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20章 不完全な不完全体
死なない死刑囚の恐怖
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拘置所内、佐伯死刑囚の部屋。
アバターは再度、分離を試みる。分離し、佐伯死刑囚の横に立つ。部屋内に監視カメラが設置されていないことは確認済みだ。
(なぜうまくいかなんだ…)
部屋に鏡はない。だが、身体のアンバランスさは感じる。
何度試みても以前のような不完全な完全体に戻らない。
① 左右の目の視力が極端に違う…
② 左指の関節が一つしかなく、両生類のような手になっている…
③ 右肩と左肩の高さが違う…
④ 髪の毛がきちんと生え揃っていない…
(どういうことだ…?)
佐伯死刑囚を上から覗く…
佐伯死刑囚は後ろ手に縛られ、仰向けに置かれている。
(確信はないが、恐らく落下した振動で、体内に埋め込まれている物質に損傷が生じ、今までのような再現ができないのだろう…)
(自分で直せないのか…)
(それは無理だ…俺だって何が埋め込まれているのかよく知らないんだ…第一、あの学者やろう、こんな物質を埋め込むなんて言っていなかったし…単なる実験としか言ってなかった…ベッドに寝かされ数回に渡り、わからん物質をこっそり埋め込みやがった…割の良い高額バイトでしかも何度も海外に行けると思って応募したんだ…そしたらこの有様だ…)
(途中で気づかねえのか…)
(非常に小さな傷で、しかも目立たない場所だったから、ちょっと傷があっても、そんな傷だとは思わんかった…)
(お前が悪いんだろう…)
(……)
(まぁいい…なら、このままでいくしかない…幸い、脳と運動機能には影響がないようだからな…)
(頼むぞ…早く復活したいからな…)
(わかってる…一層のこと、ここの看守たちを無差別に狩るか…そしたら、お前も一気に復活できるぞ…)
アバターが自慢げに脳内から言う。
(馬鹿言ってんじゃねぇ…それじゃ、単なる殺人鬼じゃねえか…)
(何をすかしてんだよ…やってることは同じだろうが…)
アバターはウンザリ顔になる。
一呼吸置き、
(ああそうだ、あの夜、学者やろうを殺ったのはお前か…)
佐伯は思い出したようにアバターに訊いた。
(ん?お前が死にそうになって、例の病気でうなされていた時の話か…)
(ああ…)
佐伯はコイツが殺ったのではないかと思っている。だから凶器に俺の指紋が残っていたと…
だが、返ってきた答えは意外だった。
(いや…俺じゃねえ…俺が窓から覗いた時はすでに死んでいた…俺は室内に入り、刺さっている刃物を抜こうとしたが止めた…意味がないからな…)
(なるほど…それで俺の指紋が凶器に残っていたわけか…)
佐伯死刑囚は自分の指紋が残っていた件は納得した。
しかし佐伯死刑囚は続けた。
(だが、なんでお前は学者やろうの家へ行ったんだ…殺しに行ったんじゃないのか?)
(ああ、場合によってはな…)
アバターは佐伯死刑囚を見下ろし、いや、見くだしながら平然と嘘を言った。
アバターが学者を訪ねたのは、佐伯の身体を乗っ取る罠を仕掛けた理由を知りたかったからだ。アバターは会話ができない。だが、自分を生み出した本人なら、意思疎通はできるだろうと思っていたからだ。そしてそれにどんな意味があるのか…俺に何を託しているのか…
だが、それはもうできない。
(そうか…まぁ、同じ結果になったわけだ…)
(次に誰を狩る…)
(本当なら、学者やろうを殺したヤツをターゲットにしたいところだが…)
(それは無理だ…お前の記憶にないヤツを俺は狩ることはできない…)
(わかっている…)
少し間を置いた後、
(なら……)
佐伯死刑囚は話を続けた。アバターがいくつか確認する。
(そろそろ刑務医がやってくる時間だ…)
アバターは頷くと、再び姿を消した。
新しいターゲートを狩る為に…
20章 不完全な不完全体 完 続く
アバターは再度、分離を試みる。分離し、佐伯死刑囚の横に立つ。部屋内に監視カメラが設置されていないことは確認済みだ。
(なぜうまくいかなんだ…)
部屋に鏡はない。だが、身体のアンバランスさは感じる。
何度試みても以前のような不完全な完全体に戻らない。
① 左右の目の視力が極端に違う…
② 左指の関節が一つしかなく、両生類のような手になっている…
③ 右肩と左肩の高さが違う…
④ 髪の毛がきちんと生え揃っていない…
(どういうことだ…?)
佐伯死刑囚を上から覗く…
佐伯死刑囚は後ろ手に縛られ、仰向けに置かれている。
(確信はないが、恐らく落下した振動で、体内に埋め込まれている物質に損傷が生じ、今までのような再現ができないのだろう…)
(自分で直せないのか…)
(それは無理だ…俺だって何が埋め込まれているのかよく知らないんだ…第一、あの学者やろう、こんな物質を埋め込むなんて言っていなかったし…単なる実験としか言ってなかった…ベッドに寝かされ数回に渡り、わからん物質をこっそり埋め込みやがった…割の良い高額バイトでしかも何度も海外に行けると思って応募したんだ…そしたらこの有様だ…)
(途中で気づかねえのか…)
(非常に小さな傷で、しかも目立たない場所だったから、ちょっと傷があっても、そんな傷だとは思わんかった…)
(お前が悪いんだろう…)
(……)
(まぁいい…なら、このままでいくしかない…幸い、脳と運動機能には影響がないようだからな…)
(頼むぞ…早く復活したいからな…)
(わかってる…一層のこと、ここの看守たちを無差別に狩るか…そしたら、お前も一気に復活できるぞ…)
アバターが自慢げに脳内から言う。
(馬鹿言ってんじゃねぇ…それじゃ、単なる殺人鬼じゃねえか…)
(何をすかしてんだよ…やってることは同じだろうが…)
アバターはウンザリ顔になる。
一呼吸置き、
(ああそうだ、あの夜、学者やろうを殺ったのはお前か…)
佐伯は思い出したようにアバターに訊いた。
(ん?お前が死にそうになって、例の病気でうなされていた時の話か…)
(ああ…)
佐伯はコイツが殺ったのではないかと思っている。だから凶器に俺の指紋が残っていたと…
だが、返ってきた答えは意外だった。
(いや…俺じゃねえ…俺が窓から覗いた時はすでに死んでいた…俺は室内に入り、刺さっている刃物を抜こうとしたが止めた…意味がないからな…)
(なるほど…それで俺の指紋が凶器に残っていたわけか…)
佐伯死刑囚は自分の指紋が残っていた件は納得した。
しかし佐伯死刑囚は続けた。
(だが、なんでお前は学者やろうの家へ行ったんだ…殺しに行ったんじゃないのか?)
(ああ、場合によってはな…)
アバターは佐伯死刑囚を見下ろし、いや、見くだしながら平然と嘘を言った。
アバターが学者を訪ねたのは、佐伯の身体を乗っ取る罠を仕掛けた理由を知りたかったからだ。アバターは会話ができない。だが、自分を生み出した本人なら、意思疎通はできるだろうと思っていたからだ。そしてそれにどんな意味があるのか…俺に何を託しているのか…
だが、それはもうできない。
(そうか…まぁ、同じ結果になったわけだ…)
(次に誰を狩る…)
(本当なら、学者やろうを殺したヤツをターゲットにしたいところだが…)
(それは無理だ…お前の記憶にないヤツを俺は狩ることはできない…)
(わかっている…)
少し間を置いた後、
(なら……)
佐伯死刑囚は話を続けた。アバターがいくつか確認する。
(そろそろ刑務医がやってくる時間だ…)
アバターは頷くと、再び姿を消した。
新しいターゲートを狩る為に…
20章 不完全な不完全体 完 続く
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