9 / 38
第一章 少年は旅立つ
幕間 冒険者の後悔1
しおりを挟む
簡単な仕事なんてものはない。
うまい話には裏がある。
いや、ひょっとすると俺が知らないだけでこの世の中にはうまい話がごろごろ転がっていて、それをまるで熟れた桃でもかじるように貪っている奴らもいるのかもしれない。
少なくとも、俺の前にそんな熟れた桃が落ちてきたことはない。
きっかけは……そう。きっかけなんてものはいつでも些細なものだ。
王都で近衛兵をやっていた俺はひょんなことから騎士団の誘いを受ける。
そのひょんなことっていうのだって、本当にどこにでもある話だ。
酒場で意気投合した騎士団の下っ端に紹介されて、訓練に参加するようになった。
ちょっとした練習試合でたまたまそいつをぶっ倒したら、お偉方の目に留まったってわけだ。
さすがにそのまま入団ってわけにもいかないようで、俺は簡単な実務訓練として任務を言い渡された。
王都から西へ少し離れたところにある村近くの森で魔物の目撃情報があったという。
その魔物の偵察が任務ってわけだ。
王都の東側は絶賛開拓中で、森を切り開いている。
魔物っていうのは必ず森からくる。
なんでだかは俺は知らない。
だけど、近衛兵をやっていれば開拓中の森の警戒活動も任務のうちだし、魔物が出るなんてしょっちゅうだ。
腕利きが三人もいれば簡単に倒せる。
ちょっとでかいだけの獣に過ぎない。
だから、この任務だって熟れた桃にしか見えなかった。
任務に当てられたのは俺の他にも数人。
出自は様々で、いずれも騎士団へ入団したい奴らだった。
実力主義で選ばれたのか、中には元盗賊や農民上がりの冒険者なんてのもいた。
腕は確かだし、こういう任務は様々な知識を持っている奴らが集まったほうがいい。
お誂え向きのメンツだった。
妙だと思ったのは村についてからだった。
魔物の目撃情報があったというわりには村はなにもなかったかのような日常を送っていた。
聞き込みをするにつれて、本当になにもないということがわかった。
妙なことといえば、もうひとつ。
俺たちはなぜか身分を隠して任務にあたることを命令されていた。
俺たちは村に辿り着く前にこう考えていた。
王都の騎士団だって人数不足だから、いくらこの村が近くたってそんなに人数を避けない。
魔物に怯えた村人たちは俺たちがたかだか数人の騎士団見習いだ、なんて知ってしまったら落胆して不安になるだろう。
それならいっそ冒険者がたまたま通りがかったくらいのほうがまだ気持ちは楽だ。
なにせ、数日すれば本隊が来るかもしれない、と期待が持てる。
そういうお偉方の配慮だと思っていた。
ことの真相はわからないが、これはこれで都合がいい。
俺たちは身分を隠したまま哨戒にあたった。
そして魔物の痕跡を発見した。
一人を王都へ報告に戻らせ、俺たちはそのまま警戒にあたる。
痕跡から、犬型の魔物が一匹うろついているだけのようなので、その旨を村長へ伝え、森近くにはいかないようにと念押しした。
幸い、時期的にも里林に行く機会もないだろうと高を括っていたら、とんでもない話を聞かされる。
あの『勇者』が、里林の向こうに住んでいるというのだ。
俺たちは色めきだった。
英雄、勇者ジェダ・イスカリオテ。
魔王を欺き、打ち取った者。
そして勇者には息子もいるという。
なんたる僥倖!
あの憧れの勇者のお役に立てるかもしれない!
もしかしたらお会いして声など掛けていただけるかもしれない!
