事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・

ゆきもと けい

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20章 エピローグ(彼はどこへ・・・)

事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・

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 僕はベッドの上で仰向けに寝転がりながらふと思った。
 なぜ僕たちはこの件に深い関心を示したのだろうかと・・・?
 もちろんオカルト研究会のメンバーは僕が巻き込んだ形ではあるが・・・
 そもそも僕はなぜ、彼に興味を示したのか・・・

 彼が入居する前に大久保夫人からあの部屋が事故物件である事を知らされていて、そして彼が入居してきたからか・・・?

 それでも、僕は無関心でもいられたはずだ・・・
 僕は昔から野次馬根性はない。

 不審な行動とて、気にしなければそれで済んだかもしれないし、研究会のメンバーとて、僕の話だけを聞いて済ます方法もあったはずだ。

 そう考えると、もしかしたら僕たちも、最初から彼女のストーリーの構成員だったのかもしれない・・・そんな気さえしてきた。

 バカバカしい考えかもしれないが・・・
 ベッドから起き上がった。


 数日後の夕方、僕が大学から帰ると、なんとなく辺りが騒がしく、焦げ臭い臭いが漂っている。
 彼のマンションの前に消防車が数台と救急車が止まっている。

 火災が起きた事はすぐにわかった。どこから出火したかも・・・
 彼の部屋から黒くくすぶったような煙が上がっている。ほとんど全焼のように見える。だが、不思議な事に彼の部屋以外に延焼した気配はない。つまり、彼の部屋だけが燃えたのだ。

 近所の方が大勢集まっている。その中に大久保夫人の姿があった。
 僕は婦人に声をかける。

「火事ですか?」

「ええ、そのようですわ。でも鎮火したようですけど・・・びっくりだわ・・・」

「で、彼…いやあの部屋の住人は?」

「私が見ている限りでは誰かが運ばれた気配はなさそうなので、お留守だったんじゃないかしら?」

「そうですか」

 僕は安堵と不安が入り混じっていた。


 それから数日したある日の夕方、警察の方が僕の部屋に尋ねてきた。若い警察官と年配の警察官だ。確か駅前交番で見かけた覚えがある。

「お向かいで火災があったのはご存知かと思いますが、須藤さんとご面識はおありでしたか?」

 年配の警察官が僕に尋ねる。

「須藤さん?ああ、そういう名前だったんですね」

 (須藤っていうのか・・・)

「いえ、まぁ、顔くらいは見た事ありますが・・・その須藤さんがどうかされたのですか?」

「火災の際には部屋にはいなかったようなんですが、その後、須藤さんと全く連絡が取れないんですよ。実家の方にも連絡がないらしくて・・・
この辺りで彼と仲の良かった人はいないか聞き込んでいるところです。須藤さんの大学の友人には別の刑事が訊き込みしているところです」

「それって、もしかして彼が部屋に放火して逃げたとか・・・」

「いえいえ、消防の検証によると出火元はベッド脇のコンセントかららしいです。漏電ではないかと・・・
だから、須藤さんがいったいどこへ行ったのか、事件性もないですし・・・」

(ベッド脇のコンセント・・・ちょうど魔界の入り口付近のようだ・・・)
 僕にはわかっている。須藤さんがどこへ行ったのか・・・いや、どこへ連れて行かれたのか・・・
 しかし、こんなことは警察には言えない・・・
 仮に言ったところで、信じてもらえるわけがない・・・


 暫くして僕は引っ越す事になった。噂では向かいのマンションは取り壊すらしい・・・そして又、新しくマンションが建つのだろう・・・

 その時、魔界の入り口も復活するのだろうか・・・
 その時、須藤さんが案内人となるのだろうか・・・

 僕はがらんとした自分の部屋を後にする前に、向かいの焼け焦げた部屋を覗いた。部屋の中は丸見えの状態だ。
 その中を、かすかに、2人が歩いているようなそんな気がした・・・


  20章 エピローグ(彼はどこへ・・・?) 完
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