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再開
不思議な訪問者
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佳代子さんは武夫と名乗る人物が現れるまで、少し頭の中を整理してみることにした。あまりの突拍子もない話に、思考回路が崩壊しかかっている。
(一番肝心なのは本人か否というところだわ。電話の応対だけで判断するなら本人の可能性は極めて高いということになるんだけど…
それならなぜ武夫さんのご両親は亡くなったなどと言ったのかしら?
普通に考えれば、そう言わざる得ない事情があったと考えるのが自然…
例えば、何か犯罪を犯し、服役していたとか…
しかし、40年も服役する犯罪と言えば、殺人や放火といった重大な犯罪…おそらくTVニュースにも出るくらいのはず…
さすがに親戚にこの事実を隠すのは難しいでしょうね…
だとすれば、もし本人であるならば、もっと別の事情あるということかしら…
偽物だった場合はどうなるかしら…
まず武夫さんの幼少期のことをよく知っている人物…だけど確か武夫さんも私と同じで一人っ子のはずだわ…だからよく一緒に遊んだんだもの…
じゃぁ、いったい誰が何の目的で…?
私には財産はないわ。この家も売ってしまってマンションを買ったから一銭も残っていないし…後はほそぼそと年金暮らしの老人…私に近づいても何の得もないわ)
結論の出ない答えを探し求めていた。
2時間ほどして玄関のチャイムが鳴った。佳代子さんは心を落ち着かせるようにゆっくりと玄関に向かった。玄関先には身長170cmくらいのやせ形で、髪は短めでロマンスグレー、顔は少し日に焼けて60歳と言っても通るくらいの若い感じの初老の男が立っていた。薄いジャケットを羽織っている。本人かどうかの判断は、長い年月がそれを阻止している。
「佳代ちゃんかい?懐かしいな~」
武夫と名乗る男は屈託のない笑顔で佳代子さんを眺めた。さすがに『昔とちっとも変わらないね…』とは言わない。
「いや~家がすぐにわかるかと思ったら、ちょっと探しちゃったよ。シラサギ公園の裏門を背にして1本目か2本目の道を右に入った所だと思っていたら、3本目だったんだね…」
「そう、3本目の道を入ったところ…さぁどうぞ、おあがり下さい」
佳代子さんはスリッパを並べ、リビングのテーブルに武夫と名乗る男を案内した。特に怪しい気配はない。
「一緒に食べようと思って、ケーキ買って来たんだ…」
男はそういうと小ぶりな紙箱を佳代子さんに手渡した。紙箱には有名な洋菓子店の名前が印刷されていた。
「ありがとう。今、コーヒーでも淹れるわ」
佳代子さんはコーヒーと男が買ってきたショートケーキをテーブルに並べた。
男はコーヒーを一口飲んでから右手でフォークを掴むと、ショートケーキの短い三角の部分を切り離し口に運んだ。
それを見ていた佳代子さんはハッとした。
(武夫さんは左利きだったはずだわ。間違いない。なにのこの人はなんの躊躇いもなく右手でフォークを使っている…やっぱり偽物なんじゃないかしら…だとすると、いったいこの人は誰…)
途端に恐怖が込み上げてくる。
「どうかしたの、佳代ちゃん?」
「あなた、本当に武夫さん?」
「そうだよ。当たり前じゃないか」
「武夫さんは左利きはず、でもあなたは右利きでしょ?」
「なんだい、そんなことかい?」
男は動揺するかと思いきや、なんの動揺も示さず、
「やっぱり左利きは不便なことが多くてね、高校の時になるべく右手を使うようにしてたんだよ。そしたら、知らぬ間に右利きに変わっていた。それだけだよ…まるで僕が別人じゃないかって疑っている感じだね」
男は薄く笑みを浮かべた。
「正直、わからないのよ。あなたが武夫さんかどうか…突然で困惑してるわ…」
「まぁ確かに、死んだと聞かされていた人間が突然、生きて目の前現れたらね…」
男はゆっくりとコーヒーをすすり、さらにもう一口ケーキを食べ、話を続けた。
「だが、もし僕が武夫じゃなかったら、なんで武夫に成りすますんだろう…?」
「そう…そこがわからないわ…それに武夫さんの幼少期の事も知っている人物…誰…?」
「そうだな~佳代ちゃんを不安にさせるわけではないけど、その条件をクリアできる人間が一人だけいるよね。覚えてないかな…?ほら、近所の健太君。彼は僕の家の近所だし、僕たちとも何度か一緒に遊んでいる。確かここにも来たこともあったと思うよ。もし僕が偽物なら、たぶん健太ということになるね…」
「健太君…」
佳代子さんは遠い記憶を探り始めた。確かにその子とは何度か一緒に遊んだ記憶がある。
(確かに彼なら、住んでいた場所や何をして遊んでいたかを知っていてもおかしくないわ…)
佳代子さんは改めて正面に座っている男の顔を確認した。
健太君の記憶はあまりない…顔も思い出せない…
(やっぱり、わからないわ…武夫さんなのか、健太君なのか…)
再開 完
(一番肝心なのは本人か否というところだわ。電話の応対だけで判断するなら本人の可能性は極めて高いということになるんだけど…
それならなぜ武夫さんのご両親は亡くなったなどと言ったのかしら?
