でいられなかった。
 里に行く途中、獣とは違う気配を感じた。
 王都からの手紙で魔物が増えていることは知っていた。
 それなのに、気配を気の所為だと言い聞かせ、私はウェダの元へ向かった。
 途中、それは確信に変わった。
 魔物がいる。
 犠牲が出ている。
 しかも、群れている。
 特徴からオオカミの魔物であることがわかった。
 そしてオオカミの魔物は大規模な群れをなすこともわかっていた。
 ……里に来ることもわかっていた。
 だが、私はウェダの元へ向かった。

「そんな顔をしても駄目だよ。君は勇者なんだ」
「……ウェダは、私とリーアの子だ」
「本当に、君も人の親なんだね」

 レヴィは大きくため息を吐く。
 そして、頭をガシガシと掻きながら言った。

「私ももっと早く引き受けて来るべきだったよ。ジェダがいるから大丈夫だ、なんて甘くみていた。すまない」
「いや……」

 言いかけて、言葉は詰まったまま出てこなかった。

「でも、だ。君に言って置かなければいけないことがある」

 レヴィは勢いよく立ち上がる。


 
 レヴィはまだ頭を掻きむしる。
 こういう時の彼女はいらいらとして落ち着いていない。
 それが自分に向いていることに、今気付く。

「ウェダは必死で逃げて、勇気を出して戦った。こんな幼い子どもがだ。なんで褒めてやらないんだ」

 そう言われて、考える。
 それでも答えは同じだった。

「戦えるものは戦わなくてはならない」
「それはそうだ!でもただ一言、よくやったと、頑張ったなと言ってやればいいんじゃないのか!」

 レヴィは声を荒げる。
 掻きむしる手は止まらない。

「ウェダは私の子だ。勇者二世なんだ」
「そんなことリーアが望むと思っていんのか!先生から何を学んだんだ!お前は!」

 私の胸ぐらを掴み、怒声を荒げるレヴィ。
 私が、間違っているのだろうか。
 リーアは、望まないかもしれない。
 先生……先生なら、どうする。

「ん……」

 小さな声が聞こえる。
 ベッドの方からだ。
 ウェダが寝返りをうっていた。
 その顔は、不安に怯える子どもの顔だった。

「……桶と布を洗って、ついでに返り血を流してこい」
「……ああ」

 レヴィに言われるがまま、私は桶と布を持って部屋を出る。
 扉を開け、振り向くと、レヴィは懐から小瓶を取り出し、自身の手に液体を掛けていた。
 そして、その手でウェダの頬を撫でていた。
 その横顔は、昔聞いた物語に出てくる慈母のようだった。
 開けっ放しの窓から入る風に乗って、柑橘の爽やかな甘い香りがふわりと流れてきた。

 
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