死なない死刑囚の恐怖

ゆきもと けい

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28章 終息か…

死なない死刑囚の恐怖

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 事件の一報はすぐに緊急速報で大々的にテレビで放送された。
 拘置所内をテレビの撮影隊が外から撮影している。
 各社の大晦日の特番はすべて事件報道一色に変わった。
 詳細はわからないまでも少なくとも3人が刺されたと…
 しかし、3人の氏名はまだ明らかになっていない。

 そのニュースを熊野は自宅で見ていた。

「これは大変なことになった!」

 すぐに事態を理解した熊野は、一人、部屋で叫んだ。そして携帯を取り上げると、急いで福崎へ電話をかける。
 何度かけ直しても呼び出し音が鳴るだけだ。

(バタバタしていて、電話に出られないだけならよいが…)

 熊野はすぐにでも拘置所に向かいたい気持ちだが、行ったところで、何ができるわけでもない。管轄外だから、中に入ることも情報を得ることもできないだろう。
 今はニュースで情報を得るしかない。
 刺された3人…誰なら刺されてもいいという訳でないが、せめて福崎さんが無事である事を祈りたい…

 ニュースは各社、一晩中続く。

 明け方近くに3人の氏名がやっと明らかになった。
 その中に福崎の名前がある。

(ちくしょう…やっぱりか…)

 熊野は打ちひしがれる思いだった。あんなことを頼んだ自分を責めそうになる。

 ただ…

 若い刑務官2人はすでに死亡が確認済みで、福崎刑務官は病院に運ばれ、重体との事だ。

(頼む…なんとか助かって欲しい…)

 熊野はテーブルに両手を組み、それを額に当て、そう願うのが精一杯だった。

 数日間はこの奇怪な事件の報道がなされた。と同時に延期になった正月特番も放送され、なんとも奇妙なテレビ番組構成になっている。

 だが、いったい誰が犯人で、どこから入ってきたのか、どこへ行ったのか?全く不明のままだと報道されている。

 今、治療を受けている刑務官が回復すれば、何か情報が得られるかもしれないと、コメンテーターが無責任に語っている。

 ただそれ以外、福崎のことは一切報道されない。

(もし、福崎さんに何かがあれば、絶対に報道されるはずだ…)

 熊野には妙な確信があった。

(何も報道されないということは膠着状態なのだろう…)


 1週間が過ぎた。
 熊野の予想通りニュースで重体中だった福崎刑務官が一命を取り留めた、との報道がなされた。
 熊野は安堵した。


 それから10日ほどが過ぎたある日、署内にいる熊野の携帯が鳴った。
 着信をみると福崎からだった。
 熊野はすぐに電話に出た。

「福崎さん、心配してました。大丈夫ですか?どこの病院に入院しているのですか?今からお見舞いに行きますから…」

 熊野は堰を切るように矢継ぎ早に質問し始めた。

「ご心配をおかけしました…でも…もう大丈夫ですよ。退院まではまだ10日ほどかかるみたいですが…」

 福崎の声は予想外に明るく張りのある声だった。

「どちらの病院ですか?これから伺います」

「まぁまぁ、落ち着いて下さい。もう大丈夫なんですから…」

 その声に熊野は泣きそうになった。

「本当に助かってよかったです…」

 福崎さんの電話の話からすると、自分が助かったには、本当に幸運だったらしい。

 まず、福崎の発見が早かったこと…
 それは別の刑務官が福崎のことが心配になり、数分後に様子を見に来てくれたことで、刺されてすぐの福崎を発見したからだ。

 さらに、宿舎で刺された刑務官の為に要請した救急車だったが、すでに刑務官2人は死亡していることが窺えたので、まだ息があり、助かる可能性のある福崎が先に運ばれたこと…

 ERの担当医の話だと、あと15分も処置が遅かったら、助からなかったかもしれないと言われたらしい。
 
「どうやら悪運だけはアバターより強いらしい…」

 福崎は楽しそうに電話口で言った。

 福崎さんの話だと、佐伯死刑囚は事件の5日後に本当に死んだらしい。もちろん、公にできる話ではない。
 そして、アバターは被弾しているので、恐らくどこかで死んでいるのではないかとの福崎さんの推理だ。

 一昨日、警察が当時の状況を訊きにきたらしいが、まさか本当のことは言えないので、犯人の顔は見ておらず、気がついたらすでに刺されていたと、誤魔化したらしい…

 あの事件以来、特に気になるニュースも流れてこない。ただこれで事件は本当に解決したのだろうか…


  28章 終息か… 完 続く


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