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17章 アバターとの闘い
死なない死刑囚の恐怖
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沙織はうずくまっている男性に声をかけるべく近寄っていった。
「どうかされましたか?大丈夫ですか?」
後から少しかがむようにしながらやさしく声をかける。
「・・・」
「大丈夫ですか?」
もう一度声をかけ、男性の肩に手をかけようとしたが、その手を止めた。
それは言葉では言い表せない拒絶反応…
なんだかわからないが、触ってはいけない…近寄ってはいけない…そんな防衛反応だ…
こんな感じは初めての体験だ…
男は後ろ姿のまま静かに立ち上がりかけた。スーツ姿ではない。紺色のポロシャツのようだ。
沙織は1歩…いや…2,3歩…いや…もっとかもしれない…後ずさりした。
男がゆっくりと後ろ向きのまま立ち上がった。身長は170Cmくらい…やせ型…ズボンは茶のスラックスズボン…
後からだが、右手にサバイバルナイフらしきモノを持っているのが見える。
(ええ…)
沙織は恐怖を感じた。
しかし、そのナイフを握っている右手の指の皮膚が少しただれているようにも見える。
(そんなことはどうでもいい…逃げなきゃ…)
人通りはない。助けを探すのはムリだろう…
男が完全に向き返った。男の顔は3割くらいがやけどでもしたかのようなケロイド状に溶け垂れさがっている。目だけが異様な光を放っている。無表情…不気味…
右手のナイフを少し持ち上げる…やはり、皮膚がただれ、垂れかかっている。
(嘘でしょ…刺されるわ…)
沙織は恐怖で足が竦む中、背を向け、必死に走り出した。来た道を戻り、十字路を右折。あの事件のあった建築中の家の前だ。それがラッキーだった。その家の前には、【余った木材です。ご自由にお持ちください】と、何本かの角材が木枠の中に置かれている。
沙織は立ち止まり、1mちょっとの手頃な角材を手に取った。
助けは期待できない…
このまま逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう…
後から刺されたらおしまいだ…
なら… 倒すしかない…
沙織は意を決っして振り返った。相手が日本刀や拳銃を持っていたら逃げるしかないが、ナイフなら勝機はある…
(剣道2段をなめるなよ…)
沙織は角材をぐっと握る。
男はすぐに角を曲がって現れた。走ってきたはずなのに、呼吸も乱れず、無表情のままだ。顔の皮膚が揺れながら垂れ下がっている。まさにバケモノだ。
男は沙織と3mほどの距離で立ち止まった。男が、沙織が角材を持っている手に目を落とした瞬間だ。
沙織は大きく2歩踏み出し、男のみぞおち辺りを思い切り突いた。剣道の突きだ。
男は何の声も発せず、胸を押さえ俯いた。
沙織はさらに男の後頭部辺りに面を入れた。
鈍い音がした。手に硬い振動が伝わる。
男は頭を抱えてその場にうつ伏せにバタッと倒れた。
沙織は角材を建築中の家の方へ投げると、急いで男の横を通り、家の方へ向かって角を曲がった。
数秒は走っただろうか…
沙織は気付いた。
(もし、誰かがあの状況だけを見たら、私が暴漢者???)
だからといって、あそこへ戻る勇気はない。携帯を取り出すと、110番へ電話をかけ、状況を簡単に説明し、来てもらうことにした。
自分は怖いので少し離れた場所で待っています、と言った。
5分ほどして現場についた警察官から『現場に来て欲しい』と電話が入った。沙織はすぐに現場に向かった。
不安はある。もし、殺してしまっていたら取返しがつかない…例え正当防衛や過剰防衛とは言えども…
角を曲がると2人の若い警官が立っている。
「本条さんですか?」
一人の警官が尋ねる。
「えっ あっ、はっ、はい…」
「ここですか?あなたがおっしゃっていた場所は?」
警官は立っている辺りを指さした。
「ええ、えっ…」
でもそこには…
誰もいない…
誰も倒れていない…
何もなかったかのように普通のアスファルトだ…
自分が投げ捨てた角材が嘘や夢でないことを証明している。
「あなたが誰かに襲われて、ここまで逃げて、角材で対抗したんですよね」
「そうです。その角材がこれです」
沙織は転がっている角材を指さした。それから、1時間ほど事件の状況を説明した。
話の途中で、見覚えのある顔かどうか訊かれたが、あの顔ではわからない。
時折、通り過ぎる車や人が何事かとチラ見していく。
一通り話し終えると、
「マズイと思って、男は逃げたんでしょうね」
警官は簡単に結論づけてしまった。
しかし、沙織は納得がいかなかった。
(突きと面の両方を無防備の状態でくらって、すぐに起き上がって逃げられるわけがない…大けがを負ってもおかしくない状況…いや死んでもおかしくない状況なのに…でも、人が忽然と消えるわけないわ…)
後から来た鑑識課の警官が角材を持ち帰って、犯人の痕跡を調べてみることになった。
本条沙織 無事。
17章 アバターとの戦い 完 続く
「どうかされましたか?大丈夫ですか?」
後から少しかがむようにしながらやさしく声をかける。
「・・・」
「大丈夫ですか?」
もう一度声をかけ、男性の肩に手をかけようとしたが、その手を止めた。
それは言葉では言い表せない拒絶反応…
なんだかわからないが、触ってはいけない…近寄ってはいけない…そんな防衛反応だ…
こんな感じは初めての体験だ…
男は後ろ姿のまま静かに立ち上がりかけた。スーツ姿ではない。紺色のポロシャツのようだ。
沙織は1歩…いや…2,3歩…いや…もっとかもしれない…後ずさりした。
男がゆっくりと後ろ向きのまま立ち上がった。身長は170Cmくらい…やせ型…ズボンは茶のスラックスズボン…
後からだが、右手にサバイバルナイフらしきモノを持っているのが見える。
(ええ…)
沙織は恐怖を感じた。
しかし、そのナイフを握っている右手の指の皮膚が少しただれているようにも見える。
(そんなことはどうでもいい…逃げなきゃ…)
人通りはない。助けを探すのはムリだろう…
男が完全に向き返った。男の顔は3割くらいがやけどでもしたかのようなケロイド状に溶け垂れさがっている。目だけが異様な光を放っている。無表情…不気味…
右手のナイフを少し持ち上げる…やはり、皮膚がただれ、垂れかかっている。
(嘘でしょ…刺されるわ…)
沙織は恐怖で足が竦む中、背を向け、必死に走り出した。来た道を戻り、十字路を右折。あの事件のあった建築中の家の前だ。それがラッキーだった。その家の前には、【余った木材です。ご自由にお持ちください】と、何本かの角材が木枠の中に置かれている。
沙織は立ち止まり、1mちょっとの手頃な角材を手に取った。
助けは期待できない…
このまま逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう…
後から刺されたらおしまいだ…
なら… 倒すしかない…
沙織は意を決っして振り返った。相手が日本刀や拳銃を持っていたら逃げるしかないが、ナイフなら勝機はある…
(剣道2段をなめるなよ…)
沙織は角材をぐっと握る。
男はすぐに角を曲がって現れた。走ってきたはずなのに、呼吸も乱れず、無表情のままだ。顔の皮膚が揺れながら垂れ下がっている。まさにバケモノだ。
男は沙織と3mほどの距離で立ち止まった。男が、沙織が角材を持っている手に目を落とした瞬間だ。
沙織は大きく2歩踏み出し、男のみぞおち辺りを思い切り突いた。剣道の突きだ。
男は何の声も発せず、胸を押さえ俯いた。
沙織はさらに男の後頭部辺りに面を入れた。
鈍い音がした。手に硬い振動が伝わる。
男は頭を抱えてその場にうつ伏せにバタッと倒れた。
沙織は角材を建築中の家の方へ投げると、急いで男の横を通り、家の方へ向かって角を曲がった。
数秒は走っただろうか…
沙織は気付いた。
(もし、誰かがあの状況だけを見たら、私が暴漢者???)
だからといって、あそこへ戻る勇気はない。携帯を取り出すと、110番へ電話をかけ、状況を簡単に説明し、来てもらうことにした。
自分は怖いので少し離れた場所で待っています、と言った。
5分ほどして現場についた警察官から『現場に来て欲しい』と電話が入った。沙織はすぐに現場に向かった。
不安はある。もし、殺してしまっていたら取返しがつかない…例え正当防衛や過剰防衛とは言えども…
角を曲がると2人の若い警官が立っている。
「本条さんですか?」
一人の警官が尋ねる。
「えっ あっ、はっ、はい…」
「ここですか?あなたがおっしゃっていた場所は?」
警官は立っている辺りを指さした。
「ええ、えっ…」
でもそこには…
誰もいない…
誰も倒れていない…
何もなかったかのように普通のアスファルトだ…
自分が投げ捨てた角材が嘘や夢でないことを証明している。
「あなたが誰かに襲われて、ここまで逃げて、角材で対抗したんですよね」
「そうです。その角材がこれです」
沙織は転がっている角材を指さした。それから、1時間ほど事件の状況を説明した。
話の途中で、見覚えのある顔かどうか訊かれたが、あの顔ではわからない。
時折、通り過ぎる車や人が何事かとチラ見していく。
一通り話し終えると、
「マズイと思って、男は逃げたんでしょうね」
警官は簡単に結論づけてしまった。
しかし、沙織は納得がいかなかった。
(突きと面の両方を無防備の状態でくらって、すぐに起き上がって逃げられるわけがない…大けがを負ってもおかしくない状況…いや死んでもおかしくない状況なのに…でも、人が忽然と消えるわけないわ…)
後から来た鑑識課の警官が角材を持ち帰って、犯人の痕跡を調べてみることになった。
本条沙織 無事。
17章 アバターとの戦い 完 続く
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