普通に考えれば、そう言わざる得ない事情があったと考えるのが自然…
例えば、何か犯罪を犯し、服役していたとか…
しかし、40年も服役する犯罪と言えば、殺人や放火といった重大な犯罪…おそらくTVニュースにも出るくらいのはず…
さすがに親戚にこの事実を隠すのは難しいでしょうね…
だとすれば、もし本人であるならば、もっと別の事情あるということかしら…
偽物だった場合はどうなるかしら…
まず武夫さんの幼少期のことをよく知っている人物…だけど確か武夫さんも私と同じで一人っ子のはずだわ…だからよく一緒に遊んだんだもの…
じゃぁ、いったい誰が何の目的で…?
私には財産はないわ。この家も売ってしまってマンションを買ったから一銭も残っていないし…後はほそぼそと年金暮らしの老人…私に近づいても何の得もないわ)
結論の出ない答えを探し求めていた。
2時間ほどして玄関のチャイムが鳴った。佳代子さんは心を落ち着かせるようにゆっくりと玄関に向かった。玄関先には身長170cmくらいのやせ形で、髪は短めでロマンスグレー、顔は少し日に焼けて60歳と言っても通るくらいの若い感じの初老の男が立っていた。薄いジャケットを羽織っている。本人かどうかの判断は、長い年月がそれを阻止している。
「佳代ちゃんかい?懐かしいな~」
武夫と名乗る男は屈託のない笑顔で佳代子さんを眺めた。さすがに『昔とちっとも変わらないね…』とは言わない。
「いや~家がすぐにわかるかと思ったら、ちょっと探しちゃったよ。シラサギ公園の裏門を背にして1本目か2本目の道を右に入った所だと思っていたら、3本目だったんだね…」
「そう、3本目の道を入ったところ…さぁどうぞ、おあがり下さい」
佳代子さんはスリッパを並べ、リビングのテーブルに武夫と名乗る男を案内した。特に怪しい気配はない。
「一緒に食べようと思って、ケーキ買って来たんだ…」
男はそういうと小ぶりな紙箱を佳代子さんに手渡した。紙箱には有名な洋菓子店の名前が印刷されていた。
「ありがとう。今、コーヒーでも淹れるわ」
佳代子さんはコーヒーと男が買ってきたショートケーキをテーブルに並べた。
男はコーヒーを一口飲んでから右手でフォークを掴むと、ショートケーキの短い三角の部分を切り離し口に運んだ。
それを見ていた佳代子さんはハッとした。
(武夫さんは左利きだったはずだわ。間違いない。なにのこの人はなんの躊躇いもなく右手でフォークを使っている…やっぱり偽物なんじゃないかしら…だとすると、いったいこの人は誰…)
途端に恐怖が込み上げてくる。
「どうかしたの、佳代ちゃん?」
「あなた、本当に武夫さん?」
「そうだよ。当たり前じゃないか」
「武夫さんは左利きはず、でもあなたは右利きでしょ?」
「なんだい、そんなことかい?」
男は動揺するかと思いきや、なんの動揺も示さず、
「やっぱり左利きは不便なことが多くてね、高校の時になるべく右手を使うようにしてたんだよ。そしたら、知らぬ間に右利きに変わっていた。それだけだよ…まるで僕が別人じゃないかって疑っている感じだね」
男は薄く笑みを浮かべた。
「正直、わからないのよ。あなたが武夫さんかどうか…突然で困惑してるわ…」
「まぁ確かに、死んだと聞かされていた人間が突然、生きて目の前現れたらね…」
男はゆっくりとコーヒーをすすり、さらにもう一口ケーキを食べ、話を続けた。
「だが、もし僕が武夫じゃなかったら、なんで武夫に成りすますんだろう…?」
「そう…そこがわからないわ…それに武夫さんの幼少期の事も知っている人物…誰…?」
「そうだな~佳代ちゃんを不安にさせるわけではないけど、その条件をクリアできる人間が一人だけいるよね。覚えてないかな…?ほら、近所の健太君。彼は僕の家の近所だし、僕たちとも何度か一緒に遊んでいる。確かここにも来たこともあったと思うよ。もし僕が偽物なら、たぶん健太ということになるね…」
「健太君…」
佳代子さんは遠い記憶を探り始めた。確かにその子とは何度か一緒に遊んだ記憶がある。
(確かに彼なら、住んでいた場所や何をして遊んでいたかを知っていてもおかしくないわ…)
佳代子さんは改めて正面に座っている男の顔を確認した。
健太君の記憶はあまりない…顔も思い出せない…
(やっぱり、わからないわ…武夫さんなのか、健太君なのか…)
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