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2章 違和感の正体

事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・

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 事故物件の話を聞かされてから1週間ほどが過ぎた。

 大学の入学式も終わり、今はオリエンテーションが始まっている。
 大学によりその内容は様々だが、僕の大学では、ガイダンス的なものがほとんどで、進級に必要な単位数や必須科目などの説明が多い。退屈といえば退屈だが、大事なことだ。ちなみに僕は、経済学部経済学科だ。

 大学は僕の最寄り駅から電車で1本。30分のほどのところに位置している。
 大通りから大学の門までの学道の両脇はサクラ並木だが、今年はサクラの開花も早く、少し葉サクラになりかかっている。朝はそこを多くの学生が通る。
 
 一時期は悪い病気が蔓延し、オンラインでほぼすべてのことが行われていたようだが、昨年からは病気が流行る前の形式に変わったそうだ。
 従って、毎日、大学へ通っている。

 サークルにも誘われる。

(そういえば、オリエンテーションで、宗教のがらみの勧誘があった場合には、学生課まで報告して下さい、と言われているが、まじめに宗教を掘り下げ、研究・勉強しているサークルの勧誘はどうなるんだろうか・・・などと余計な詮索をしてしまう)

 夕方、マンションに帰ると、朝はもとより、今ではたまに夜、カーテンを開けてあの部屋を見るようになってしまった。
 さらに夜には懐中電灯で部屋の中を照らして覗くほどだ。だからといって、別段、いつもと変わっているわけではない。

 何もない、誰もいない、殺風景な部屋・・・

 一度は気にしなくなった違和感だが、最近では又、気にしだした。だが、何がどうということもない。

 それでも、毎日それなりの注意を払って見続けていると、やはり何か違和感を感じてしまう日がある。それが何なのか、自分でもよくわからない。
 別段、霊を見たり、ポルターガイスト現象を見たりするわけではない。
 僕はホラー小説やその手のゲームは好きだが、霊を見たことは一度もない。
 見たいとも思わない。やっぱり怖い・・・

 何もないただの殺風景な部屋の中・・・
 それなのにそう感じてしまうのは、なぜなのか・・・

 その答えに気づいたのは、数日経った朝のことだ。
 いつものようにカーテンを開け、向かいの部屋を見る。
 相変わらず、何もない部屋だが、いつもと違い、部屋の中の空気が歪んでいるように見える。
 空気が歪んでいるように見える、とはおかしな表現だが、それがぴったりな表現で、それが感じていた違和感の正体なのかもしれない。空気が淀んでいるのとは違う感覚だと思わせる。
 だが、実際に部屋が歪んで見えるわけではないし、毎日感じるわけでもない。
いつもと変わらぬ殺風景な部屋に過ぎない・・・

(この不思議な感覚はいったい何だ・・・)

 僕は向かいの部屋を見続けたまま、心の中で呟いた。
 しかしその違和感は、すぐに解消してしまう。
 それが僕に何か悪影響を及ぼしているとも思えない。

 数日したある日、夕方、大学から帰ってくると、あの部屋の中に多くのダンボールが置かれているのが見える。それは有名な引越会社のダンボールのようだ。

(誰かが入居したのか・・・)

 僕は興味を示した。だが、人影は見えない。

(誰が入居したんだろう・・・男性?女性? まぁ、すぐにわかるか・・・)

 僕はとりあえず、カーテンを閉めた。


  2章 違和感の正体 完 続く
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