死なない死刑囚の恐怖

ゆきもと けい

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30章 エピローグ(その意思を継ぐ者)

死なない死刑囚の恐怖

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 2人は8時少し前に大学に到着した。守衛室から高木の研究室へ連絡を入れてもらう。毎回のことだが、それもおそらく今日で最後だろう…と2人は思っている。

 寒い中、少し待っていると、高木が現れた。いつものようにヨレた白衣を着て、その上から厚手の紺のジャンパーを羽織っている。

 高木は福崎に軽く会釈すると、自分の研究室へ案内する。
 いつもながら夜の大学は寂しい。
 2人と高木は向かい合うように座る。

「ニュースで福崎さんのことを知って、びっくりしました。でもお元気になられて本当に良かったです」

 高木は安堵した表情をみせる。

「お心遣い、ありがとうございます。お陰様で体調も戻り、事態は終息したように思います。それでこれをお返しにあがりました」

 そう言うと、福崎はカバンから厚めの鉄ケースに入った磁石をテーブルの上に置いた。

 高木からは作業が終わったら、磁石は熱で加熱して処分して下さい、と言われていた。それは強力な磁力を消す為だ。もし保管するのであれば、必ず、厚めの鉄ケースの中で保存して下さい、とも言われた。

 だから福崎はこのような状態で持参したのだ。

「わざわざ返却にいらっしゃらなくても良かったのですが…」

 高木は少し恐縮したように言った。

「いえいえ、お礼方々です」

「そうですか」

 高木はそう言うとケースを受け取り、一旦立ち上がり、自分の机の方へ持って行った。

 再び戻って来た高木に熊野が言う。

「とにかくお前のお陰で助かったよ」

「感謝しろよ」

 高木はニコニコしながら返事を返す。今まで、あまり高木の笑った顔を見たことがなかったので、そのあどけない表情にちょっと驚いた。

「佐伯死刑囚は死んだ。ただ、アバターがどこに消えたのかだけがわからないんだ。恐らくどこかで死んでいると思うんだが…」

 熊野が言い、福崎が頷く。

「さすがに、それは俺にもわからんな」

 高木も苦笑するように言う。

「まぁ、そりゃそうだ…」

「でも、とにかく、事態が終息したのであればそれが一番だろう…」

「もちろんそうさ」

「だったら、もうこの件は終わりにした方がいいな」

「ああ」

 暫くして2人は大学を後にした。


 高木は2人を正門まで送ると、研究室棟の薄暗い地地下室へ降りて行った。ここは高木が研究用に借りている高木専用の冷凍室だ。4畳ほどの冷凍室。遺伝子の保冷等に使っている。冷凍マグロなら10年以上保管しても味を損なうことのないくらい優秀な冷凍室だ。
 高木は防寒着を着て中に入る。
その一角に高さ1m、縦横もほぼそれくらいの金属製のスクエアのテーブルに、それよりも少し小さい金属の箱が置かれている。ケースの蓋をずらすと、その中には遺体らしき物体が入っている。

 例のアバターだ。

 なぜここにアバターの遺体があるのか…

 福崎に撃たれた後、アバターはここに現れた。
 腹部を撃たれ、瀕死の状態だった。
 最後に高木をターゲットにしたかったのかもしれない。

 大晦日にもかかわらず、ここに残っていたのは実に幸運だった。
 高木の前に現れたアバターだが、高木がその姿に驚いている間もなく、倒れ動かなくなった。さらに少し時間が経過すると、その身体は徐々に縮みはじめ、今の大きさにまで縮んだ。遺伝子の異常だろうか…全く不思議な現象で、通常の人間ではあり得ないことだ。

 高木は学者として深い興味を抱いた。

 大晦日の誰もいない大学…こっそりと遺体を冷凍室に運んだ。今後の研究材料として…

(確かこの研究はS国で極秘に進められていた秘密事案だったよな。
10年前の研究では不完全体しか作れなかった…

今もこの研究がなされているのだろうか…
成功しているのだろうか…
わからない…

だが、S国に行ってみる価値はある。観光での入国は難しい国だが、遺伝子の研究者となれば、入国も容易に違いない…
そして、まだ成功していなのであれば、俺がその先駆者になる…
あんな不完全体では駄目だ。
完全体を生み出すのだ。

こんな素晴らしい研究を頓挫させてしまってはいけない…
俺は暗黒の科学者になるのだ…

誰も成し得ない、完全体のアバターの創造者…神…)

「ハ・ハ・ハ・・・」

 高木は縮んだアバターの遺体を見ながら高笑いをした。その不気味な笑い声が冷凍室内で反響する。
 そして防寒具を脱ぐと、冷凍室の扉を閉め、鼻歌交じりに研究室へ戻って行くのであった。


  30章 エピローグ(その意思を継ぐ者) 完

 読んで頂いてありがとうございました。

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