転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

10.狩るものと狩られるもの5

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「うっ……くそっ……」

 息が上がる。
 走る。
 逃げる。
 なにから?
 魔物から。

「うわっ!……ぐっ……」

 木の根に引っかかり盛大に転んだ。
 早く立て。
 早く走れ。

 
 くるるるる……

 
 茂みの中――ほど近いそこで、魔物が鳴いた。
 立ち上がって、見渡す。
 どこだ。
 どこにいる。


 くるるる……

 こっちか!?

 くるるるるる……

 違う、こっちか!?

 ぐるるああああ……

 後ろ!?

 「ハハ……なんだよ、これ」


 僕は今、魔物に
 冒険者たちは、逃してくれた。
 必死に戦って僕らを、逃してくれた。
 だから、僕は生き延びなければいけない。
 それがどういうわけか、僕は遊ばれている。
 こいつは狩りをしている。
 獲物は僕だ。
 少しずつ、少しずつ追い詰めて、笑っている。
 なんだ、それは。
 馬鹿にされている。
 
 そう気付いて、少し落ち着きを取り戻す。
 瞬間、血が沸き立つのを感じた。
 
 命を弄ばれる恐怖。
 命を貶される恥辱。

 どんどん頭が冷えていく。
 どんどん体が熱くなっていく。

 僕は逃げなければいけない。
 なぜ?
 せっかく彼らが命を逃してくれたから。
 そうだ。
 彼らは僕を助けてくれた。
 彼らのおかげで今、生きている。
 生きている僕を馬鹿にするやつがいる。
 なぜ?
 奴らにとって、僕は獲物だから。
 だからといって、馬鹿にしていいのか?
 否。
 己の糧になるものは敬意あって然るべきだ。
 いや、奴らは魔物だ。
 そんなものいらないのだろう。
 だって、所詮は獣じゃないか。
 
 辺りを見渡す。
 そこら中にある切り株と木材。
 伐採林の中の開けた場所だ。
 ここからな村もすぐそこ。
 でも、逃げてもすぐに追いつかれるだろう。
 助けを求めにいく僕を、声をあげるその瞬間に殺す気なのだろう。

 だから僕は待つ。
 
 すると、ほら、出てきた。

 僕が立ち尽くすようになって、つまらなくなったのだろう。
 正面からゆっくりと、そいつは出てきた。

 黒と銀の体毛、獰猛そうな爪を携えた四足でしっかりと、見せつけるかのように歩いてくる。
 四足歩行だというのに僕の身長よりでかくて、全長でいったら軽く三メートルを超えるのだろう。
 驚かすかのようにわざとらしく開いた真っ赤な口元は、今の今まで何か――いや、誰かを喰っていたんだろう。
 ご自慢の銀のナイフのような牙も真っ赤に染まっている。

 ああ、そうだ。
 よく見ると犬だ。
 野犬なんかよりだいぶでかいし強いけど。
 それに、歪だ。
 確か、授業で習った。
 犬の祖先でオオカミってのがいたらしい。
 魔物化は突然変異体だから、先祖帰りっていうのもあるのかな。
 まあ、今はどうでもよかった。
 
 立ったまま動かない僕に、奴が近づいてくる。
 
 はあはあと規則的に漏れる息がかかる。
 血の匂いと獣の匂いで吐き気がする。
 すんすんと匂いを嗅がれる。

 とにかく、不快だった。
 
 そして、腹が立って仕方がなかった。

 だって、そうだろう。
 僕を笑うだけならいいさ。
 でも、僕を助けてくれた、彼らまで笑うのは――


「絶対に、許さない」
 

 僕は力いっぱい、そいつの鼻先をぶん殴ってやった。
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