死なない死刑囚の恐怖

ゆきもと けい

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18章 佐伯死刑囚とアバター

死なない死刑囚の恐怖

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(ちくしょう…どうなってるんだ、俺の身体は…)

 アバターはただれて崩れかけている右手でみぞおち辺りを押さえ、次に頭を触った。

(剣道でも習っているのか、あの女…普通の人間だったら死んでいてもおかしくないくらいだぜ。危なかった…それより、なんだこの皮膚は…どうなっちまったんだ…)

 頭が少しブヨブヨしかかっている。髪の毛も半分以上が抜け落ちている。
 これは角材で殴られたせいではない。身体の維持が難しくなっているのだ。

(俺の身体が不完全なせいなのか…時間が経つにつれ、細胞分裂の伝達が上手くいかなくなるのか…)

 少し考える…

(…だとすると、一度アイツの身体に戻り、改めて不完全な完全体として分離するしかないか…)

(一度、アイツの身体に戻るか…)

 アバターは佐伯死刑囚の体内に戻ることを決めた。


          ☆       ★   

(心臓は完全に安定した…次は骨折した頚椎を元通りに治す必要がある…だが、なかなか復活しない…ここ数日、アイツからのエネルギーが届かないせいだ…)

 佐伯死刑囚は後ろ手に手錠をかけられたまま、薄い敷物の上に寝かされている。いや…無造作に置かれているという表現の方が正解だろう…

 身体はまだ動かない…
 神経もまだ感じない…
 目もまだ開かない…
 ただ意識だけが脳の中で渦巻いている…

(時々刑務医がやってきて、俺の心音を聞きやがる。死にゃしねえよ…アイツが生きている限りはな…)

           ☆      ★ 
                   

(よう!こんな所に置かれているのか…)

 アバターは天井に張り付くようにしながら下で横たわっている佐伯死刑囚を見下ろしている。

(なんだその姿は…)

(見えるのか…)

(見えねえよ…だが俺の分身だぜ…目が見えなくても感じ取れるさ、お前の姿ぐらいは…)

(なかなか器用なヤツだな… どうやら俺の身体は不完全体のせいで、ある程度時間が経過すると、身体の維持が難しくなるらしい…だからお前にエネルギーを送れない… 一度お前の身体に戻り、改めて分離する…)

(そうか… 原因は俺の体内に埋め込まれた物質が上手く作動していないからだ。それはあの学者野郎も言っていた、『どうも上手くいかない』と… 俺をこんな中途半端な身体にしやがって…どちらにしても、エネルギーを補充しないと、復活できないんだ…頼むぞ…)

(わかってるさ…)

 アバターは脳で答えた。だが、真実のもくろみはバレてはならない。
 そう…佐伯の全てを乗っ取ることを…

(しかし、俺が復活したらお前は一旦、消えてしまうわけだ)

(まぁ、そういうことになるな…ナニ、お前のピンチの時に又、俺が現れればいいさ…)

(頼もしい限りだな…)

⦅こいつは本当にどこまでもめでたいヤツだ…フフフ…⦆

 アバターは無表情で再度の復活に挑んだ。


  18章 佐伯死刑囚とアバター 完 続く

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