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7章 沙織先生の場合
もう一つの小学校
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沙織先生が職員室に入ってまず驚いたのは、教員の机の数だ。向かい合うように並べられた机は2列で、ざっと見ただけでも30机ぐらいはありそうだ。何クラスあるのかわからないが、かなりの教員の数がいるようだ。まばらに先生方が座っている。男の先生、女の先生、若い先生、ちょっと年配の先生と、その層もいろいろだ。
ノートパソコンを見ている先生や書類を見ている先生・・・様々。
この中のどれかの机が自分の机のはずだが、もちろんそれはわからない。
机間の通路を通り、一番奥に置かれているステンレス製の四角いテーブル、そこに置かれているパイプ椅子に向かい合うように2人は座る。
他の先生は別段、2人を気にかける様子はない。自分の仕事に没頭している様子である。
「佐々木先生はこの学校に来て、5カ月ぐらいですか・・・
もうそろそろこの学校に方針に従って頂かないと困りますね・・・」
メガネの淵を持ち上げるようにしながら、沙織先生の様子を覗うように嫌みな言い方をする。
「方針ですか?」
逆に沙織先生が話の様子を覗うように尋ね返す。不用意な質問は避ける。
「そうです。確かに、佐々木先生が常々おっしゃっていることも理解できますよ。生徒は平等に扱う。差別はしない。確かに理想はその通りですが・・・」
(生徒は平等に扱う・・・? 何言ってるの?この先生・・・
当たり前のことでしょう、そんなこと・・・
それをわざわざ口にしたり、考えたりもしない・・・
当たり前過ぎて・・・)
ここでふと沙織先生は気づく。
(そうだわ。ここは私たちの世界じゃないんだ・・・)
と・・・
「ここは公立の小学校ですが、有名中学、高校。そして最高大学へ入るために村が総力をあげて作った小学校です。近いうちには私立中学校も作る予定とか・・・村の活性化のために・・・
だからこの学校へ入学するために移住者が大勢になり、村も活性した。
先生もご承知の通り、山に近いにもかかわらず、大きなショッピングセンターや病院があったりします。他の地域の村落では考えられないことです。
しかし、公立の小学校だから生徒の選別はできない。例え、成績の悪い生徒でも、ここに住んでいる以上は受け入れるしかない。
岩本がそのいい例でしょう・・・和仁さんも、内心では勉強のできない岩本を快く思っていないことは、先生もわかっているはずですよ。にもかかわらず、さっき一緒に行動させるなんて、いったい何を考えているのか、理解できません。それが先生の言う、平等に扱う理論ですかね・・・」
先生は両腕を机に上に乗せ、掌を合わせるように組み、淡々と皮肉るように言う。
(つまりここでは、勉強ができるかどうかで判断されるということ・・・?
それに、ここでは和仁さんが岩本君を避けている?
勉強が苦手なだけで・・・
蓮君は優しい子。さっきだって指を怪我した結奈ちゃんに絆創膏を巻いてあげたのに・・・?
ん? そうだ・・・世界が違うんだった・・・)
沙織先生の脳が一瞬、混乱する。
(しかし、なんて馬鹿ことをここの集落の人たちはしたの・・・
どうして、静かな自然豊かな集落にしておかなかったの・・・
集落の活性化のため・・・)
「何度も言うようですが、岩本の相手する時間があったら、他の生徒の成績を上げる方法を考えてください」
「それでは岩本君はどうなるのですか?」
「さぁ、それは岩本本人や家族が考えることです。私たちには関係ありません」
(そんな・・・)
ここの私はどうしているのか気になる。この先生の話から察するに、この世界の私はこの方針に少なからず反対しているようだ。
なぜか安心する。
もしこの世界の私が他の先生と同じ考えだったら、きっと悲しい気持ちになったであろう・・・
(がんばって欲しい・・・)
沙織先生はもう一人の自分に心からエールを送る。
7章 沙織先生の場合 完 続く
ノートパソコンを見ている先生や書類を見ている先生・・・様々。
この中のどれかの机が自分の机のはずだが、もちろんそれはわからない。
机間の通路を通り、一番奥に置かれているステンレス製の四角いテーブル、そこに置かれているパイプ椅子に向かい合うように2人は座る。
他の先生は別段、2人を気にかける様子はない。自分の仕事に没頭している様子である。
「佐々木先生はこの学校に来て、5カ月ぐらいですか・・・
もうそろそろこの学校に方針に従って頂かないと困りますね・・・」
メガネの淵を持ち上げるようにしながら、沙織先生の様子を覗うように嫌みな言い方をする。
「方針ですか?」
逆に沙織先生が話の様子を覗うように尋ね返す。不用意な質問は避ける。
「そうです。確かに、佐々木先生が常々おっしゃっていることも理解できますよ。生徒は平等に扱う。差別はしない。確かに理想はその通りですが・・・」
(生徒は平等に扱う・・・? 何言ってるの?この先生・・・
当たり前のことでしょう、そんなこと・・・
それをわざわざ口にしたり、考えたりもしない・・・
当たり前過ぎて・・・)
ここでふと沙織先生は気づく。
(そうだわ。ここは私たちの世界じゃないんだ・・・)
と・・・
「ここは公立の小学校ですが、有名中学、高校。そして最高大学へ入るために村が総力をあげて作った小学校です。近いうちには私立中学校も作る予定とか・・・村の活性化のために・・・
だからこの学校へ入学するために移住者が大勢になり、村も活性した。
先生もご承知の通り、山に近いにもかかわらず、大きなショッピングセンターや病院があったりします。他の地域の村落では考えられないことです。
しかし、公立の小学校だから生徒の選別はできない。例え、成績の悪い生徒でも、ここに住んでいる以上は受け入れるしかない。
岩本がそのいい例でしょう・・・和仁さんも、内心では勉強のできない岩本を快く思っていないことは、先生もわかっているはずですよ。にもかかわらず、さっき一緒に行動させるなんて、いったい何を考えているのか、理解できません。それが先生の言う、平等に扱う理論ですかね・・・」
先生は両腕を机に上に乗せ、掌を合わせるように組み、淡々と皮肉るように言う。
(つまりここでは、勉強ができるかどうかで判断されるということ・・・?
それに、ここでは和仁さんが岩本君を避けている?
勉強が苦手なだけで・・・
蓮君は優しい子。さっきだって指を怪我した結奈ちゃんに絆創膏を巻いてあげたのに・・・?
ん? そうだ・・・世界が違うんだった・・・)
沙織先生の脳が一瞬、混乱する。
(しかし、なんて馬鹿ことをここの集落の人たちはしたの・・・
どうして、静かな自然豊かな集落にしておかなかったの・・・
集落の活性化のため・・・)
「何度も言うようですが、岩本の相手する時間があったら、他の生徒の成績を上げる方法を考えてください」
「それでは岩本君はどうなるのですか?」
「さぁ、それは岩本本人や家族が考えることです。私たちには関係ありません」
(そんな・・・)
ここの私はどうしているのか気になる。この先生の話から察するに、この世界の私はこの方針に少なからず反対しているようだ。
なぜか安心する。
もしこの世界の私が他の先生と同じ考えだったら、きっと悲しい気持ちになったであろう・・・
(がんばって欲しい・・・)
沙織先生はもう一人の自分に心からエールを送る。
7章 沙織先生の場合 完 続く
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