上 下
9 / 20
9章 オカルト研究会

事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・

しおりを挟む
 それからというもの、僕は向かいの部屋が気になって仕方なかった。事ある毎に見てしまう。だが、殆どの時間、赤いカーテンは閉まったままだ。
 たまに洗濯物を干すために、カーテンが開けられるが、それも一瞬ですぐに閉められてしまう。
 その一瞬の垣間見からでも、2人で住んでいる風には見えない。

 そんなことをしているせいか、僕はまだアルバイト先を決められないでいた。

(やはり住んでいるのは彼一人で間違いないと思う・・・
だとすれば・・・)

 ただ一つ言えることは、彼の表情が楽しそうだということだ。
 そして、洗濯物の中には毎回同じ女性の下着が1組入っている。

(さて、どうしたもんか・・・
他人事ではあるが、このままにしておくべきなのか、思い切って彼にそれとなく訊いてみるべきなのか・・・
気にかかるのは、前の入居者が突然に姿を消した、ということだ)

 霊能力などがあれば、もしかしたら何か異変を感じ取れるのかもしれないが、生憎と僕にはそんな能力はない。

 ふと、

(ん? そうだ・・・確か・・・)

 僕はいつも大学に持って行っている肩下げカバンをテーブルの上に置いた。

(どこに入れたかな~)

 カバンの中をゴソゴソと探り始めた。内ポケットの中に4つ折りになり、くしゃくしゃになりかかっている紙を見つけた。

(これだ、これだ)

 取り出し開いた。
 それは入学当初にもらったオカルト研究会のチラシだった。

(この人達だったら、何かわかるかも知れない・・・)


 翌日の講義終了後、僕はこのサークルが入っている棟を訪ねた。時間は午後3時を少し回った頃だ。この棟はサークル棟と呼ばれていて、3階建ての近代的な建物になっている。初めて足を踏み入れたわけだが、長い廊下の右側に サークル名書かれた扉が並んでいる。扉はすべて引き戸になっている。
 この棟には20以上のサークルが入っているそうだ。

 目指すオカルト研究会の部室は1階の奥の方にあったのですぐにわかった。オカルト研究会の看板は至って普通で、少し拍子抜けした。もっと、おどろおどろしい看板を掲げているのかと想像していたからだ。

 引き戸をノックした後、戸を右横にスライドさせ、中に入った。
 10畳くらいはあるだろうか、大きな横長の金属製のテーブルが真ん中に鎮座している。10人くらいは座れそうだ・・・

 壁際には木製の本棚が2つ並べられていて、びっしりと書物が収まっている。部室はきれいに片付けられている。全くオカルト感が感じられない。

 部屋には男子部員が1人と女子部員が2人、テーブルを挟んで、向かい合うように座って携帯をいじっている。

 扉が開いた音で男子部員が携帯から目を離し、

「こんにちは」

 声をかけてきた。今時にしてはちょっと髪の長い、細身の男性。女子部員も僕の方へ物珍しそうに視線を向ける。女子部員の1人はメガネをかけ、肩まで髪を伸ばしている。もう一人は少し短めのボブヘアーで目がくりっとした女性だ。

「あの~ 部長さんはいらっしゃいますか?」

 僕は一通り部室を見渡したが、あの部長さんはいないようだ。

「部長に用ですか?」

 男子部員がそのまま続けた。

「ええ、ちょっとお伺いしたいことがありまして・・・」

「あれ? 今日、部長は来るんだっけ?」

 男子学生は正面に座っている女子部員たちに声をかけた。

「たぶん、もうすぐ来ると思いますよ」

 メガネをかけた女性の方が答えた。男子部員の方が学年が上なのだろう。

「だそうです。待ちますか?」

「ええ、お願いします」

「じゃぁ、適当に座って待ってて・・・」

 3人は僕にさして興味も示さず、又、携帯をいじり始めた。

 僕は言われるがまま、隅の方に置かれた椅子に腰かけた。本棚には、オカルト関係と思われる本が並べられている。

 オカルト研究会というから、もっと独特な雰囲気なのかと勝手に思っていたが、それは僕の思い過ごしだったようだ。

(そういえば、あの時部長さんは新入生を入れなければ、なんて言っていたが、新入部員は入ったのだろうか・・・)

 余計な想像をしてしまう。

 暫くして、ドアが開き、おかっぱ頭の部長さんが入って来た。
 僕を見つけるなり、

「あっ! やっと入る気になったんだ・・・」

 どうやら部長さんは僕のことを覚えていたらしく、嬉しそうな顔をする。おかっぱ頭ののせいかもしれないが、妙に可愛らしくみえる。

「いえ、そういう訳では・・・」

 僕は椅子から立ち上がり、否定しようとしたが、

「まぁまぁ・・・」

 これが僕とオカルト研究会の部長さんとの再会だった。


  9章 オカルト研究会 完 続く

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

感染した世界で~Second of Life's~

霧雨羽加賀
ホラー
世界は半ば終わりをつげ、希望という言葉がこの世からなくなりつつある世界で、いまだ希望を持ち続け戦っている人間たちがいた。 物資は底をつき、感染者のはびこる世の中、しかし抵抗はやめない。 それの彼、彼女らによる、感染した世界で~終わりの始まり~から一年がたった物語......

