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6章 突きつけられた真実
死なない死刑囚の恐怖
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翌日、熊野は佐伯元死刑囚が収容されていた拘置所を訪ねた。受付で自分は警察官であり、佐伯元死刑囚に関わった刑事2人が、同じ日に亡くなった旨を伝えた。
そして、佐伯元死刑囚のここでの様子を聞きたいと伝えると、
『なんでそんなことを聞きに来るんだ』
と、でも言いたげな表情の若い刑務官に応接室へ案内された。
拘置所と言っても、『房』の中とは違い、6畳ほどのいたって普通の応接室だ。茶色のちょっと固めのソファに腰を下ろす。少しして、ドアがノックされ、一人の年配の刑務官、福崎正敏が入って来た。佐伯に手錠と目隠しをした刑務官だ。
熊野の前のソファに腰を下ろすと被っていた帽子を横に置いた。白髪交じりの短髪だ。
木製のテーブルを挟んで2人が向かい合うようになった。
「佐伯死刑囚の件で何か聞きたいことがあるとか…」
明らかに福崎の態度は迷惑そうに見えた。
「佐伯元死刑囚の刑が執行された日に、つまり一昨日なんですが、その捜査に関わった刑事が2人、亡くなってしまったのです。ニュースでご存じかと思いますが、一昨日の刃物で刑事が刺された事件です」
「ああ、あの事件ですか。では捜査の一環ですか?」
「いえ、私は管轄外ですので、捜査ではありません。亡くなった刑事と同じ署にいたものです。私にいろいろと指導して下さいました。残念でなりません…あくまでもお話を伺いしたいだけです」
「そうですか…で、亡くなられたもう御一方は?」
「佐伯の事件の後、九州に転勤になったようなのですが、登山の最中、崖からの転落死です。事件と事故…東京と九州…単なる偶然だとは思いますが、何となく気になったものですから、お伺いしたしだいです」
「そうですか…」
福崎はその件にはあまり触れられたくないのか、俯く。
熊野は指紋の件を話すべきかどうか迷った。これは捜査に関わることだ。自分の勝手な判断で迂闊な事は言えない。が、重要なことでもある。
「死刑囚の房内での様子を部外者にお話するのはちょっと…」
福崎の態度は相変わらず、はっきりしない。
それに熊野は福崎の言葉に引っ掛かりを感じていた。なぜ、元死刑囚と言わずに死刑囚と言っているのか…すでに刑の執行は終わっているのだから、通常なら元死刑囚と呼ぶべきではないのか…ここではそういう習わしになっているのか…
熊野はやはり指紋の件を話すことにした。
(新しい佐伯元死刑囚の指紋となると、拘置所内から採取された可能性が高い。管轄署も遅かれ早かれ確認しに来るだろう…)
とは言え、他言無用の条件で話し始めた。
黙って話を聞いていた福崎の表情が、だんだんと青ざめていくのがわかった。手も少し震えている感じだ。
それも不思議に感じた。確かに不可思議な偶然ではあるが、刑務官が青ざめるほどの話ではないはずだ。
熊野が話終えると、今度は福崎が他言無用ということで、現在の事態を話し始めた。やはり、微かに手先が震えているのが腕の動きでわかる。
「えっ! まだ死んでない…?どういうことです?」
熊野は身を乗り出さんばかりに言った。
「まだ刑の執行中なんです…」
だから元死刑囚ではなく、死刑囚なのか、とそのことは納得した。
「そんなバカなことが起こりますか?」
「正直、私たちもどうしていいのか困惑しています…このまま内密でいられるのか…もし、佐伯死刑囚の死亡届が提出されていないことに気づく人物がいたら…こんな事態が世間に知れたらどんな騒ぎになるのか…しかも、刑務医の話によると、心臓の鼓動が弱いながらも安定してきた…と恐ろしいことまで言い出す始末です」
「ホラーかオカルト…か…」
「そうなると、先ほどの熊野さんのお話ですが、2人の死亡が全く関係ないとも言い切れなくなります」
「佐伯が殺したとでも…」
「まさか…でも今現実に信じられないことが起こっていますので…いや…わかりません…」
福崎は下を向き、何度も首を振る。
「やっぱり、あの事件と何か関係があるんでしょうかね?私、少し調べてみようと思います。すべてが終わっている事件ですが、何か気にかかります。本当に単なる強盗殺人だったのか…何かわかったらご連絡します」
熊野が少し立ち上がろうと、腰を浮かしかけると、
「ああ…そういえば…」
福崎は何かを言いかけた。
「はい?」
熊野は再び腰を下ろした。
「い、いや、なんでもありません…私の方も何か進展ありましたら、ご連絡差し上げます」
「そうですか…」
熊野は拘置所を後にした。夕刻には、醍醐の本通夜に参列する予定だ…
霊感など全くない熊野だが、拘置所内から何とも言い知れぬ不気味が漏れてくるのを背中に感じた…
そして、これでは終わらない気配も…
6章 突きつけられた真実 完 続く
そして、佐伯元死刑囚のここでの様子を聞きたいと伝えると、
『なんでそんなことを聞きに来るんだ』
と、でも言いたげな表情の若い刑務官に応接室へ案内された。
拘置所と言っても、『房』の中とは違い、6畳ほどのいたって普通の応接室だ。茶色のちょっと固めのソファに腰を下ろす。少しして、ドアがノックされ、一人の年配の刑務官、福崎正敏が入って来た。佐伯に手錠と目隠しをした刑務官だ。
熊野の前のソファに腰を下ろすと被っていた帽子を横に置いた。白髪交じりの短髪だ。
木製のテーブルを挟んで2人が向かい合うようになった。
「佐伯死刑囚の件で何か聞きたいことがあるとか…」
明らかに福崎の態度は迷惑そうに見えた。
「佐伯元死刑囚の刑が執行された日に、つまり一昨日なんですが、その捜査に関わった刑事が2人、亡くなってしまったのです。ニュースでご存じかと思いますが、一昨日の刃物で刑事が刺された事件です」
「ああ、あの事件ですか。では捜査の一環ですか?」
「いえ、私は管轄外ですので、捜査ではありません。亡くなった刑事と同じ署にいたものです。私にいろいろと指導して下さいました。残念でなりません…あくまでもお話を伺いしたいだけです」
「そうですか…で、亡くなられたもう御一方は?」
「佐伯の事件の後、九州に転勤になったようなのですが、登山の最中、崖からの転落死です。事件と事故…東京と九州…単なる偶然だとは思いますが、何となく気になったものですから、お伺いしたしだいです」
「そうですか…」
福崎はその件にはあまり触れられたくないのか、俯く。
熊野は指紋の件を話すべきかどうか迷った。これは捜査に関わることだ。自分の勝手な判断で迂闊な事は言えない。が、重要なことでもある。
「死刑囚の房内での様子を部外者にお話するのはちょっと…」
福崎の態度は相変わらず、はっきりしない。
それに熊野は福崎の言葉に引っ掛かりを感じていた。なぜ、元死刑囚と言わずに死刑囚と言っているのか…すでに刑の執行は終わっているのだから、通常なら元死刑囚と呼ぶべきではないのか…ここではそういう習わしになっているのか…
熊野はやはり指紋の件を話すことにした。
(新しい佐伯元死刑囚の指紋となると、拘置所内から採取された可能性が高い。管轄署も遅かれ早かれ確認しに来るだろう…)
とは言え、他言無用の条件で話し始めた。
黙って話を聞いていた福崎の表情が、だんだんと青ざめていくのがわかった。手も少し震えている感じだ。
それも不思議に感じた。確かに不可思議な偶然ではあるが、刑務官が青ざめるほどの話ではないはずだ。
熊野が話終えると、今度は福崎が他言無用ということで、現在の事態を話し始めた。やはり、微かに手先が震えているのが腕の動きでわかる。
「えっ! まだ死んでない…?どういうことです?」
熊野は身を乗り出さんばかりに言った。
「まだ刑の執行中なんです…」
だから元死刑囚ではなく、死刑囚なのか、とそのことは納得した。
「そんなバカなことが起こりますか?」
「正直、私たちもどうしていいのか困惑しています…このまま内密でいられるのか…もし、佐伯死刑囚の死亡届が提出されていないことに気づく人物がいたら…こんな事態が世間に知れたらどんな騒ぎになるのか…しかも、刑務医の話によると、心臓の鼓動が弱いながらも安定してきた…と恐ろしいことまで言い出す始末です」
「ホラーかオカルト…か…」
「そうなると、先ほどの熊野さんのお話ですが、2人の死亡が全く関係ないとも言い切れなくなります」
「佐伯が殺したとでも…」
「まさか…でも今現実に信じられないことが起こっていますので…いや…わかりません…」
福崎は下を向き、何度も首を振る。
「やっぱり、あの事件と何か関係があるんでしょうかね?私、少し調べてみようと思います。すべてが終わっている事件ですが、何か気にかかります。本当に単なる強盗殺人だったのか…何かわかったらご連絡します」
熊野が少し立ち上がろうと、腰を浮かしかけると、
「ああ…そういえば…」
福崎は何かを言いかけた。
「はい?」
熊野は再び腰を下ろした。
「い、いや、なんでもありません…私の方も何か進展ありましたら、ご連絡差し上げます」
「そうですか…」
熊野は拘置所を後にした。夕刻には、醍醐の本通夜に参列する予定だ…
霊感など全くない熊野だが、拘置所内から何とも言い知れぬ不気味が漏れてくるのを背中に感じた…
そして、これでは終わらない気配も…
6章 突きつけられた真実 完 続く
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