転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

1.少年の苦悩1

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 突然だけど、僕、ウェダ・イスカリオテは悩んでいる。
 たかだか十二歳の少年の悩みでも、悩みは悩みだ。
 
 世の中の人たちは誰ひとり例外なく悩みを抱えているのだという。
 争い、人の死、餓え、貧困、そんな重たい悩み。
 トラウマ、犯罪経歴、差別主義、暴力、聞いたら話にドン引きしてしまうような暗い悩み。
 人に言えない悩みや、いっそ酒場で酔っ払って仲良くなったどっかの誰かにくだらねえなんてて笑い飛ばしてほしい悩み。
 
 「その大きさに差はあれど、悩まない人などいなくて、いるとすればそれを振り切る覚悟を持っている人だ」
 
 と、教えてくれたのは父さんだった。

 「だからいっぱい悩んでいい。こうだ、と信じられることが見つかったとき振り切れる」

 そう教えてくれたのも父さんだった。
 
 難しくてよくわからなかったし、今でもあんまりよくわからないけど、みんな悩んでいるってのはわかった。
 そして、どれだけその悩みが小さく見えてもバカにしちゃいけないんだってことも。

 だから僕は、世の中の人たちにならって悩んでいる。
 
 まさに今。
 
 現在。
 
 進行形で。
 
 泣きそうなくらい怖い。
 この世の終わりだと思うほどに。
 風の音が悲鳴に聞こえる。
 虫の声が本で読んだ化け物の鳴き声に聞こえる。
 夕日に照らされた足元はおぼつかなくて、膝が笑って自分で立って歩いていることさえ信じられない。
 下腹あたりがぬるま湯につけられているような、よくわからない感覚がある。
 自分の息遣いだけが大きく聞こえて、まるで化け物に耳元で生息をかけられているみたい。
 独りで孤独で、暗くて苦しい。
 奥歯がガチガチと震えて、涙が目の端から溢れてくる。
 
 なんで悩んでるのかって?
 バカにしないで聞いてほしい。
 だって、本当に怖いんだ。
 
 僕は今、森で一人、迷子だから。


 あれだけ言われていたのに、僕、ウェダ・イスカリオテは迷子になった。
 
 きっかけは些細なものだった。
 いや、いつだってなんだって、ものごとの始まりは些細なことなのだろう。
 だから、こうして迷子になる。

 森には入ってはいけない。
 勉強をしなければならない。
 鍛えなければならない。
 考えなければならない。
 悩まなければならない。
 動かなければならない。
 守らねばならない。

 そんなのまっぴらごめんだ、と言う事を聞かないで飛び出したから、こうなる。
 人々が生きてきた中で教訓として教え、伝え、受け継いできたことはケイガイカしていても意味はちゃんとある。
 そう父に教わった。
 ケイガイカがなんなのかは僕は知らない。
 なんとなく僕のために言っているんだろうって数年前までは信じられた。
 それが、なんとなくただ言っているだけに感じるようになるまで時間はかからなかった。
 それでも、なんとなく僕は父や、父の友人たちの言葉を素直に聞けないようになった。
 そんな僕を見て、父がシシュンキだ、と呟いているのを見た。
 そんな父を見て、父の友人たちが父を褒めていたのを見た。

 それがなんとなく気に食わなかった。
 だからというわけではないけど、僕は普段から色々悩んでいたんだろう。
 それもあってこんな目にあってるんだ。



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