転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

幕間 冒険者の後悔1

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 簡単な仕事なんてものはない。
 うまい話には裏がある。
 いや、ひょっとすると俺が知らないだけでこの世の中にはうまい話がごろごろ転がっていて、それをまるで熟れた桃でもかじるように貪っている奴らもいるのかもしれない。
 少なくとも、俺の前にそんな熟れた桃が落ちてきたことはない。

 きっかけは……そう。きっかけなんてものはいつでも些細なものだ。
 王都で近衛兵をやっていた俺はひょんなことから騎士団の誘いを受ける。
 そのひょんなことっていうのだって、本当にどこにでもある話だ。
 酒場で意気投合した騎士団の下っ端に紹介されて、訓練に参加するようになった。
 ちょっとした練習試合でたまたまそいつをぶっ倒したら、お偉方の目に留まったってわけだ。

 さすがにそのまま入団ってわけにもいかないようで、俺は簡単な実務訓練として任務を言い渡された。
 王都から西へ少し離れたところにある村近くの森で魔物の目撃情報があったという。
 その魔物の偵察が任務ってわけだ。
 王都の東側は絶賛開拓中で、森を切り開いている。
 魔物っていうのは必ず森からくる。
 なんでだかは俺は知らない。
 だけど、近衛兵をやっていれば開拓中の森の警戒活動も任務のうちだし、魔物が出るなんてしょっちゅうだ。
 腕利きが三人もいれば簡単に倒せる。
 ちょっとでかいだけの獣に過ぎない。
 だから、この任務だって熟れた桃にしか見えなかった。

 
 任務に当てられたのは俺の他にも数人。
 出自は様々で、いずれも騎士団へ入団したい奴らだった。
 実力主義で選ばれたのか、中には元盗賊や農民上がりの冒険者なんてのもいた。
 腕は確かだし、こういう任務は様々な知識を持っている奴らが集まったほうがいい。
 お誂え向きのメンツだった。

 妙だと思ったのは村についてからだった。
 魔物の目撃情報があったというわりには村はなにもなかったかのような日常を送っていた。
 聞き込みをするにつれて、ということがわかった。
 
 妙なことといえば、もうひとつ。
 俺たちはなぜかを命令されていた。
 俺たちは村に辿り着く前にこう考えていた。
 王都の騎士団だって人数不足だから、いくらこの村が近くたってそんなに人数を避けない。
 魔物に怯えた村人たちは俺たちがたかだか数人の騎士団見習いだ、なんて知ってしまったら落胆して不安になるだろう。
 それならいっそ冒険者がたまたま通りがかったくらいのほうがまだ気持ちは楽だ。
 なにせ、数日すれば本隊が来るかもしれない、と期待が持てる。
 そういうお偉方の配慮だと思っていた。
 
 ことの真相はわからないが、これはこれで都合がいい。
 俺たちは身分を隠したまま哨戒にあたった。
 そして魔物の痕跡を発見した。
 一人を王都へ報告に戻らせ、俺たちはそのまま警戒にあたる。
 痕跡から、犬型の魔物が一匹うろついているだけのようなので、その旨を村長へ伝え、森近くにはいかないようにと念押しした。
 幸い、時期的にも里林に行く機会もないだろうと高を括っていたら、とんでもない話を聞かされる。

 あの『勇者』が、里林の向こうに住んでいるというのだ。
 俺たちは色めきだった。
 英雄、勇者ジェダ・イスカリオテ。
 魔王を欺き、打ち取った者。
 そして勇者には息子もいるという。
 なんたる僥倖!
 あの憧れの勇者のお役に立てるかもしれない!
 もしかしたらお会いして声など掛けていただけるかもしれない!
 その日は、仲間たちとそんな話題でもちきりだった。

 翌日、飲み過ぎでがんがんする頭に水をぶっかけて無理やり起こした。
 そしてここ数日と同じように哨戒に出て昼過ぎに宿屋に戻った。
 すると宿屋の娘――確か、アンとかいったか。それと坊主が二人。
 どうにもアンの友達らしい。
 子どもってのは無邪気なもんで、村の外の話をやたらと聞きたがった。
 一人は雑貨屋の息子だとかで、特産品や王都の流行りなんかを聞きたがるもんだから、こいつはいい商人になるなと思った。
 悪戯心が芽生えて、ちょっと大げさに魔物の話をしてやると、三人ともたいそう怖がった。

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