16 / 38
第一章 少年は旅立つ
10.狩るものと狩られるもの5
しおりを挟む
「うっ……くそっ……」
息が上がる。
走る。
逃げる。
なにから?
魔物から。
「うわっ!……ぐっ……」
木の根に引っかかり盛大に転んだ。
早く立て。
早く走れ。
くるるるる……
茂みの中――ほど近いそこで、魔物が鳴いた。
立ち上がって、見渡す。
どこだ。
どこにいる。
くるるる……
こっちか!?
くるるるるる……
違う、こっちか!?
ぐるるああああ……
後ろ!?
「ハハ……なんだよ、これ」
僕は今、魔物に遊ばれているんだ。
冒険者たちは、逃してくれた。
必死に戦って僕らを、逃してくれた。
だから、僕は生き延びなければいけない。
それがどういうわけか、僕は遊ばれている。
こいつは狩りをしている。
獲物は僕だ。
少しずつ、少しずつ追い詰めて、笑っている。
なんだ、それは。
馬鹿にされている。
そう気付いて、少し落ち着きを取り戻す。
瞬間、血が沸き立つのを感じた。
命を弄ばれる恐怖。
命を貶される恥辱。
どんどん頭が冷えていく。
どんどん体が熱くなっていく。
僕は逃げなければいけない。
なぜ?
せっかく彼らが命を逃してくれたから。
そうだ。
彼らは僕を助けてくれた。
彼らのおかげで今、生きている。
生きている僕を馬鹿にするやつがいる。
なぜ?
奴らにとって、僕は獲物だから。
だからといって、馬鹿にしていいのか?
否。
己の糧になるものは敬意あって然るべきだ。
いや、奴らは魔物だ。
そんなものいらないのだろう。
だって、所詮は獣じゃないか。
辺りを見渡す。
そこら中にある切り株と木材。
伐採林の中の開けた場所だ。
ここからな村もすぐそこ。
でも、逃げてもすぐに追いつかれるだろう。
助けを求めにいく僕を、声をあげるその瞬間に殺す気なのだろう。
だから僕は待つ。
すると、ほら、出てきた。
僕が立ち尽くすようになって、つまらなくなったのだろう。
正面からゆっくりと、そいつは出てきた。
黒と銀の体毛、獰猛そうな爪を携えた四足でしっかりと、見せつけるかのように歩いてくる。
四足歩行だというのに僕の身長よりでかくて、全長でいったら軽く三メートルを超えるのだろう。
驚かすかのようにわざとらしく開いた真っ赤な口元は、今の今まで何か――いや、誰かを喰っていたんだろう。
ご自慢の銀のナイフのような牙も真っ赤に染まっている。
ああ、そうだ。
よく見ると犬だ。
野犬なんかよりだいぶでかいし強いけど。
それに、歪だ。
確か、授業で習った。
犬の祖先でオオカミってのがいたらしい。
魔物化は突然変異体だから、先祖帰りっていうのもあるのかな。
まあ、今はどうでもよかった。
立ったまま動かない僕に、奴が近づいてくる。
はあはあと規則的に漏れる息がかかる。
血の匂いと獣の匂いで吐き気がする。
すんすんと匂いを嗅がれる。
とにかく、不快だった。
そして、腹が立って仕方がなかった。
だって、そうだろう。
僕を笑うだけならいいさ。
でも、僕を助けてくれた、彼らまで笑うのは――
「絶対に、許さない」
僕は力いっぱい、そいつの鼻先をぶん殴ってやった。
息が上がる。
走る。
逃げる。
なにから?
魔物から。
「うわっ!……ぐっ……」
木の根に引っかかり盛大に転んだ。
早く立て。
早く走れ。
くるるるる……
茂みの中――ほど近いそこで、魔物が鳴いた。
立ち上がって、見渡す。
どこだ。
どこにいる。
くるるる……
こっちか!?
くるるるるる……
違う、こっちか!?
ぐるるああああ……
後ろ!?
「ハハ……なんだよ、これ」
僕は今、魔物に遊ばれているんだ。
冒険者たちは、逃してくれた。
必死に戦って僕らを、逃してくれた。
だから、僕は生き延びなければいけない。
それがどういうわけか、僕は遊ばれている。
こいつは狩りをしている。
獲物は僕だ。
少しずつ、少しずつ追い詰めて、笑っている。
なんだ、それは。
馬鹿にされている。
そう気付いて、少し落ち着きを取り戻す。
瞬間、血が沸き立つのを感じた。
命を弄ばれる恐怖。
命を貶される恥辱。
どんどん頭が冷えていく。
どんどん体が熱くなっていく。
僕は逃げなければいけない。
なぜ?
せっかく彼らが命を逃してくれたから。
そうだ。
彼らは僕を助けてくれた。
彼らのおかげで今、生きている。
生きている僕を馬鹿にするやつがいる。
なぜ?
奴らにとって、僕は獲物だから。
だからといって、馬鹿にしていいのか?
否。
己の糧になるものは敬意あって然るべきだ。
いや、奴らは魔物だ。
そんなものいらないのだろう。
だって、所詮は獣じゃないか。
辺りを見渡す。
そこら中にある切り株と木材。
伐採林の中の開けた場所だ。
ここからな村もすぐそこ。
でも、逃げてもすぐに追いつかれるだろう。
助けを求めにいく僕を、声をあげるその瞬間に殺す気なのだろう。
だから僕は待つ。
すると、ほら、出てきた。
僕が立ち尽くすようになって、つまらなくなったのだろう。
正面からゆっくりと、そいつは出てきた。
黒と銀の体毛、獰猛そうな爪を携えた四足でしっかりと、見せつけるかのように歩いてくる。
四足歩行だというのに僕の身長よりでかくて、全長でいったら軽く三メートルを超えるのだろう。
驚かすかのようにわざとらしく開いた真っ赤な口元は、今の今まで何か――いや、誰かを喰っていたんだろう。
ご自慢の銀のナイフのような牙も真っ赤に染まっている。
ああ、そうだ。
よく見ると犬だ。
野犬なんかよりだいぶでかいし強いけど。
それに、歪だ。
確か、授業で習った。
犬の祖先でオオカミってのがいたらしい。
魔物化は突然変異体だから、先祖帰りっていうのもあるのかな。
まあ、今はどうでもよかった。
立ったまま動かない僕に、奴が近づいてくる。
はあはあと規則的に漏れる息がかかる。
血の匂いと獣の匂いで吐き気がする。
すんすんと匂いを嗅がれる。
とにかく、不快だった。
そして、腹が立って仕方がなかった。
だって、そうだろう。
僕を笑うだけならいいさ。
でも、僕を助けてくれた、彼らまで笑うのは――
「絶対に、許さない」
僕は力いっぱい、そいつの鼻先をぶん殴ってやった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる