死神さん、落語家になる?

ゆきもと けい

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プロローグ

死神さん、落語家になる?

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 今まさに一人の命の灯が消えようとしていた。
 まだ50代の男性で働き盛りだが、膵臓にガンが見つかった時にはすでに全身に転移し、余命1年の宣告を受けた。

 病室では妻と小学生の2人の子供が見守っている。その子供の一人が、母親を見上げるようにしながら言った。

「あのね、死神が来ると人は死ぬんだって誰かが言ってたよ。だから死神が来ないようにお祈りしようよ」

 子供は無心に手を合わせた。


 僕は死神だ。と言ってもまだ新人である。ある日、死神の偉い人から僕は呼ばれた。どこの世界でも同じで、偉い人から呼ばれると緊張する。

「人間は死神の存在を怖いと思っているようだ。大きな鎌を持っているせいかも知れないが、その鎌は亡くなった方の魂が現世で彷徨わないように刈取り、霊界へ導く、いわゆる神の使いなのだ。それなのに人間ときたら全く…」

 偉い死神は首を垂れて左右に振った。そして再び顔を上げると、

「そこでだ。君に死神は怖くない事を人間に理解してもらう為に、人間界で人を笑わせる勉強をしてきて欲しいと思っている…」

「はぁ~???何言ってるんですか?僕たちは死神ですよ?」

 僕には言ってることが理解不能だった。

(死神は神聖なる神の使い魔なのだ。人を笑わせる必要などまるでない)

「我々の存在は人間には見えないから、ある程度強い霊感を持った人間にだけ見えるようにしてやる。だから勉強して来るのだ」

 偉い死神はいたって本気のようだ。

「いやいや、余計な事しなくていいですよ。僕、見えなくていいんですから…それにですよ、笑いながら命の灯を刈取っていたら、それの方が余程怖いです。死神の僕だって一目散に逃げ出しますよ…だから止めましょうよ…勘弁してくださいよ…」

 僕は必至に訴えた。

 しかし…

「そうは言ってもなぁ~もう見えるようにしちまったんだ…」

「ええ~そんなぁ~」

 かくして僕は不本意ながら人間界へ降りることになってしまった。


プロローグ 完
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