死なない死刑囚の恐怖

ゆきもと けい

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24章 決断の時

死なない死刑囚の恐怖

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 3人は最初の椅子に戻った。
 高木は2人の方を見ながら、少しヨレた白衣の両手をテーブルの上に置き、落ち着いた口調で切り出した。

「あの物質が機能しなくなれば、おそらくこの騒動は解決すると思います。で、その方法ですが2つあります」

 2人は真剣に固唾を飲んで聞いている。

「恐らくは精密機器なので、磁場や磁力の影響を非常にうけると思われます。心臓のペースメーカーの超小型版だと思ってもらえばいいと思います。ペースメーカに磁石を近づけると、誤作動や作動しなくなる場合があります。それと同じことをすればいいのです」

 2人は黙って頷く。そして同時に冷めてしまったコーヒーを口に運んだ。

「1つは、MRIのような強い磁石と電磁波の中を通過させれば恐らく一瞬にして破壊できると思います」

「それは無理です。以前にも申し上げましたが、拘置所から連れ出すのは不可能です」

 福崎がやや俯き首を横に振る。

「それは以前にもお伺いしております。もう1つの方法です。ネオジム磁石という磁石があります。最強の磁石です。携帯電話にも使われています。ただし、一般の人が手に入れるにはいろいろと規制がかかっています。
それを彼の身体にいくつもつけるのです。直接付けるので、1つの大きさは小さくて問題ありません。ちょっと見ただけではわからないくらいの大きさで十分だと思います」

「しかし、刑務医が今は6時間おきに様子を見にきます。さすがに付けっぱなしは無理です」

「どれくらいの時間なら可能ですか?」

「せいぜい4時間程度かと…」

「十分でしょう。ただ問題はアバターを生み出せなくするにはいくつ壊せばいいかがわかりません」

 2人は又、黙って頷く。

「これは僕の推測ですが、少なくとも生命維持に必要な脳や心臓・肺あたりの物質を破壊し、増幅を無くせば、新たに存在することは不可能ではないかと考えます」

「なるほど、その役目を私がやればいいのですね」

 福崎刑務官が納得したように言った。

「まぁ、そうなんですが…」

 高木はなんとも歯切れの悪い言い方をした。高木はテーブルの上の掌の指を組み合わせるようにした。

「他に何か…」

「もし、今アバターが分離していたとします。体内の物質を壊したところで、今存在しているアバターが突然に消えるわけではありません。
最大で2か月くらいは存在し続ける可能性があるわけです。再び復活できないことに気づいた場合、アバターがどういう行動にでるかです…
 自分の存在が消えていくのをただ黙ってみているでしょうか?
少なくとも、福崎さんの命が危険にさらされることになります…
最も、それに気づかないまま無事に終わることも十分に考えられますが…」

 2人は『確かにそうだ』と言わんばかりに顔を見合わせる。

 そして、

「しかし、他に方法がなければ仕方ないことです。犠牲者をこれ以上出さないためにも…」

 福崎が高木の方へ向き直り、力強く言う。

「その通りです」

 高木は椅子から立ち上がると、一旦、奥の別室に入り、すぐに戻ってきた。手には小さい金属の小箱を持っている。大きさはA5版ほどで厚みは5Cm程度だ。

「だいたいの想像はついておりましたので、事前に用意はしておりました」

 高木はそういうと、立ったまま小箱をテーブルの上に置き、箱の留め具をパチンと外して開けた。箱を2人の方へ向ける。中には小さい錠剤の薬と同じくらいの大きさの磁石がアルミに封印された状態で30個ほど入っている。

「1つずつアルミで包装された状態で入っています。開封すると四角い絆創膏のようになっていますので、それをできれば対象者の正面と背後、だいたい同じ位置につけて欲しいのです。頭部については髪の毛がありますので額に2つと両耳の後ろに1つずつ付けてください。
心臓辺りはこんな感じで…」

高木は横を向くと右手で心臓辺りを、左手はそのほぼ真裏の背中辺りを押さえた。

「わかりました。やってみます」

 そういうと、福崎は箱の蓋を閉め、カバンに閉まった。

「しかし、それでは福崎さんのリスクが高すぎる。高木、他に方法はないのか?」

 熊野が正面に向き直った高木を見上げるようにして言った。

「俺だって考えたさ。考えた結果がこれなんだ。わかってくれよ」

「体内物質が壊れた時、本人にその自覚はあると思うか?」

 もし本人にその自覚がなければ、先の高木の話通り、なに事もなく済むかもしれないと思ったからだ。

「わからん。結果は待ってみるしかない」

 高木は首を横に振り、困惑顔でそう言った。

 物音一つしない短い時間が流れた・・・


  24章 決断の時 完 続く
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