真夏の奇妙な体験

ゆきもと けい

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暴かれる正体

真夏の奇妙な体験

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 ミサキは孝雄と待ち合わせをしているコーヒー店に入った。店内はさほど混んでいなかったので、孝雄の席はすぐにわかった。

「どうだった?」

 孝雄は少し、落ち着きを取り戻したかのように見えるが、声にはまだ張りがない。

「大丈夫?落ち着いた?」

 そう言いながら、ミサキは孝雄の前に腰を下ろした。すぐに定員が水を運んできたので、コーピーを注文した。

「ああ、悪かったな。醜態を見せちまったか…」

 孝雄はまだ少し震える手でコーヒーを口に運んだ。

「全然だよ…」

 ミサキは首を横に振った。

「それより、誠一は思っていたよりひどい状態だったわ。起きているのがやっとって感じ…」

「そうか…病気でないなら、原因はあの黒い何かだと思う…早くなんとかしてやらなくちゃな…」

「うん、そうだね」

 ミサキは携帯を孝雄に手渡した。孝雄は少し震える手で、再生を始めた。

「部屋がどす黒い空気で覆われているな。特にあいつの周りがひどい…」

 画面を見ながら孝雄が眉をひそめた。

「そうなの?全然感じなかったけど…最初の方、撮れていると思うんだけど、たぶん、猫が怪しいと思うんだよね」

 ミサキはテーブル越しに身を乗り出し、画面を覗き込んだ。

「あいつ、猫を飼っているのか?」

 真剣に画面を見ながら、孝雄が言った。

「最近、飼い始めたらしいんだけど、この間会った時、妙な事を言ってたのよね。願いを叶えてくれる猫だって… … …ああ、この猫、この猫よ…」

 ミサキは画面を指さした。孝雄が慌てて画面を止める。

「誠一は茶トラって言ってたけど、どう見たって黒トラでしょ?怪しいよね…」

 ミサキの質問が耳に入っていないのか、孝雄は画面を見入ったまま動かない。

「そうか…ミサキには、これが猫に見えるんだ…」

「だって猫でしょ、どっから見たって…誠一も猫だって言ってるし…色は少し変だけど…」

「俺には黒い得体の知れないバケモノにしか見えないよ。その黒い物体に長い手足みたいなものがついていて、顔らしき場所に異様に赤い目が2つと、口角の上がった大きな口…その不気味な表情がこっちを見ている…少なくとも猫じゃないよ」

「嘘でしょう。だって…」

 ミサキはテーブル越しに携帯を覗き込んでいた視線を孝雄に移した。

「普通の人には猫にしか見えないのかもしれない…だけど、こいつが誠一を苦しめている犯人で間違いないと思う…」

「じゃぁ、これは何なの?誠一に何をするの?」

「わからない…」

 孝雄は首を横に振った。

「でも時間がない。早くしないと、誠一がマズイことになるかもしれない…」

 そう言うと孝雄は、思いついたように椅子から立ち上がった。孝雄の震えは収まっていた。

「どこへ行くの?」

「今から実家に行って来るよ…新幹線に乗れば、夕方には京都に着くから…家には父親と祖父がいる。もちろん2人とも陰陽師だから、こういう事態は俺よりも慣れているはずだ。陰陽師や結界に関する古い文献も残っているからあのバケモノの退治方法とか、何かわかるかもしれない…急いで調べてもらうよ。わかったらすぐに連絡する…」

 そう言うと、あの薄気味の悪いバケモノの退治方法を探すべく、孝雄は急いで実家へ向かった。

 しかしこの時、孝雄は自分の間違いを知らなかった。


 暴かれる正体 完 続く
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