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16章 つわものどもが・・・
事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・
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尾関さんの作戦は今度の日曜日に決行する事が決まった。
どうやら彼が洗濯物を干している時が勝負らしい。
それまでに尾関さんと阿部さんは念入りに打ち合わせをするに違いない。
紅林さんと岬さんは、あの辺りの郷土資料館や神社仏閣の所在地を確認した。
調査するには、それが一番手っ取り早いと思ったからだ。
そしてそれは簡単に見つかった。
郷土資料館はその市の市役所の近くに、神社はなかったが、江戸時代中期くらいに建立された密教系のお寺があるようだ。
2人はまず郷土資料館へ行ってみる事にした。市役所は問題の駅の一つ先。市役所脇の小さい路地に、郷土資料館行きの矢印看板が立っていたのですぐにわかった。
小さい平屋のコンクリート製の建物で、以前は白い壁であったであろうが、今はだいぶ汚れてしまっている。建物の前は車が数台止められるようになっている。
ドアはガラス製の引き戸。開けると中は20畳ほどの大きさで壁際にガラスケースが並んでいる。左隅には4人掛けのテーブルと椅子が用意されている。
ガラス戸が開いた音で、数メートル先で、後ろ向きで、しゃがんで作業していた50歳くらいの男性が振り返り、
「いらっしゃい。どうぞご覧ください」
と、立ち上がりかけ、声をかけてきた。
2人はちょこっと頭を下げると、壁際に置かれているガラスケースの中を覗いた。そこには矢じりや、土器の破片やらが置かれ、弥生時代と書かれた木札が置かれている。この辺りで出土した物なのだろう。
「以前、この辺りで弥生時代の土器が出土したんですよ」
男性はそう言いながら、ガラスケースを覗いている2人近づいて行った。2人は振り返った。男性の身長はそれほど高くない。どちらかというと小柄なほうだ。ネームプレートには学芸員と記されている。
「そうなんですか」
岬さんが答える。
「それ以降の時代ではこの辺りはどうだったのですか?」
今度は阿部さんが落ち着いた口調で尋ねる。
「ん?君たちは学生さんかい?」
「ええ、この周辺の歴史を調べています」
阿部さんはなんとなく嘘をついた。
男性は納得したように頷くと、
「戦国時代の古戦場跡地でここから少し離れた場所に石碑が建っていますよ」
そちら方面に視線をやりながら答える。
「古戦場ですか・・・」
(古戦場なら多くの死者も出たであろう・・・)
紅林さんは思う。
「それ以降はどうだったんでしょうか?」
今度は岬さんが尋ねる。
「江戸時代初期から暫くは処刑された罪人の墓場になっていたようです。最もそこはここではなく、隣町あたりのようですが・・・」
「隣町というと、■■駅周辺ですか?」
「そうなりますね」
そこは、まさに今のマンションの立っている周辺の事だった。
「その時代の事を知りたければ、ここより●●寺で聞いてみるといいですよ」
そこは2人がこの後、訪ねようとしていたお寺だ。
「又、寄らせて頂きます。ありがとうございました」
そう言うと、2人は郷土資料館を後にした。
☆ ★
●●寺はこの駅と例の■■駅の中間くらいの小高い丘の上に建っている。歩いていくには少し時間がかかるので、タクシーで行くことにした。
お寺の入り口の古い寺標には ××宗 ●●寺と掘られている。
短い参道を通る。正面には立派な本堂が見えるが、右横の事務所兼自宅の呼び鈴を押す。
すぐに、頭を丸めた、60歳くらいの白い襟付きのシャツに紺のズボンを身に着けたご住職らしき人物が現れた。
袈裟を身に着けていると思っていたので、ちょっと面食らった。
2人は丁寧に頭を下げ、周辺の歴史を知りたい旨を伝えた。
2人はお寺独特の待合室のテーブルに案内された。ちょうど、ご住職と向かい合うように座る。
「今日は法事も何もありませんので、こんな格好で失礼しますよ」
温和な感じのご住職だ。
奥様らしきご婦人が2人にお茶を運んで来る。2人はご婦人に軽く会釈する。
「あなた方は学生さんかな?」
郷土資料館の男性と同じ事を言われた。
「はい、そうです」
岬さんが答える。
「それで、周辺の歴史という事ですが、いつ頃の事ですかな?」
紅林さんが先ほど郷土資料館で伺った罪人の墓場だった時ことを尋ねた。
「墓場と言えば聞こえはいいが、実際は埋葬されるわけでもなく、捨て場と言った方が正しいのかもしれません・・・」
「それではきちんと供養はされていないわけですね」
「まぁ、その為にこのお寺が建立されたようです・・・
そうした罪人を供養するための無縁墓地が、このお寺にはあります・・・」
(しかしこのお寺が建てられたのが江戸中期頃ということは、かなり長い年月が墓場として利用されていたことになる)
「場所は■■駅の近くだと資料館の方から伺っておりますが・・・」
今度は岬さんが尋ねる。
「そうですね。ちょうど駅周辺のようでしたね」
「それ以降はどんな場所だったのでしょうか?」
「そんな場所ですから、何もなくただの丘だったようですね。この辺りが開拓され始めたのは高度成長期以降の話になります」
「そうですか」
岬さんには高度成長期がピンとこない。
(高度成長期がいつ頃だったのか、よくわからない・・・)
それ以降の話を暫く聞いたが、魔界と関わるような話はなかった。
ただ、魔界の入り口に成り得る十分な過去があった事だけはわかった。
2人がお寺を出る時には、辺りは薄暗くなっていた。
ボチボチと歩いて帰路についた。
16章 つわものどもが・・・ 完 続く
どうやら彼が洗濯物を干している時が勝負らしい。
それまでに尾関さんと阿部さんは念入りに打ち合わせをするに違いない。
紅林さんと岬さんは、あの辺りの郷土資料館や神社仏閣の所在地を確認した。
調査するには、それが一番手っ取り早いと思ったからだ。
そしてそれは簡単に見つかった。
郷土資料館はその市の市役所の近くに、神社はなかったが、江戸時代中期くらいに建立された密教系のお寺があるようだ。
2人はまず郷土資料館へ行ってみる事にした。市役所は問題の駅の一つ先。市役所脇の小さい路地に、郷土資料館行きの矢印看板が立っていたのですぐにわかった。
小さい平屋のコンクリート製の建物で、以前は白い壁であったであろうが、今はだいぶ汚れてしまっている。建物の前は車が数台止められるようになっている。
ドアはガラス製の引き戸。開けると中は20畳ほどの大きさで壁際にガラスケースが並んでいる。左隅には4人掛けのテーブルと椅子が用意されている。
ガラス戸が開いた音で、数メートル先で、後ろ向きで、しゃがんで作業していた50歳くらいの男性が振り返り、
「いらっしゃい。どうぞご覧ください」
と、立ち上がりかけ、声をかけてきた。
2人はちょこっと頭を下げると、壁際に置かれているガラスケースの中を覗いた。そこには矢じりや、土器の破片やらが置かれ、弥生時代と書かれた木札が置かれている。この辺りで出土した物なのだろう。
「以前、この辺りで弥生時代の土器が出土したんですよ」
男性はそう言いながら、ガラスケースを覗いている2人近づいて行った。2人は振り返った。男性の身長はそれほど高くない。どちらかというと小柄なほうだ。ネームプレートには学芸員と記されている。
「そうなんですか」
岬さんが答える。
「それ以降の時代ではこの辺りはどうだったのですか?」
今度は阿部さんが落ち着いた口調で尋ねる。
「ん?君たちは学生さんかい?」
「ええ、この周辺の歴史を調べています」
阿部さんはなんとなく嘘をついた。
男性は納得したように頷くと、
「戦国時代の古戦場跡地でここから少し離れた場所に石碑が建っていますよ」
そちら方面に視線をやりながら答える。
「古戦場ですか・・・」
(古戦場なら多くの死者も出たであろう・・・)
紅林さんは思う。
「それ以降はどうだったんでしょうか?」
今度は岬さんが尋ねる。
「江戸時代初期から暫くは処刑された罪人の墓場になっていたようです。最もそこはここではなく、隣町あたりのようですが・・・」
「隣町というと、■■駅周辺ですか?」
「そうなりますね」
そこは、まさに今のマンションの立っている周辺の事だった。
「その時代の事を知りたければ、ここより●●寺で聞いてみるといいですよ」
そこは2人がこの後、訪ねようとしていたお寺だ。
「又、寄らせて頂きます。ありがとうございました」
そう言うと、2人は郷土資料館を後にした。
☆ ★
●●寺はこの駅と例の■■駅の中間くらいの小高い丘の上に建っている。歩いていくには少し時間がかかるので、タクシーで行くことにした。
お寺の入り口の古い寺標には ××宗 ●●寺と掘られている。
短い参道を通る。正面には立派な本堂が見えるが、右横の事務所兼自宅の呼び鈴を押す。
すぐに、頭を丸めた、60歳くらいの白い襟付きのシャツに紺のズボンを身に着けたご住職らしき人物が現れた。
袈裟を身に着けていると思っていたので、ちょっと面食らった。
2人は丁寧に頭を下げ、周辺の歴史を知りたい旨を伝えた。
2人はお寺独特の待合室のテーブルに案内された。ちょうど、ご住職と向かい合うように座る。
「今日は法事も何もありませんので、こんな格好で失礼しますよ」
温和な感じのご住職だ。
奥様らしきご婦人が2人にお茶を運んで来る。2人はご婦人に軽く会釈する。
「あなた方は学生さんかな?」
郷土資料館の男性と同じ事を言われた。
「はい、そうです」
岬さんが答える。
「それで、周辺の歴史という事ですが、いつ頃の事ですかな?」
紅林さんが先ほど郷土資料館で伺った罪人の墓場だった時ことを尋ねた。
「墓場と言えば聞こえはいいが、実際は埋葬されるわけでもなく、捨て場と言った方が正しいのかもしれません・・・」
「それではきちんと供養はされていないわけですね」
「まぁ、その為にこのお寺が建立されたようです・・・
そうした罪人を供養するための無縁墓地が、このお寺にはあります・・・」
(しかしこのお寺が建てられたのが江戸中期頃ということは、かなり長い年月が墓場として利用されていたことになる)
「場所は■■駅の近くだと資料館の方から伺っておりますが・・・」
今度は岬さんが尋ねる。
「そうですね。ちょうど駅周辺のようでしたね」
「それ以降はどんな場所だったのでしょうか?」
「そんな場所ですから、何もなくただの丘だったようですね。この辺りが開拓され始めたのは高度成長期以降の話になります」
「そうですか」
岬さんには高度成長期がピンとこない。
(高度成長期がいつ頃だったのか、よくわからない・・・)
それ以降の話を暫く聞いたが、魔界と関わるような話はなかった。
ただ、魔界の入り口に成り得る十分な過去があった事だけはわかった。
2人がお寺を出る時には、辺りは薄暗くなっていた。
ボチボチと歩いて帰路についた。
16章 つわものどもが・・・ 完 続く
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