その日は、仲間たちとそんな話題でもちきりだった。
翌日、飲み過ぎでがんがんする頭に水をぶっかけて無理やり起こした。
そしてここ数日と同じように哨戒に出て昼過ぎに宿屋に戻った。
すると宿屋の娘――確か、アンとかいったか。それと坊主が二人。
どうにもアンの友達らしい。
子どもってのは無邪気なもんで、村の外の話をやたらと聞きたがった。
一人は雑貨屋の息子だとかで、特産品や王都の流行りなんかを聞きたがるもんだから、こいつはいい商人になるなと思った。
悪戯心が芽生えて、ちょっと大げさに魔物の話をしてやると、三人ともたいそう怖がった。
うまい話には裏がある。
いや、ひょっとすると俺が知らないだけでこの世の中にはうまい話がごろごろ転がっていて、それをまるで熟れた桃でもかじるように貪っている奴らもいるのかもしれない。
少なくとも、俺の前にそんな熟れた桃が落ちてきたことはない。
きっかけは……そう。きっかけなんてものはいつでも些細なものだ。
王都で近衛兵をやっていた俺はひょんなことから騎士団の誘いを受ける。
そのひょんなことっていうのだって、本当にどこにでもある話だ。
酒場で意気投合した騎士団の下っ端に紹介されて、訓練に参加するようになった。
ちょっとした練習試合でたまたまそいつをぶっ倒したら、お偉方の目に留まったってわけだ。
さすがにそのまま入団ってわけにもいかないようで、俺は簡単な実務訓練として任務を言い渡された。
王都から西へ少し離れたところにある村近くの森で魔物の目撃情報があったという。
その魔物の偵察が任務ってわけだ。
王都の東側は絶賛開拓中で、森を切り開いている。
魔物っていうのは必ず森からくる。
なんでだかは俺は知らない。
だけど、近衛兵をやっていれば開拓中の森の警戒活動も任務のうちだし、魔物が出るなんてしょっちゅうだ。
腕利きが三人もいれば簡単に倒せる。
ちょっとでかいだけの獣に過ぎない。
だから、この任務だって熟れた桃にしか見えなかった。
任務に当てられたのは俺の他にも数人。
出自は様々で、いずれも騎士団へ入団したい奴らだった。
実力主義で選ばれたのか、中には元盗賊や農民上がりの冒険者なんてのもいた。
腕は確かだし、こういう任務は様々な知識を持っている奴らが集まったほうがいい。
お誂え向きのメンツだった。
妙だと思ったのは村についてからだった。
魔物の目撃情報があったというわりには村はなにもなかったかのような日常を送っていた。
聞き込みをするにつれて、本当になにもないということがわかった。
妙なことといえば、もうひとつ。
俺たちはなぜか身分を隠して任務にあたることを命令されていた。
俺たちは村に辿り着く前にこう考えていた。
王都の騎士団だって人数不足だから、いくらこの村が近くたってそんなに人数を避けない。
魔物に怯えた村人たちは俺たちがたかだか数人の騎士団見習いだ、なんて知ってしまったら落胆して不安になるだろう。
それならいっそ冒険者がたまたま通りがかったくらいのほうがまだ気持ちは楽だ。
なにせ、数日すれば本隊が来るかもしれない、と期待が持てる。
そういうお偉方の配慮だと思っていた。
ことの真相はわからないが、これはこれで都合がいい。
俺たちは身分を隠したまま哨戒にあたった。
そして魔物の痕跡を発見した。
一人を王都へ報告に戻らせ、俺たちはそのまま警戒にあたる。
痕跡から、犬型の魔物が一匹うろついているだけのようなので、その旨を村長へ伝え、森近くにはいかないようにと念押しした。
幸い、時期的にも里林に行く機会もないだろうと高を括っていたら、とんでもない話を聞かされる。
あの『勇者』が、里林の向こうに住んでいるというのだ。
俺たちは色めきだった。
英雄、勇者ジェダ・イスカリオテ。
魔王を欺き、打ち取った者。
そして勇者には息子もいるという。
なんたる僥倖!
あの憧れの勇者のお役に立てるかもしれない!
もしかしたらお会いして声など掛けていただけるかもしれない!
その日は、仲間たちとそんな話題でもちきりだった。
翌日、飲み過ぎでがんがんする頭に水をぶっかけて無理やり起こした。
そしてここ数日と同じように哨戒に出て昼過ぎに宿屋に戻った。
すると宿屋の娘――確か、アンとかいったか。それと坊主が二人。
どうにもアンの友達らしい。
子どもってのは無邪気なもんで、村の外の話をやたらと聞きたがった。
一人は雑貨屋の息子だとかで、特産品や王都の流行りなんかを聞きたがるもんだから、こいつはいい商人になるなと思った。
悪戯心が芽生えて、ちょっと大げさに魔物の話をしてやると、三人ともたいそう怖がった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる