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6章 取り越し苦労?

事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・

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 最寄り駅の前はロータリーになっていて、時折タクシーが待機している。バス停もある。
 
 そのロータリーの先は50mほどの直線道路になっていて、駅から進むと、右手側に小さなスーパーマーケットがある。必要最小限の商品はここで買える。
 お年寄りや一人暮らしの学生にとっては手ごろな大きさで、大型スーパーよりもありがたい存在だ。マンションまでは3分ほどの道のりだが、その途中にもコンビニがある。

 あの部屋の住人が赤いカーテンに変えてから、数日が経っている。殆どの時間、カーテンは閉まったままだが、時折、洗濯物を干している姿を見かけたりする。別段、変わった様子は見られない。というより、その干している姿がむしろ楽しそうにすら見える。

(カーテンの件は、単なる偶然で、僕の思い過ごしか・・・)

 そう感じさせてしまうくらいだ。

(もちろん、それならそれで良い・・・
僕も余計な考えをしなくても済む・・・
地縛霊がどうだとか・・・)


 ある日の夕方、大学の帰りに駅前のスーパーに立ち寄った。夕方ということもあり、お年寄りの買い物客が多い。一人用のお惣菜やお弁当を買っていたりする。お年寄りが一人分だけの調理をするのは大変なのだろう・・・

 僕はいつもコンビニ弁当では飽きてしまうので、ここのスーパーのお弁当と交互で買うことに決めている。こちらのお弁当の方が、いろいろな食材が入っていて、手作り感がありちゃんと食べてる気がする。
 ただお値段はこちらの方が若干高めとなっている。
 時折、自炊も考えてみるが、やはり面倒が先に出てしまう。

(んん?)

 僕はふと、野菜売り場にジーパン姿の彼が立っているのに気づいた。手には買い物かごを持ち、僕とは違い、食材を買いに来ているようだ。

(彼は自炊派か・・・偉いな・・・)

(初日に、買ってきた弁当を食べていたのは、やはり片付いていなかったからか・・・)
 
 僕はそれとなく彼のそばへ近寄って行った。こんな間近で彼を見るのは初めてだ。彼の方はもちろん、僕の顔に記憶はないはずだ。だが、彼に話しかける気は毛頭ない。

 彼の横にそれとなく立ち、野菜を探しているフリをする。僕の身長は170㎝ほどなので、僕より少し低い感じだが、やせ型なのは僕と同じだ。やはりどこか素朴感を感じる。
 積まれたじゃがいもの袋を手に取ると、それを無造作に買い物に入れる。次に人参・たまねぎも同じように入れる。近くで見ても、あの部屋で何か恐ろしいことが起こっている気配は微塵も感じられない。至って普通だ。

 彼がポツリと独り言を呟く。

「今日はカレーにしようかな・・・確か・・・」

 そこでお買い得品のアナウンスが店内に流れ、後半の独り言が聞き取れなかった。

(今夜はカレーか・・・僕も実家に電話して、せめて実家のカレーの作り方くらい教えてもらうかな・・・)

 そんな気にさせる・・・


  6章 取り越し苦労? 完 続く

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