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プロローグ
不思議な訪問者
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その不思議な体験は1本の電話からだった。
「はい、守屋でございます」
最近は携帯電話が主流で固定電話にかかってくるのは珍しくなった。電話に出たのは今年で75歳になる守屋佳代子さんだ。
「もしかして、佳代ちゃん?」
電話口は男性の声で、妙に慣れ慣れしかった。
(佳代ちゃん???誰かしら…声の感じからして、私と同い年くらいみたいだけど…今、私の事を佳代ちゃんなんて呼ぶ人はいないわ)
佳代子さんに兄弟姉妹はいなく、生涯独身でいる。今住んでいる家は、佳代子さんが20歳の時に両親が建てた家だ。築55年で、あちこちにガタがきている。両親はすでに他界している。だから今月末でこの家を処分して、隣町のちいさなマンションに移り住むことにしていた。
「失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか?」
佳代子さんは訝しげに尋ねた。
「ほら、小さい頃、よく家に遊びに来て、一緒に遊んだ従弟の武夫だよ。覚えてる?」
「…えっ!」
佳代子さんは絶句し、頭が混乱した。なぜなら、武夫さんは40年前に亡くなっていたからだ。
いや、正確には亡くなったと聞かされていたからだ。武夫さんと最後に会ったのは佳代子さんが20歳の時だった。
「そんな訳ないでしょ。武夫さんは40年前に亡くなっているわ」
「そうか、そうか、そんな事になっていたのか」
電話口の声の主は勝手にウンウンと納得しているようだった。
「悪い冗談ね。切るわよ」
「ちょっと待って下さい。でも僕は本当に武ちゃんなんだよ」
確かに当時は武ちゃんと呼んでいた。でもそれは名前が武夫だからで、タケがつく子供は、大抵タケちゃんと呼ばれていたに違いない。
「じゃぁ、あなた、年はおいくつかしら?」
武ちゃんは佳代子さんより5つ年下だった。
「今年で70歳になるよ、佳代ちゃんは75歳だろう…お互い年取ったな…」
(私の年齢まで知っているのね…)
佳代子さんはそれからいくつか質問した。どこに住んでいたかとか、私とは何をして遊んでいたかとか、本人しか知らないであろう質問を…
そして、すべての質問の答えは正しかった。
「本当に武ちゃんなの?」
半信半疑は拭い去れない。でも亡くなったとは聞かされていたが、葬儀に参列したわけではない。死因も聞いていない。そこがあやふやだ。
「本当だよ」
「だったら、何で40年も経った今頃、連絡してきたの?もしここに住んでいなかったら、連絡つかなかったわよ」
「そしたらそれは仕方ないさ。実は最近、近所に越して来たんだ。それで妙に懐かしくなって連絡したんだ。佳代ちゃん、旦那さんは?」
「私は生涯独身…」
あまりに自然な流れで簡単に答えてしまった。マズかったかな?と一瞬思った。
「そうなのか。俺と同じだ。久しぶりに会いたいな。行ってもいいかい?」
佳代子さんは躊躇した。いかにも信じ難い話に困惑している。
(家には私しかいないわ。もし、強盗だったら…)
そんな考えが頭をよぎる半面、
(この人は本当に武夫さんなのかしら…でもそんな事って…?)
気になり出したら、どうしても確かめてみたくなる…
「この家はわかるわよね。この辺りの景色は昔と殆ど変わってないわ」
「大丈夫、行けると思う…シラサギ公園の近くだよね」
佳代子さんは思い切って、武夫と名乗るその人物と会ってみることにした。
プロローグ 完
「はい、守屋でございます」
最近は携帯電話が主流で固定電話にかかってくるのは珍しくなった。電話に出たのは今年で75歳になる守屋佳代子さんだ。
「もしかして、佳代ちゃん?」
電話口は男性の声で、妙に慣れ慣れしかった。
(佳代ちゃん???誰かしら…声の感じからして、私と同い年くらいみたいだけど…今、私の事を佳代ちゃんなんて呼ぶ人はいないわ)
佳代子さんに兄弟姉妹はいなく、生涯独身でいる。今住んでいる家は、佳代子さんが20歳の時に両親が建てた家だ。築55年で、あちこちにガタがきている。両親はすでに他界している。だから今月末でこの家を処分して、隣町のちいさなマンションに移り住むことにしていた。
「失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか?」
佳代子さんは訝しげに尋ねた。
「ほら、小さい頃、よく家に遊びに来て、一緒に遊んだ従弟の武夫だよ。覚えてる?」
「…えっ!」
佳代子さんは絶句し、頭が混乱した。なぜなら、武夫さんは40年前に亡くなっていたからだ。
いや、正確には亡くなったと聞かされていたからだ。武夫さんと最後に会ったのは佳代子さんが20歳の時だった。
「そんな訳ないでしょ。武夫さんは40年前に亡くなっているわ」
「そうか、そうか、そんな事になっていたのか」
電話口の声の主は勝手にウンウンと納得しているようだった。
「悪い冗談ね。切るわよ」
「ちょっと待って下さい。でも僕は本当に武ちゃんなんだよ」
確かに当時は武ちゃんと呼んでいた。でもそれは名前が武夫だからで、タケがつく子供は、大抵タケちゃんと呼ばれていたに違いない。
「じゃぁ、あなた、年はおいくつかしら?」
武ちゃんは佳代子さんより5つ年下だった。
「今年で70歳になるよ、佳代ちゃんは75歳だろう…お互い年取ったな…」
(私の年齢まで知っているのね…)
佳代子さんはそれからいくつか質問した。どこに住んでいたかとか、私とは何をして遊んでいたかとか、本人しか知らないであろう質問を…
そして、すべての質問の答えは正しかった。
「本当に武ちゃんなの?」
半信半疑は拭い去れない。でも亡くなったとは聞かされていたが、葬儀に参列したわけではない。死因も聞いていない。そこがあやふやだ。
「本当だよ」
「だったら、何で40年も経った今頃、連絡してきたの?もしここに住んでいなかったら、連絡つかなかったわよ」
「そしたらそれは仕方ないさ。実は最近、近所に越して来たんだ。それで妙に懐かしくなって連絡したんだ。佳代ちゃん、旦那さんは?」
「私は生涯独身…」
あまりに自然な流れで簡単に答えてしまった。マズかったかな?と一瞬思った。
「そうなのか。俺と同じだ。久しぶりに会いたいな。行ってもいいかい?」
佳代子さんは躊躇した。いかにも信じ難い話に困惑している。
(家には私しかいないわ。もし、強盗だったら…)
そんな考えが頭をよぎる半面、
(この人は本当に武夫さんなのかしら…でもそんな事って…?)
気になり出したら、どうしても確かめてみたくなる…
「この家はわかるわよね。この辺りの景色は昔と殆ど変わってないわ」
「大丈夫、行けると思う…シラサギ公園の近くだよね」
佳代子さんは思い切って、武夫と名乗るその人物と会ってみることにした。
プロローグ 完
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