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒猫館の黒電話

凪司工房
ホラー
雑誌出版社に勤める黒井良樹は十年前のある失踪事件について、調べていた。 それは彼の大学時代、黒猫館と呼ばれたある建物にまつわるもので「黒猫館にある黒電話を使うと亡くなった人と話すことができる」そんな噂話が当時あった。 それを使って肝試ししようと、サークル仲間の安斉誠一郎が提案し、仲の良かった六人の男女で、夏のある夜、その館に侵入する。 しかしその内の一人が失踪してしまったのだった。

シカガネ神社

家紋武範
ホラー
F大生の過去に起こったホラースポットでの行方不明事件。 それのたった一人の生き残りがその惨劇を百物語の百話目に語りだす。 その一夜の出来事。 恐怖の一夜の話を……。 ※表紙の画像は 菁 犬兎さまに頂戴しました!

紺青の鬼

砂詠 飛来
ホラー
専門学校の卒業制作として執筆したものです。 千葉県のとある地域に言い伝えられている民話・伝承を砂詠イズムで書きました。 全3編、連作になっています。 江戸時代から現代までを大まかに書いていて、ちょっとややこしいのですがみなさん頑張ってついて来てください。 幾年も前の作品をほぼそのまま載せるので「なにこれ稚拙な文め」となると思いますが、砂詠もそう思ったのでその感覚は正しいです。 この作品を執筆していたとある秋の夜、原因不明の高熱にうなされ胃液を吐きまくるという現象に苛まれました。しぬかと思いましたが、いまではもう笑い話です。よかったいのちがあって。 其のいち・青鬼の井戸、生き肝の眼薬  ──慕い合う気持ちは、歪み、いつしか井戸のなかへ消える。  その村には一軒の豪農と古い井戸があった。目の見えない老婆を救うためには、子どもの生き肝を喰わねばならぬという。怪しげな僧と女の童の思惑とは‥‥。 其のに・青鬼の面、鬼堂の大杉  ──許されぬ欲望に身を任せた者は、孤独に苛まれ後悔さえ無駄になる。  その年頃の娘と青年は、決して結ばれてはならない。しかし、互いの懸想に気がついたときには、すでにすべてが遅かった。娘に宿った新たな命によって狂わされた運命に‥‥。 其のさん・青鬼の眼、耳切りの坂  ──抗うことのできぬ輪廻は、ただ空回りしただけにすぎなかった。  その眼科医のもとをふいに訪れた患者が、思わぬ過去を携えてきた。自身の出生の秘密が解き明かされる。残酷さを刻み続けてきただけの時が、いまここでつながろうとは‥‥。

水の巫女の助手になる

ぽとりひょん
ホラー
たすくは探偵事務所でアルバイトを始める。 しかし、来る依頼は一風変わっている、つまりオカルトじみていたのだ。 たすくは霊の世界に引き込まれていく。 怖い思いをしながら彼は仕事を続ける。 それは、所長の沙也加が、好みのタイプだったからだ。 沙也加は、龍神の巫女の血を引いており、水を操ることができる。 その力で、悪霊、妖怪を退治していく。 たすくには、隠れた才能があり、仕事を続けていくうちに彼はその力に気づく。 しかし、彼には、自分の力をコントロールできない。 力を発言するには煩悩しかない。 たすくは沙也加にスケベと言われながら力を振るう。 その力は、沙也加の師匠の敵、呪い屋の美月も巻き込んでいく。

ヒナタとツクル~大杉の呪い事件簿~

夜光虫
ホラー
仲の良い双子姉弟、陽向(ヒナタ)と月琉(ツクル)は高校一年生。 陽向は、ちょっぴりおバカで怖がりだけど元気いっぱいで愛嬌のある女の子。自覚がないだけで実は霊感も秘めている。 月琉は、成績優秀スポーツ万能、冷静沈着な眼鏡男子。眼鏡を外すととんでもないイケメンであるのだが、実は重度オタクな残念系イケメン男子。 そんな二人は夏休みを利用して、田舎にある祖母(ばっちゃ)の家に四年ぶりに遊びに行くことになった。 ばっちゃの住む――大杉集落。そこには、地元民が大杉様と呼んで親しむ千年杉を祭る風習がある。長閑で素晴らしい鄙村である。 今回も楽しい旅行になるだろうと楽しみにしていた二人だが、道中、バスの運転手から大杉集落にまつわる不穏な噂を耳にすることになる。 曰く、近年の大杉集落では大杉様の呪いとも解される怪事件が多発しているのだとか。そして去年には女の子も亡くなってしまったのだという。 バスの運転手の冗談めかした言葉に一度はただの怪談話だと済ませた二人だが、滞在中、怪事件は嘘ではないのだと気づくことになる。 そして二人は事件の真相に迫っていくことになる。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...