転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

文字の大きさ
上 下
13 / 38
第一章 少年は旅立つ

8.狩るものと狩られるもの3

しおりを挟む
「小さき灯火よ。我が心のままに燃え盛れ」

 ローブの冒険者が呟くと持っていた松明から一回りほど大きな炎が広がる。
 松明に見えたのは杖だったらしい。
 こういった自然に干渉する魔法は貴族にしか使えない。
 彼は貴族の血を引いているのだろう。
 何故そんな人がここにいて、しかも冒険者をやっているのかわからないが僥倖だった。

 魔法。
 魔物と同じく『魔』の冠を持つ言葉。
 強くイメージすることで体内の魔力を何かに干渉する力。
 遥か昔、神々の大戦の後、魔物の跋扈する時代があった。
 神々の尖兵として戦った人間はただでさえ疲弊していた。
 そこへ現れた魔物に、人間は対処する余地がなかった。
 そこで滅びの危機を迎えた人間に神々から与えられた力。
 当時、この力が顕現した人間は各地を平定し、強い魔法を使える者同士で繋がった。それが貴族の始まり。
 貴族はその強い血を濃く保ち、だからこそ自然に干渉できる。
 貴族でなくても魔法は使うことができる。
 内在する血に宿る魔力をコントロールし、さっきの僕を庇ってくれた冒険者のように肉体を強化する。
 それが魔法。
 神々から与えられた、人の力。
 魔物を倒すための、人の力。
 それが魔法。

 父から受けた授業を思い出す。
 そうだ。
 そう習ったじゃないか。

「ぼっちゃん、いいか。立てるな?」
「う、うん」
「絶対に俺から離れるな。もう大丈夫だから、な?」

 僕を受け止めてくれた冒険者は、そう言って僕を立たせると頭を二度、ぽんぽんと優しく叩いた。
 その手は力強くて、温かで優しい。
 おかげでしっかりと大地に立つことができた。

「よし」

 冒険者は僕の顔を見て、にかっと笑うと背負っていた弓を構える。
 その目はつがえた矢に負けず劣らず鋭い。
 若い冒険者だった。
 短髪で顔に引っかかれたような古傷がある。
 こんな状況だというのに僕は、兄がいたらこんな感じなのだろうか、などと考えていた。

 引き絞った弓が軋む。
 
「いくぞ!」

 その声を合図に魔物へ対峙していた冒険者が雄叫びを上げた。

「う、おおおおおおおお!」

 噛まれた腕と剣をそのままに、鼓舞するかの如く叫ぶ。
 その咆哮は僕の肌を叩き、びりびりと痺れさせた。
 そして、あろうことか、彼は自分よりも大きな魔物を持ち上げようとしているのだ。
 魔物に噛まれた腕はテコの原理でより負担がかかっているのだろう、冒険者の血と魔物の涎がぼたぼたと垂れる音が聞こえ、時折、つっかえになっている剣が軋む音がする。
 そして、ついぞ魔物を持ち上げる冒険者。
 彼の決意と勇姿に、息を呑む。
 
 だってそうじゃないか。
 僕たちを救うために自分より大きな獣に噛まれ、そのまま腕も――命さえも失おうというときに、彼はまだ闘志を失っていない!
 これが冒険者なんだ。
 すごい、と単純な感想しか出てこない。
 興奮で体が熱い。
 
 冒険者は持ち上げたそのまま二、三歩よろめいて、ぐるりと半歩回転。
 それを合図に他の仲間が攻撃を仕掛ける。

 ローブを着た冒険者が火球を飛ばす。
 僕を受け止めてくれた冒険者が次々と矢を射る。

 これには魔物もたまったものではなかったのだろう。
 身じろぎをして抵抗するも、それを逃す冒険者たちではない。

「へへ、まあもうちょっと俺の血でも味わってけよ。それ以上にてめえの血がなくなるけどな」

 獰猛な笑みと共に、噛まれた腕をさらに奥に差し込む冒険者。
 舌根っこでも掴んでいるのか魔物は逃げられず、ふしゅるるると空気の抜けるような鳴き声を出した。
 さらに迫る、火球と矢。

 何かがおかしい。
 何かが腑に落ちない。
 このまま、終わるはずなのに。

 魔物をよく見る。
 恐ろしく
 そんな状況であるにも関わらず、魔物は身を捩るばかり。
 
 そして、思い出す。

 そうだ。

 だめだ。

 一匹ではない。
 

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

韋駄天の運び屋

すのもとまさお
ファンタジー
過去の冒険者達たちが残してきた記録が、後に「英雄譚」という書物として人々の娯楽となった時代、英雄たちに憧れ抱き、冒険者を志願したジン。 しかし、彼には冒険者に必須ともいわれる戦闘能力が全く無く、ステータスもどれも平均か、それ以下でパッとしない。 彼は女神の儀式で得られる特殊能力、ギフトに賭けていた。 しかし、彼が授かったギフトは「韋駄天」。 素早さが「僅かに上がる」というどう見ても名前負けしているレアギフトであり、大ハズレのギフト。 戦闘の才能が全くない、彼にとっては「引いてはいけないギフト」だった。 そんな彼が後に勇者として後世でも語り継がれる剣士アルフ、最強のギフトを授かった魔導士アンナ、ベテラン冒険者の戦士ガイと治癒士シエラのパーティ「ヴェルハーレ」の運び屋として成長していく物語である。 ※各キャラの視点で物語は進行していく形になります。

処理中です...