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落語家と出会う
死神さん、落語家になる?
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人間界に降りた僕はとりあえず、東京日本橋の橋の欄干に、川を背にした状態で腰かけていた。こうして2時間くらいは経過しただろうか。
幸か不幸か、僕に気を付いた人間はまだいないようだ。大きな鎌を持った子供が橋の欄干に座っていたら間違いなく声を掛けられるはずだ。多くの人が行き交う中、誰ひとりとして僕に目を止める人はいない。
暫くこの状態が続き、僕は今度は川側へ向いて腰を掛け直した。最近は都内の川もきれいになりつつあるようだ。
ボッと川を眺めていたら、突然、女性の声が後ろから聞こえた。
「もしかして、あんた死神さん???」
「えっ?」
僕は慌てて振り返った。立っていたのは和服を着た20代くらいの女性だった。
「あんた死神さんでしょ?そんな大きな鎌持った子供なんていないし…なんでこんな所に座ってるの?自殺でもするつもり?あっそうか、死神さんはもう死んでるんだっけ。ハハハ…」
彼女は僕を見ても怖がる気配はまるでなかった。それどころか、喜んでいる風にも見える。
「僕のこと見えるの?」
「私結構霊感強いんだ。でも死神さん見たの初めて…かな…本当に鎌持ってるんだね」
「え、ああ~」
僕は彼女の馴れ馴れしさに圧倒された。
「ねぇねぇ、その大きな鎌、本当に切れるの?」
「えっ、いや…これは儀式で持ってるだけだから本当に切れるわけじゃないんだ」
「そうだよね~そんな大きな鎌が本物だったら危ないよね。見送る人も一緒に送っちゃったりして…なんか中国武術の武器みたいだし…ブンブン振り回して…」
彼女は右手を上に上げるとグルグルと回した。行き交う人からは和服を着た彼女が一人で腕をグルグル回している。どう映っているのだろか…
そして一人でウンウンと頷いて勝手に納得したようだ。
「ねえねえお姉さん、僕のこと怖くないの?」
「全然」
彼女は首を横に振ると、
「あたし落語家なんだ。こう見えても、結構人気あるんだよ。落語に死神を扱った噺があって、その噺を演じる時、死神さんのこと少しは勉強したんだ。だから全然怖くないよ。それより君若い感じだけど、年はいくつなの?」
「年?」
僕たちにそういう概念はない。
「年はわからないけど、この仕事を初めて180年くらいかな~?」
「へぇ~ 死神さんはみかけによらないんだね~ 結構なジジイなんだ」
彼女は又、楽しいそうに僕をマジマジと見た。
「ううん、若い方なんだ。みんな、300年くらいはやってるから…」
「そっか…みんな死なないもんね。で、ここで何してんの?死にそうな人、早く探さないとダメじゃん…」
僕は彼女にここにいる理由を話してみることにした。
「なるほど、そうなんだ~ 確かに死神さんを怖がる人は多いかもね」
又、彼女は一人でウンウンと頷き納得した。
「だったら、あたしの弟子になりなよ。それがいいよ。落語教えてあげるからサァ。死神の弟子がいるなんてちょっとかっこいいじゃん」
「いやいや、僕は別に落語家になるわけじゃ…」
僕がそこまで言いかけると、
「あたしの師匠のところ行こう。紹介するから…」
「たぶん、僕見えないよ…」
「大丈夫。師匠も霊感強いから。この間も、妖精が居酒屋で焼き鳥食ってるの見たって言ってたけど、あれは絶対作り話だと思うんだ。焼き鳥なんか食べるわけないよ。食べてもせいぜい生キャベツだよ。師匠はすぐに話を盛る癖があるんだよね」
彼女は笑いながら言った。
「ホラ、行くよ」
こうして僕は彼女の師匠の元へ行くことになった。
落語家と出会う 完
幸か不幸か、僕に気を付いた人間はまだいないようだ。大きな鎌を持った子供が橋の欄干に座っていたら間違いなく声を掛けられるはずだ。多くの人が行き交う中、誰ひとりとして僕に目を止める人はいない。
暫くこの状態が続き、僕は今度は川側へ向いて腰を掛け直した。最近は都内の川もきれいになりつつあるようだ。
ボッと川を眺めていたら、突然、女性の声が後ろから聞こえた。
「もしかして、あんた死神さん???」
「えっ?」
僕は慌てて振り返った。立っていたのは和服を着た20代くらいの女性だった。
「あんた死神さんでしょ?そんな大きな鎌持った子供なんていないし…なんでこんな所に座ってるの?自殺でもするつもり?あっそうか、死神さんはもう死んでるんだっけ。ハハハ…」
彼女は僕を見ても怖がる気配はまるでなかった。それどころか、喜んでいる風にも見える。
「僕のこと見えるの?」
「私結構霊感強いんだ。でも死神さん見たの初めて…かな…本当に鎌持ってるんだね」
「え、ああ~」
僕は彼女の馴れ馴れしさに圧倒された。
「ねぇねぇ、その大きな鎌、本当に切れるの?」
「えっ、いや…これは儀式で持ってるだけだから本当に切れるわけじゃないんだ」
「そうだよね~そんな大きな鎌が本物だったら危ないよね。見送る人も一緒に送っちゃったりして…なんか中国武術の武器みたいだし…ブンブン振り回して…」
彼女は右手を上に上げるとグルグルと回した。行き交う人からは和服を着た彼女が一人で腕をグルグル回している。どう映っているのだろか…
そして一人でウンウンと頷いて勝手に納得したようだ。
「ねえねえお姉さん、僕のこと怖くないの?」
「全然」
彼女は首を横に振ると、
「あたし落語家なんだ。こう見えても、結構人気あるんだよ。落語に死神を扱った噺があって、その噺を演じる時、死神さんのこと少しは勉強したんだ。だから全然怖くないよ。それより君若い感じだけど、年はいくつなの?」
「年?」
僕たちにそういう概念はない。
「年はわからないけど、この仕事を初めて180年くらいかな~?」
「へぇ~ 死神さんはみかけによらないんだね~ 結構なジジイなんだ」
彼女は又、楽しいそうに僕をマジマジと見た。
「ううん、若い方なんだ。みんな、300年くらいはやってるから…」
「そっか…みんな死なないもんね。で、ここで何してんの?死にそうな人、早く探さないとダメじゃん…」
僕は彼女にここにいる理由を話してみることにした。
「なるほど、そうなんだ~ 確かに死神さんを怖がる人は多いかもね」
又、彼女は一人でウンウンと頷き納得した。
「だったら、あたしの弟子になりなよ。それがいいよ。落語教えてあげるからサァ。死神の弟子がいるなんてちょっとかっこいいじゃん」
「いやいや、僕は別に落語家になるわけじゃ…」
僕がそこまで言いかけると、
「あたしの師匠のところ行こう。紹介するから…」
「たぶん、僕見えないよ…」
「大丈夫。師匠も霊感強いから。この間も、妖精が居酒屋で焼き鳥食ってるの見たって言ってたけど、あれは絶対作り話だと思うんだ。焼き鳥なんか食べるわけないよ。食べてもせいぜい生キャベツだよ。師匠はすぐに話を盛る癖があるんだよね」
彼女は笑いながら言った。
「ホラ、行くよ」
こうして僕は彼女の師匠の元へ行くことになった。
落語家と出会う 完
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