事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・

ゆきもと けい

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15章 それぞれの役割

事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・

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 これからの検討を始めた時、一人の男子部員がテーブルに両腕を乗せ、僕と部長さんの方を見ながら、至極当たり前の事を口にした。

「ところで、その彼、誰なんですか?」

 他の部員たちも、そう言えば・・・というように顔を見合わせる。

(確かにその通りだ・・・
僕は彼の何も知らない・・・
名前、年齢、学生?社会人?
強いて言えば・・・たぶん男・・・くらいだ・・・)

「確かにそうだけど、今は彼が誰であるかはたいした問題じゃないよ」

 部長さんは、少し残っているペットボトルのお茶を一口飲んだ後、みんなに向かって言った。

 そして・・・

 次の行動は、とりあえず2つ調べてみる事にした。
 1つは勿論、彼の部屋の調査だ。これをしなければ、先に進むことはできない。ここまでは、あくまでも部長さんの推理でしかない。
 ここで、誰が担当するかだが・・・
 部長さんは紅林さんと岬さんを候補から外した。
 本来なら紅林さんと岬さんが適任だが、2人が彼の部屋に入るには、あまりにも精神的、肉体的に負担が大きすぎるだろう、と判断したからだ。

 それに岬さんには懸念材料があったようだ。

「いきなり霊感の強い人間が2人も部屋に入って来たら、彼女いや、魔界の住人かな・・・だって警戒するかもしれないよ。悪い方向に向かってしまう可能性だってある。だからここは霊感のない人に、動画を撮影して来てもらうのがベストだと思う・・・」

「動画でも状況は把握できそう?」

 部長さんは岬さんと紅林さんの顔を交互に見比べるようにしながら訊いた

「ええ、たぶん。僕は以前に心霊スポットの撮影動画を観たことがありますが、一応はわかりましたね。完璧かどうかはわかりませんが・・・」

 紅林さんは静かに語るように言った。岬さんも頷いている。

 問題はどうやって彼の部屋に入るかだ。最初はこのメンバーの誰かが、彼と友達になり、部屋へ案内してもらうのはどうか・・・だったが、それには時間的な問題や上手く友達になれるか、なれたとしても部屋に入れてくれるかなど、クリアしなければならない問題点が多すぎた。
 全員で思案してる中、尾関さんがボソッと口を開いた。

「要は、彼の部屋に誰かが入れればいいわけでしょう?撮影するって言ったって、ほんの1分程度の時間があれば十分じゃない?だったら私にいい考えがあるんだ」

 丸メガネの上下を右手の親指と人差し指で挟むようにして、押し上げる。

 どんな案かは失敗した時に恥ずかしいからと、言わなかった。
 ただ2人1組で行動する作戦らしいので、部屋の磁場を測りたい阿部さんと、尾関さんが担当することになった。

 もう一つはあの周辺、昔はどんな場所だったのかという調査だ。
もし、あそこが本当に魔界の入り口になっているとすれば、昔にそうなる何らかの原因があったのではないか、との判断からだ。
 こちらは岬さんと紅林さんが担当することになった。
 郷土資料館や昔からある神社やお寺なら何か聞けるかも知れないので、そちらから情報を集めてみることにした。

「僕は何かお手伝いすることはありますか?」

 僕は部長さんに尋ねた。

(僕にできる事があるなら手伝いたい。早く平穏な日常を取り戻したいから・・・アルバイトも早くしたいし・・・)

 そんな思いだ。

「沼田君は自分の部屋からの観察だね。何か変化があったら報告して頂戴。大事な役目だよ・・・」

みんなが頷く。

「わかりました」

「じゃぁ、早速、取りかかりましょう。沼田君は忘れずに入部届け、出しておくようにね・・・」

 僕は又言われた。
 部長さんは、空になったペットボトルを持つと、椅子から立ち上がり、作戦会議が終わった。


  15章 それぞれの役割 完 続く

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