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第一章 少年は旅立つ
3.少年の苦悩3
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話を戻そう。
僕は昼食を軽く済ませると、父さんに里に行きたいことを告げた。
父さんは、しばし考え込むと午後の授業は免除してくれた。
「今から行くと帰りは遅くなるだろう。迎えに行くから、宿屋で待たせてもらいなさい」
そういって渡されたのは一筆書いた書状とお金だった。
これを見せると宿屋の女将さんはへりくだったような態度になるのが僕は気に食わなかった。
だけど、珍しく遊びに行くのを許してくれたことに浮足だって、そんなことはどうでもよかった。
里への道は、簡単だ。
丘から森を通らないように大回りして、里の人たちが狩りや薪を取りに行く里林と呼ばれる人工林を通っていく。
たまに獰猛な獣が出るけれど、あいつらだってバカじゃあない。
歌いながら歩いていれば、あっちのほうから会わないようにしてくれる。
里につくと畑仕事が終わって休憩している人たちに挨拶をしながら、雑貨屋に急ぐ。
そしてドリーのお母さんに挨拶をして、ドリーを遊びに誘った。
雑貨屋の息子のドリーは僕と同い年なのに商売人としての目利きがいいらしくて、父親についてたまに街に行っては面白い話や商品を持ち帰っていた。
それは生活にはあまり関係がないものが多いけど、里のみんなの娯楽の種となっていた。
僕はそんなドリーを尊敬すると同時に、少し羨ましく思っていた。
僕たちは一緒に里にひとつだけある宿屋に行くことにした。
どうにもドリーは宿屋の娘のアンのことが好きらしい。
僕には恋愛っていうのがまだよくわからないけど、実は、と打ち明けてくれたドリーの表情を見るとなんとか協力してあげたい気持ちになった。
そうしてドリーとアンと三人で話しているとき、森に出ていた冒険者が帰ってきた。
里に冒険者が来るのは珍しくて、だいたいの問題は父さんや父さんの友人たちが対処している。
だから、三人とも外の話が聞きたくて疲れているだろう冒険者に話をせがんだ。
冒険者は汗を拭いながら、しょうがねえな、と苦笑いで話をしてくれた。
それで教えてくれたんだ。
森に魔物が出たらしい。
なんでも国中で魔物が活発化していて、危ないから気をつけろよ、って。
倒すだけなら僕の父さんたちでじゅうぶんだけど、調査が必要だからと派遣されたんだって。
中央じゃ魔王が復活したんじゃないかっていう話も出てるみたい。
そんな話を聞いても、どこか他人事だった。
横で震えるドリーが情けないとさえ思った。
だから、僕は軽口を叩いてしまった。
そうしたら、ドリーはむっとした表情でこう言った。
「ウェダ、お前は勇者の息子だから!金持ちの貴族だから!」
ドリーの目が怖くて、僕は何も返せなかった。
横にいるアンも、怯えたような、困ったような目をしていて、僕をまっすぐに見てはくれなかった。
そんな僕たちのやり取りを聞いた冒険者は慌てて僕の前に居直り、頭を下げた。
「勇者様の御子息であられましたか。大変失礼を……」
なんて、父さんの友人の付き人たちがするような仕草をして。
僕はどうしようもなく腹の底が冷えるような、顔が熱くなって真っ赤に燃えるような感覚でそこから逃げ出した。
まだ日は高かったが帰ろうと思った。
宿屋で待つのも気後れした。
早く家に帰りたかった。
それと同時に、ドリーやアンを見返してやりたくなった。
へりくだった態度を取った冒険者も。
そして、迎えに行くって言われてたのを無視して、一人で帰ろうとした。
だって十二歳になるんだから。
だって勇者の息子だから。
僕は、僕。
ウェダ・イスカリオテなのだから。
もう十二歳で、子どもではないのだから。
僕は昼食を軽く済ませると、父さんに里に行きたいことを告げた。
父さんは、しばし考え込むと午後の授業は免除してくれた。
「今から行くと帰りは遅くなるだろう。迎えに行くから、宿屋で待たせてもらいなさい」
そういって渡されたのは一筆書いた書状とお金だった。
これを見せると宿屋の女将さんはへりくだったような態度になるのが僕は気に食わなかった。
だけど、珍しく遊びに行くのを許してくれたことに浮足だって、そんなことはどうでもよかった。
里への道は、簡単だ。
丘から森を通らないように大回りして、里の人たちが狩りや薪を取りに行く里林と呼ばれる人工林を通っていく。
たまに獰猛な獣が出るけれど、あいつらだってバカじゃあない。
歌いながら歩いていれば、あっちのほうから会わないようにしてくれる。
里につくと畑仕事が終わって休憩している人たちに挨拶をしながら、雑貨屋に急ぐ。
そしてドリーのお母さんに挨拶をして、ドリーを遊びに誘った。
雑貨屋の息子のドリーは僕と同い年なのに商売人としての目利きがいいらしくて、父親についてたまに街に行っては面白い話や商品を持ち帰っていた。
それは生活にはあまり関係がないものが多いけど、里のみんなの娯楽の種となっていた。
僕はそんなドリーを尊敬すると同時に、少し羨ましく思っていた。
僕たちは一緒に里にひとつだけある宿屋に行くことにした。
どうにもドリーは宿屋の娘のアンのことが好きらしい。
僕には恋愛っていうのがまだよくわからないけど、実は、と打ち明けてくれたドリーの表情を見るとなんとか協力してあげたい気持ちになった。
そうしてドリーとアンと三人で話しているとき、森に出ていた冒険者が帰ってきた。
里に冒険者が来るのは珍しくて、だいたいの問題は父さんや父さんの友人たちが対処している。
だから、三人とも外の話が聞きたくて疲れているだろう冒険者に話をせがんだ。
冒険者は汗を拭いながら、しょうがねえな、と苦笑いで話をしてくれた。
それで教えてくれたんだ。
森に魔物が出たらしい。
なんでも国中で魔物が活発化していて、危ないから気をつけろよ、って。
倒すだけなら僕の父さんたちでじゅうぶんだけど、調査が必要だからと派遣されたんだって。
中央じゃ魔王が復活したんじゃないかっていう話も出てるみたい。
そんな話を聞いても、どこか他人事だった。
横で震えるドリーが情けないとさえ思った。
だから、僕は軽口を叩いてしまった。
そうしたら、ドリーはむっとした表情でこう言った。
「ウェダ、お前は勇者の息子だから!金持ちの貴族だから!」
ドリーの目が怖くて、僕は何も返せなかった。
横にいるアンも、怯えたような、困ったような目をしていて、僕をまっすぐに見てはくれなかった。
そんな僕たちのやり取りを聞いた冒険者は慌てて僕の前に居直り、頭を下げた。
「勇者様の御子息であられましたか。大変失礼を……」
なんて、父さんの友人の付き人たちがするような仕草をして。
僕はどうしようもなく腹の底が冷えるような、顔が熱くなって真っ赤に燃えるような感覚でそこから逃げ出した。
まだ日は高かったが帰ろうと思った。
宿屋で待つのも気後れした。
早く家に帰りたかった。
それと同時に、ドリーやアンを見返してやりたくなった。
へりくだった態度を取った冒険者も。
そして、迎えに行くって言われてたのを無視して、一人で帰ろうとした。
だって十二歳になるんだから。
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僕は、僕。
ウェダ・イスカリオテなのだから。
もう十二歳で、子どもではないのだから。
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