死なない死刑囚の恐怖

ゆきもと けい

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19章 友人の推理と決断

死なない死刑囚の恐怖

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 熊野が友人と会って1週間ほどが過ぎた。いよいよ今年も終わりに近づき、クリスマスソングが街中に流れ始めた。街の樹々もクリスマスバージョンにライトアップされている。

 先ほど、例の友人から連絡が入った。『すぐに会えないか』との連絡だったが、熊野は生憎と捜査から離れられない状況にいた。管内で放火が相次いで発生し、夜通しその捜査にあたっているからだ。
 とは言え、何らかの情報を得た様子だったので、熊野は福崎刑務官と連絡を取り、明日の夕刻に福崎刑務官に彼の大学へ赴いて頂くように依頼した。

 友人には、福崎さんは事の真相をすべて知っていることや、自分と協力し合って情報交換している旨を伝えた。

 友人は了解し、熊野はお互いの連絡先をそれぞれに教えた。

 翌日、福崎は20時少し前に大学に着いた。外から見た大学内は閑散としている。正門の守衛室前から友人に電話をかけることになっている。暫く待っているとやせ型の男性が現れた。
 寂しい廊下を通り、研究室に入った。
 多くの書物がスチール棚に置かれ、中央辺りに木の四角にテーブルが置かれている。部屋には2人以外は誰もいない。

「どうぞお座り下さい」

 友人はそう言うと、ドア側の車輪のついた椅子を少し引いた。福崎が促されるように腰を下ろす。テーブルの上にはCDが1枚置かれている。

(これが例のCDの複製か…)

 福崎がCDの方へ目をやっていると、

「こんなモノしかりませんが…」

 そう言うと、友人は紙コップのお茶を後ろから福島の横にコツンと置いた。
 そして福崎の正面に回り、

「初めまして、私、熊野の友人の高木と申します」

 友人は丁寧に頭を下げた。
 友人の名前は高木といった。

 福崎も椅子から立ち上がると、

「福崎です」

 福崎も丁寧に頭を下げる。

 そしてお互いに名刺交換をし、ゆっくりと2人は向かい合うように腰を下ろした。

「熊野さんからの話ですと、何か大切な話なのではないかと伺っておりますが…」

「ええ、まぁ… 福崎さんは熊野とは以前からのお知り合いだったのですか?」

「いいえ、この事件での初対面です」

「そうですか…」

「それが何か?」

「いえ、熊野が随分とあなたの事を信用している口ぶりだったものですから…お気を悪くなさらないで下さい」

「いえ、構いません。こんな事がなければ、熊野さんとも出会うことはなかったかも知れませんね…皮肉なものです…」

 福崎はしみじみとそう言うと、紙コップのお茶に口をつけた。

「でも、今日はあなたに会えてよかったかもしれません」

 高木は言った。

「と言いますと…」

「熊野では判断できない話かもしれませんでしたので…」

「なんでしょうか?」

「問題の死刑囚の全身のCTスキャンを撮りたいです?」

一拍間を置き、

「はぁ?おっしゃっている意味がわかりかねますが…」

 福崎は怪訝顔になった。眉間に少し皺がよる。

「どこかの施設で彼の全身のCT画像を撮りたいのです」

「それはつまり佐伯死刑囚を外部に持ち出す…いや…連れ出すということですか?」

「そうです」

 高木は真顔で頷いた。

「いや…それはさすがに無理です。できません…」

 福崎は伏目がちに首を大きく左右に振った。

「まぁ、そうなんでしょうね…」

「でもなんでそんなことが必要なんですか…?」

「以前…と言っても1週間ほど前ですが、このCDの中には、僕にも理解できない箇所があるんだという話は彼にしていたんです」

「ええ、それは熊野さんからも聞いています。そこの箇所も調べてみると…」

「ええ。その部分だけをいろいろな分野の仲間に見てもらったのです。そしたら、それはマイクロチップか電子基板の研究ではないかと言われたのです」

「マイクロチップ?電子基板ですか?」

「マイクロチップは、最近では犬などにも使われていたりしますが…」

「はぁ…」

「ただ研究の詳細は載せられていないようでしたが、たぶん、マイクロチップに何かの情報を入れ、それを増幅してアウトプットする研究ではないかと… これについては別に詳細な資料があるのではないかと言っておりました。他の資料については熊野から何か聞いていませんか?」

「いいえ… たぶん、資料はこれだけではないかと…確かこのCDは貸金庫に入っていたとか聞いていますので、他に何かあればそれも借りてきているはずです」

「これは私の推理なのですが、アバターを生み出すのと何か因果関係があるのではないかと思ってます。無から有は生まれません… 彼…佐伯死刑囚ですか…の体内にそれがいくつも埋め込まれていて、それでアバターを作り出しているのではないかと… だからそれを確かめるために佐伯死刑囚のCT画像を撮りたいのです」

「そうおっしゃられましても… この件についてはまだ所内の誰にも話をしておりませんし…」

「ならば、ハンディCTスキャナーで撮るというのはいかがでしょうか?それならば、佐伯死刑囚を動かす必要はありません」

「そんなものがあるんですか?」

「コンクリートの橋脚の内部を見たり、非破壊検査に使います。もちろん、人間に対しては使いません。人間は平面ではありませんので…ですが、何かは撮れると思います。研究者としても、興味があるところです」

 高木は頭を下げた。

「しかし、高木さんが佐伯死刑囚の房に入ることはできませんよ」

「でしょうね…」

 高木は下を向き少し考え、顔を上げると、

「だとしたら…福崎さんにお願いするしかないようですね。機械の操作方法はお教えします」

「この私が…ですか…」

 高木はこっくりと頷いた。

「私にできますか?」

「それしか方法がなけれが、やるしかないでしょうね」

 奇しくも福崎がその大役を承ることになった。

(しかし、こんなことをやっていることが所内の連中にバレたら、マズイことになるぞ…)

(できるか…)

 福崎は自問した。

(しかし、これができるのは俺しかいないんだ…やるしかない…これ以上、犠牲者を出さないためにも…)

 自答した。


  19章 友人の推理と決断 完 続く

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