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11章 拘置所内の出来事
死なない死刑囚の恐怖
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朝の9時を過ぎた頃、熊野は署内から福崎の携帯に電話をかけた。暫くコール音が続くが、電話は繋がらない。勤務中なのだろう…1時間ほどしてかけ直したが、やはりコール音がなるばかりだ。折り返しの電話がかかってきたのは11時を過ぎた頃だった。
「電話に出られなくてすみませんでした」
福崎の声の感じからして、慌ただしさのような気配が感じとれる。
「何かあったのですか?」
「ええ。少し、バタバタとしておりまして…」
「佐伯の件ですか?」
「いえ、そうではないんです」
「そうですか…お忙しいところ恐縮ですが、福崎さんが先日、おっしゃっていた佐伯の表情はどんな感じですか?何か変化はありましたか?」
「うーん…何かが少しづつ違う気がするのですが、それが何なのかわかりません。他の刑務官も同じようなことを言っていますが、具体的に何というわけではなく、薄笑いを浮かべている表情ですら、私が勝手にそう思っているだけかもしれません…ただ、刑務官全員が何か不穏な気配を感じて怖がっているのは間違いないですね。」
「そうですか…」
一呼吸おいて、福崎がボソリと言った。
「そのせいか、若い刑務官が昨夜自殺したんです。それでバタバタしておりまして…」
「自殺ですか…それは大変ですね…」
「ええ、ここは独身者用の寮が併設されているのですが、昨夜、夜勤の休憩から業務に戻らないので、探していたら自室で首を吊っていたそうです。で、その刑務官というのが、佐伯死刑囚の刑の執行の際、落下ボタンを押した一人なんです」
「なんですって!じゃぁ、又犠牲者が増えたってことですか?」
「私も最初はそうかとびっくりさせられましたが、これは間違いなく自殺のようです。遺書も書かれていたようですし…ここ数日、様子が変だったそうですし…」
「差支えなければ、遺書はどのような内容だったのでしょうか?」
「私も直接読んだ訳ではありませんが、
『あの日以来、佐伯死刑囚の幻覚を夜な夜な見るようになってしまった…これは夢ではない…間違いなく現実だ…もう、恐ろしくて耐えきれない…』
そんな内容だったそうです」
熊野は携帯電話を握ったまま戦慄を覚えた。
(ヤツだ!アバターだ!ヤツが現れたんだ。しかし、なぜターゲットが彼なんだ。狙うならもっと恨みのある人間も居ように…裁判官、検察官、裁判員、捜査に関わった刑事など…)
だが熊野は日記の文言を思い出した。
アバターの得たエネルギーは本人に反映されること。
もしかしたら、若い人間ほど、得られるエネルギーが大きいということではないのか…
だとすると、佐伯の回復は意外と早いかもしれない。
もし、佐伯が復活したらどうなるのか…
普通の人間として復活するのか…あるいは…
『彼には悪いことをした…』
あの学者先生が最後に記した言葉だ…
何か関係があるのだろうか…
そしてアバターはいったい何人の犠牲者を出せば気が済むのだろうか…
もはや一刻の猶予もない。
熊野は日記の内容を話す為、福崎と会う約束をした。
刑務官A 享年27歳
11章 拘置所内の出来事 完 続く
「電話に出られなくてすみませんでした」
福崎の声の感じからして、慌ただしさのような気配が感じとれる。
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「ええ。少し、バタバタとしておりまして…」
「佐伯の件ですか?」
「いえ、そうではないんです」
「そうですか…お忙しいところ恐縮ですが、福崎さんが先日、おっしゃっていた佐伯の表情はどんな感じですか?何か変化はありましたか?」
「うーん…何かが少しづつ違う気がするのですが、それが何なのかわかりません。他の刑務官も同じようなことを言っていますが、具体的に何というわけではなく、薄笑いを浮かべている表情ですら、私が勝手にそう思っているだけかもしれません…ただ、刑務官全員が何か不穏な気配を感じて怖がっているのは間違いないですね。」
「そうですか…」
一呼吸おいて、福崎がボソリと言った。
「そのせいか、若い刑務官が昨夜自殺したんです。それでバタバタしておりまして…」
「自殺ですか…それは大変ですね…」
「ええ、ここは独身者用の寮が併設されているのですが、昨夜、夜勤の休憩から業務に戻らないので、探していたら自室で首を吊っていたそうです。で、その刑務官というのが、佐伯死刑囚の刑の執行の際、落下ボタンを押した一人なんです」
「なんですって!じゃぁ、又犠牲者が増えたってことですか?」
「私も最初はそうかとびっくりさせられましたが、これは間違いなく自殺のようです。遺書も書かれていたようですし…ここ数日、様子が変だったそうですし…」
「差支えなければ、遺書はどのような内容だったのでしょうか?」
「私も直接読んだ訳ではありませんが、
『あの日以来、佐伯死刑囚の幻覚を夜な夜な見るようになってしまった…これは夢ではない…間違いなく現実だ…もう、恐ろしくて耐えきれない…』
そんな内容だったそうです」
熊野は携帯電話を握ったまま戦慄を覚えた。
(ヤツだ!アバターだ!ヤツが現れたんだ。しかし、なぜターゲットが彼なんだ。狙うならもっと恨みのある人間も居ように…裁判官、検察官、裁判員、捜査に関わった刑事など…)
だが熊野は日記の文言を思い出した。
アバターの得たエネルギーは本人に反映されること。
もしかしたら、若い人間ほど、得られるエネルギーが大きいということではないのか…
だとすると、佐伯の回復は意外と早いかもしれない。
もし、佐伯が復活したらどうなるのか…
普通の人間として復活するのか…あるいは…
『彼には悪いことをした…』
あの学者先生が最後に記した言葉だ…
何か関係があるのだろうか…
そしてアバターはいったい何人の犠牲者を出せば気が済むのだろうか…
もはや一刻の猶予もない。
熊野は日記の内容を話す為、福崎と会う約束をした。
刑務官A 享年27歳
11章 拘置所内の出来事 完 続く
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