9 / 11
9章 渉君の場合
もう一つの小学校
しおりを挟む
音楽の先生に連れて行かれるように、渉君は廊下正面奥の教室に入った。途中の教室はすべてドアが閉められている。補習授業中なのだろうか・・・
音楽室に入ると、正面奥の窓近くにピアノが置かれ、赤い布が黒いピアノの天に畳んで置かれている。左側にはそのピアノの方へ向かって机と椅子が40席くらい並んでいる。
学校によっては有名な作曲家の肖像画が壁に飾られていたりするが、この教室にはそういうモノは一切飾られていない。
先生はピアノの椅子に腰かける。脇に置かれている椅子に渉君を座るように促す。
渉君は正体がバレないかと冷や冷やしながら座る。
いや・・・正体は同じ人間なのだから、バレるという表現は少し違っているのかもしれない。
「これなんだけどね・・・」
先生はピアノの譜面台から1枚のA3二折の五線譜を外し、渉君に手渡した。
手書きの五線譜・・・
先生の性格だろうか・・・
音符はすべて定規できれいに引かれている。
4分の4拍子。四分音符と八分音符で構成されている。
「どうかしら・・・?
と言っても譜面だけじゃわからないわよね・・・
ちょっと弾いてみるから聴いてみて・・・」
そう言うと先生はピアノに向かい弾き始めた。自分が書いた楽譜なので、譜面を見なくても弾けるようだ。曲としては1~2分程度だろうか・・・
その音楽は今の渉君たちの世界の学校の始業チャイムによく似ている。
「あの先生・・・この曲って、なんか似たような感じの音楽って、なかったっけ?」
渉君はそれとなく尋ねる。先生は渉君の方へ向き直ると、
「そう・・・? あったかしら???」
少し思案顔になる。
そして・・・
「さぁ・・・先生は思い浮かばないけど、花岡君はあるの?」
「い、いや・・・僕の勘違いかな・・・」
渉君は慌てて否定する。どうやらこっちの世界ではあの曲はないらしい。
「で、この曲をバイオリンで弾ける?」
渉君にはわからない・・・
たださっきの先生の話からすると、幼い頃からバイオリンを習っているのであれば、この程度の楽譜なら弾けるだろうと推測がつく。
「たぶん大丈夫かな・・・ でも、今、弾くのは無理だよ、先生」
「ええ、先生はそんな無理は言わないわ。弾けることがわかればいいの。今度、一度合わせてみましょう・・・
楽譜、持って帰る?」
「ううん、それは後で・・・」
渉君は首を横に振った後、
「4時過ぎくらいになったら、声かけてもらっていいですか?」
4時過ぎには僕はこの世界にはいないはずだ。
「4時過ぎね。わかったわ・・・それまでちゃんと学校にいてね・・・」
(4時までは少なくとも僕はいる・・・入れ替わるのであれば、この世界の渉君も入れ違いでここに現れるにちがいない・・・
もしいなくても、それはこっちの世界の話だ・・・)
「話は変わるんだけどね・・・
花岡君はちゃんと学校に来た方がいいと先生は思うんだ・・・」
「はぁ・・・?」
渉君は何とも微妙な返事をする。
「花岡君の考えも、わからないわけじゃないわよ・・・先生は・・・
有名な音大付属中学に入れるように学校に来ないで、バイオリンの練習を毎日していることも・・・」
(なるほど、こっちの世界の僕が学校に来ない理由はそれか・・・
イジメとかではないんだ・・・)
渉君は自分が学校に来ない理由を、一応理解した。
しかし・・・
(でも、学校には来なきゃ駄目だろう・・・小学生なんだから・・・)
自分のことながら、ちょっとした怒りを感じる。
「一度、ちゃんと考えてみた方がいいと思うんだ、先生は・・・」
「まぁ、そうだよね・・・ 考えてみます・・・」
果たして、この返事で良かったのかどうか・・・
(まぁ、こっちの世界の話だからな・・・
後は本人が何とかするだろう・・・
って・・・自分か・・・)
9章 渉君の場合 完 続く
音楽室に入ると、正面奥の窓近くにピアノが置かれ、赤い布が黒いピアノの天に畳んで置かれている。左側にはそのピアノの方へ向かって机と椅子が40席くらい並んでいる。
学校によっては有名な作曲家の肖像画が壁に飾られていたりするが、この教室にはそういうモノは一切飾られていない。
先生はピアノの椅子に腰かける。脇に置かれている椅子に渉君を座るように促す。
渉君は正体がバレないかと冷や冷やしながら座る。
いや・・・正体は同じ人間なのだから、バレるという表現は少し違っているのかもしれない。
「これなんだけどね・・・」
先生はピアノの譜面台から1枚のA3二折の五線譜を外し、渉君に手渡した。
手書きの五線譜・・・
先生の性格だろうか・・・
音符はすべて定規できれいに引かれている。
4分の4拍子。四分音符と八分音符で構成されている。
「どうかしら・・・?
