10 / 30
10章 熊野刑事のつぶやき
死なない死刑囚の恐怖
しおりを挟む
刑の執行から8日が経った。
福崎さんからの連絡はない。そのままなのだろう…薄笑いを浮かべているようだと言っていた表情はどうなったのか?
少なからず気にかかる…
この日の夜、熊野は日記のすべてを読み終えた。思った以上に時間がかかってしまったのは、理解できない部分が多かったせいで、日記の前後を行ったり来たりしながら読み進めていたせいだろう…それでも恐らく半分も理解できていないに違いない。
ただ、最後にまとめとしてある記述の恐ろしさに身体が震えた。何度も何度も最後の日記部分のみを読み返した。最後の記述は帰国する直前に書かれたものだろう…
(なんてことだ…
あの学者先生は何て恐ろしい実験を行っていたんだ…
しかも佐伯はわざわざS国まで行って実験台になっていたとは…
もはやあの事件は単なる強盗殺人じゃない…)
どういう経緯でこの二人が繋がっていたのかは記載されていない。
ただ人工的にアバターを出現させる実験に参加し、その実験は成功したようだ…但し、いくつかの制約や条件があるようだが…
日記の記載によると、
まず、アバターを出現させる為には、本人の身に危機が迫っていること。
本人の意思でアバターを出現させたり、制御することは不可能であること。
アバターは本人の恨みを晴らす為のれっきとした人間であるということ。
アバターは神出鬼没ではあるが、同時に2か所に存在することはないこと。
アバターの得たエネルギーは本人に反映されること。
アバターの消失は本人の危機がある程度回避された場合に限ること。
アバターが存在している限り、本人は死なないこと。但し、本人の損傷がひどい場合はその限りではないこと。これについては未確認のようだが…
アバターの最大の弱点は、アバターが何らかの理由で死んだ場合、本人も死ぬこと。これも未確認のようだ…
そして最後にこう記されていた。
『彼には悪いことをした…私もその責を負うべきなのだろう…』
と…
熊野はノートパソコンからCDを取り出すと、それをケースに収め、パソコンを静かに閉じた。気づくと窓の外は白々と明るくなりかかっている。
(アバターが得たエネルギーとは恐らく、殺害した人間の何かなのだろう…
彼とはおそらく佐伯のことだろう…その責を負うとは、佐伯に殺されても仕方ないことを暗に示唆しているのだろうか…?)
(すこし、事件を整理してみよう…
醍醐さんの話によると、佐伯は事件当日、病気で寝ていたと言っていたらしい。そこでアバターが出現した。彼の知らない場所で。それがあの学者先生の所だった。だから佐伯の指紋が残っていた…しかし、犯人かどうかまではわからない…他からも狙われていた可能性が高いからだ…目的はこのCD…外部にこの情報が洩れるのを恐れたS国からの刺客…学者先生のあの呟きとも符合する…アバターはそれを見ていただけ…という推理も成り立つ…
まぁ、今となっては結論はでない…
問題は、佐伯がこの存在を知っていたかという点…
日記の記述からすると、知らない可能性の方が高い…
だとすると、最後の『彼には悪いことした…』の意味は何なのか…
ただ、アバターが誰かを殺害する度に佐伯本人が復活していく…ということはあり得るのだろう…
その前兆があの薄笑いのような表情なのか…
だとすると、犠牲者は…まだ…でる…
早急に何か手立てを考えなければ…)
(後で福崎さんと連絡をとってみるか…)
熊野はパソコン脇に置いてある携帯を眺めた。
10章 熊野刑事のつぶやき 完 続く
福崎さんからの連絡はない。そのままなのだろう…薄笑いを浮かべているようだと言っていた表情はどうなったのか?
少なからず気にかかる…
この日の夜、熊野は日記のすべてを読み終えた。思った以上に時間がかかってしまったのは、理解できない部分が多かったせいで、日記の前後を行ったり来たりしながら読み進めていたせいだろう…それでも恐らく半分も理解できていないに違いない。
ただ、最後にまとめとしてある記述の恐ろしさに身体が震えた。何度も何度も最後の日記部分のみを読み返した。最後の記述は帰国する直前に書かれたものだろう…
(なんてことだ…
あの学者先生は何て恐ろしい実験を行っていたんだ…
しかも佐伯はわざわざS国まで行って実験台になっていたとは…
もはやあの事件は単なる強盗殺人じゃない…)
どういう経緯でこの二人が繋がっていたのかは記載されていない。
ただ人工的にアバターを出現させる実験に参加し、その実験は成功したようだ…但し、いくつかの制約や条件があるようだが…
日記の記載によると、
まず、アバターを出現させる為には、本人の身に危機が迫っていること。
本人の意思でアバターを出現させたり、制御することは不可能であること。
アバターは本人の恨みを晴らす為のれっきとした人間であるということ。
アバターは神出鬼没ではあるが、同時に2か所に存在することはないこと。
アバターの得たエネルギーは本人に反映されること。
アバターの消失は本人の危機がある程度回避された場合に限ること。
アバターが存在している限り、本人は死なないこと。但し、本人の損傷がひどい場合はその限りではないこと。これについては未確認のようだが…
アバターの最大の弱点は、アバターが何らかの理由で死んだ場合、本人も死ぬこと。これも未確認のようだ…
そして最後にこう記されていた。
『彼には悪いことをした…私もその責を負うべきなのだろう…』
と…
熊野はノートパソコンからCDを取り出すと、それをケースに収め、パソコンを静かに閉じた。気づくと窓の外は白々と明るくなりかかっている。
(アバターが得たエネルギーとは恐らく、殺害した人間の何かなのだろう…
彼とはおそらく佐伯のことだろう…その責を負うとは、佐伯に殺されても仕方ないことを暗に示唆しているのだろうか…?)
(すこし、事件を整理してみよう…
醍醐さんの話によると、佐伯は事件当日、病気で寝ていたと言っていたらしい。そこでアバターが出現した。彼の知らない場所で。それがあの学者先生の所だった。だから佐伯の指紋が残っていた…しかし、犯人かどうかまではわからない…他からも狙われていた可能性が高いからだ…目的はこのCD…外部にこの情報が洩れるのを恐れたS国からの刺客…学者先生のあの呟きとも符合する…アバターはそれを見ていただけ…という推理も成り立つ…
まぁ、今となっては結論はでない…
問題は、佐伯がこの存在を知っていたかという点…
日記の記述からすると、知らない可能性の方が高い…
だとすると、最後の『彼には悪いことした…』の意味は何なのか…
ただ、アバターが誰かを殺害する度に佐伯本人が復活していく…ということはあり得るのだろう…
その前兆があの薄笑いのような表情なのか…
だとすると、犠牲者は…まだ…でる…
早急に何か手立てを考えなければ…)
(後で福崎さんと連絡をとってみるか…)
熊野はパソコン脇に置いてある携帯を眺めた。
10章 熊野刑事のつぶやき 完 続く
3
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
ホラー
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
不動の焔
桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。
「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。
しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。
今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。
過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。
高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。
千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。
本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない
──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。
代償
とろろ
ホラー
山下一郎は、どこにでもいる平凡な工員だった。
彼の唯一の趣味は、古い骨董品店の中を見て回ること。
ある日、彼は謎の本をその店で手に入れる。
それは、望むものなら何でも手に入れることができる本だった。
その本が、導く先にあるものとは...!
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「67」まで済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる