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27章 最後の戦い

死なない死刑囚の恐怖

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 紅白歌合戦も佳境に入り、年明けも近づいてきた時だった。

 宿舎から拘置所内の刑務室に緊急連絡が入った。
 若い刑務官が廊下で、何者かに背中から刺されて倒れた…と…
 かなりの出血があり、救急車を要請したと…

  さらに間髪を入れず…

 もう一人刺されていると、又、連絡が入る…
 こちらは首を切られていると…

 でも犯人はわからないとも…

 刑務室に緊張が走る中、10名ほどの刑務官がすぐに宿舎の方へ向かった。
 急に慌ただしくなる。

 急いで房を見に行く刑務官もいる。福崎は、嫌な予感を感じた。

(ヤツか…
ヤツがやって来たのか…
なりふり構わずか…
もしヤツなら、警棒では太刀打ちできまい)

「保管室へ拳銃を取りに行ってくる!」

 福崎は意を決したように、非常事態に備え、待機している刑務官たちに向かって言った。全員が福崎へ目をやる。

「私も行きます!」

 そう言って、同行しようとする刑務官もいたが、

「いや、みんなはここで待機していてくれ!」

 壁に備え付けの、鍵のかかった扉を開けると、拳銃が保管されている地下の部屋の鍵をとり、急いで拳銃を取りに向かった。

 意外かもしれないが、拘置所内にも拳銃は用意されている。刑務官は通常は警棒を所持し、事の対処にあたる。場合によっては催涙スプレーなどを使うことも想定されている。
だが、拳銃となれば話は別である。

 刑務官も最初の研修で銃の扱い方は習う。しかし、その時だけで実際に銃を使うことはない。警察官みたいに、常時所持しているわけではないし、扱いの練習もしない。だから、銃が置かれているだけで、扱いは素人と同じだ。
 それでも福崎は拳銃を取りに行った。

【福崎はなぜ一人で取りに行ったのか…】

 定年間近の福崎だが、懸命に走った。
 随分と長い時間走ったような気がする。

(ヤツの狙いは私か…
ヤツが宿舎で騒ぎを起こしたのは、刑務官を分散させて私を殺るつもりか…
それもよかろう…なら、みんなとは離れた場所の方が好都合だ…
銃の保管室ならなおさらだ…
きっとヤツは現れる…
そこでケリをつけよう…)

 しかし、福崎はアバターを実際に見たことがあるわけではない。
 どんな姿なのかもわからない。

 地下に降りると、鉄扉を開け、6畳ほどの狭い部屋の隅の小さいロッカー内にそれは保管されていた。
【S&W Jフレーム リボルバー】・・・それがここで管理されている拳銃の種類だ。右手に拳銃を持ちシリンダーを出す。装填はムーンクリック式ではないので、別に保管されているケースの銃弾を左手で5発取り出し、弾を込める。上手く充填しないと入らない。なんとか収め、福崎は振り返る。

 いつ現れたのか、ドアを背にヤツらしき人物が立っていた。
 思った通り、ヤツは現れたのだ。

 佐伯死刑囚に似ているが、別人と言われれば、そうともとれる。

 抜けかけた髪、アンバランスな体形…だらりと下がった右手には刃渡り30Cmはあろうかという小刀らしき凶器を持っている。薄い紺色のポロシャツの所々に黒く染みが付いている。

 返り血だろうか…

 左手は…
 左手に目を落とすと、

(まるで両生類のような手だ…
これが人間の手のか…姿なのか…)

 無表情で立っている。呼吸一つも乱れていない…

(不気味だ…恐ろしい…)

 初めて見るアバターに恐怖を覚える。だがドアを塞がれている以上、逃げ場はない。

「動くな! 撃つぞ!」

 福崎はそう叫ぶと拳銃を構えた。アバターとの距離は3~4mほどだ。撃てば当たる距離だ。銃のハンマーに指をかけるが、ハンマーが引けない。

(なぜだ…)

 焦る気持ちの中、思い出した。ハンマーとトリガーは安全の為、連動しているのだ。
 その確認の為、一瞬、アバターから視線を外した。

 音もなく、近づく気配もなく、刺された…

 胸辺りから生暖かい液体が流れ出るのを感じる。
 だが、とにかく1発は撃った。殆ど接触している状態だったので、間違いなく命中しているはずだ。どこに当たったかはわからないが…
 アバターのブヨブヨとした感触が残る…

 福崎は静かに倒れていく…

 アバターは撃たれたにもかかわらず、無表情のまま倒れいく福崎を見届け、静かに姿を消した…


  27章 最後の戦い 完 続く
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