と言っても譜面だけじゃわからないわよね・・・
ちょっと弾いてみるから聴いてみて・・・」
そう言うと先生はピアノに向かい弾き始めた。自分が書いた楽譜なので、譜面を見なくても弾けるようだ。曲としては1~2分程度だろうか・・・
その音楽は今の渉君たちの世界の学校の始業チャイムによく似ている。
「あの先生・・・この曲って、なんか似たような感じの音楽って、なかったっけ?」
渉君はそれとなく尋ねる。先生は渉君の方へ向き直ると、
「そう・・・? あったかしら???」
少し思案顔になる。
そして・・・
「さぁ・・・先生は思い浮かばないけど、花岡君はあるの?」
「い、いや・・・僕の勘違いかな・・・」
渉君は慌てて否定する。どうやらこっちの世界ではあの曲はないらしい。
「で、この曲をバイオリンで弾ける?」
渉君にはわからない・・・
たださっきの先生の話からすると、幼い頃からバイオリンを習っているのであれば、この程度の楽譜なら弾けるだろうと推測がつく。
「たぶん大丈夫かな・・・ でも、今、弾くのは無理だよ、先生」
「ええ、先生はそんな無理は言わないわ。弾けることがわかればいいの。今度、一度合わせてみましょう・・・
楽譜、持って帰る?」
「ううん、それは後で・・・」
渉君は首を横に振った後、
「4時過ぎくらいになったら、声かけてもらっていいですか?」
4時過ぎには僕はこの世界にはいないはずだ。
「4時過ぎね。わかったわ・・・それまでちゃんと学校にいてね・・・」
(4時までは少なくとも僕はいる・・・入れ替わるのであれば、この世界の渉君も入れ違いでここに現れるにちがいない・・・
もしいなくても、それはこっちの世界の話だ・・・)
「話は変わるんだけどね・・・
花岡君はちゃんと学校に来た方がいいと先生は思うんだ・・・」
「はぁ・・・?」
渉君は何とも微妙な返事をする。
「花岡君の考えも、わからないわけじゃないわよ・・・先生は・・・
有名な音大付属中学に入れるように学校に来ないで、バイオリンの練習を毎日していることも・・・」
(なるほど、こっちの世界の僕が学校に来ない理由はそれか・・・
イジメとかではないんだ・・・)
渉君は自分が学校に来ない理由を、一応理解した。
しかし・・・
(でも、学校には来なきゃ駄目だろう・・・小学生なんだから・・・)
自分のことながら、ちょっとした怒りを感じる。
「一度、ちゃんと考えてみた方がいいと思うんだ、先生は・・・」
「まぁ、そうだよね・・・ 考えてみます・・・」
果たして、この返事で良かったのかどうか・・・
(まぁ、こっちの世界の話だからな・・・
後は本人が何とかするだろう・・・
って・・・自分か・・・)
9章 渉君の場合 完 続く
9
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる